第22話 告白 1

 告白当日。


 今日は咲に起こされることなく自分で起きた。

 早めに起きたのは、緊張のあまりだ。


「あー! 恥ずかしい恥ずかしい! 告白といってもどのタイミングで……。…………やっぱり、放課後とかの方がいいのか?」


 暁月は告白のタイミングを考えていた。

「流石に朝は振られた時、一日メンタルヘロヘロのまま過ごすことになるからやめた方がいいと思うし……」


 純愛モノの小説なら、告白はロマンチックな場所でしているが、近所にそんな場所はない。

 暁月の住んでいる地域は海と面しているわけではないし、お洒落なレストランもない。


 ただ一つ、悪くはない場所が学校だった。といっても、屋上は解放されていないので教室しかない。

 だから、教室でいつ告白しようかを悩んでいる。


「──おにーちゃん。さっきからうるさい!」

 そこへ突然、茜が乱入してきた。


「あ、ごめん。もう起きてたのか……まだ五時ななのに」

「当たり前じゃん。まぁ、今日はさっき起きたばっかりだけど」

 茜は暁月よりも起きるのが遅かったことに、敗北感を味わっているようだった。


「せっかく寝てたのに起こしてごめんな、今日は大事な予定があるんだよ」


「瑞紗に告白する予定?」


「そうなんだよ……ん? 今なんて?」


「あれ、ちがうの? うち、てっきり告白するのかと思った」


 あれ、どうして茜はそれを知っているんだろう。教えた覚えもないし、聞かれた訳でもないはずだ。

 だかまあ、暁月は嘘をつくのが下手なのでバレていてもおかしくはない……のか?


「一体いつ知ったんだ?」


「んー。結構前」


 結構って、どれくらいだよ。

 一週間前くらいだろうか。それとも、瑞紗の為の小説を書き始めた辺りからだろうか。


「そうか。……茜だったらいつ告白するのがいいと思う?」


 茜は家族だし、暁月を抜きにしても瑞紗の親友と言えるほどの仲だ。そんな茜にだからこそ、瑞紗の一番告白されたいタイミングも知っているかもしれない。

 そう思って尋ねた。


 茜から返ってきた返事は意外と冷淡としていた。


「んー……おにーちゃんがしたい時でいーんじゃない?」


「こっちは真面目なのに、もう少しヒントくれないのか?」


「ヒントって言ってももうすでに──。まあ、出来るだけ早い方がいーんじゃない?」


「早い方がいい、か。そうだよな。想いは少しでも早く伝えるべきだ! ありがとう茜!」


「……どういたしまして。じゃあうちは朝ごはん作ってくる」


「ああ、分かった」


 そういうと、茜は部屋の扉を閉めた。



「全く、おにーちゃんも瑞紗も見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうよ……どうせ好きなんだから、早く付き合っちゃえばいいのに」


 一階にあるキッチンで朝食を作っていた茜は、ボソッと呟いた。

 茜は暁月と瑞紗の関係の行方を知っている。そのほとんどは瑞紗が話してくれたのだが、暁月の様子を観察するだけですぐに分かる。


 暁月は本当に表に出やすい。それがいい所でもあるのだが、それは悪いことにも繋がるので気をつけた方がいいと思う。

 家事だってろくに出来ないのだから、そういう所をしっかりしないと将来大変だろう。


「……! なんでうちがおにーちゃんの心配なんかしなくちゃいけないの! うちにも色々あるんだから、人の心配している暇はないの」


 でも、どうしてか暁月を放っておけない自分がどこかに存在したのだ。


「大体、いつ告白すればいい? なんて妹に聞く兄がどこにいるですかー。そんなの、おにーちゃんの気持ちが本気なら瑞紗は必ずOKするんだから」


 茜は、ため息をつく。

 少し、本当に少しだが、悔しい気持ちもあったからだ。


 別に暁月を恋愛視していたわけではなく、妹としてもっと可愛がって欲しいというのが本音だった。

 ただ、茜はどうやらその辺が上手く表現出来ないらしく、暁月は茜に対して妹というより悪魔かなにかに見ているような気がする。


「これじゃあまるで、振られた女の子みたいじゃん。うちは違う。妹として、もっとこう、おにーちゃんをサポートしてあげたいだけなんだから」


 あくまでも妹として、兄をサポートしているだけだ。何も問題はない。


 本当に問題なのか、茜ではなく暁月だ。今日は平日。特に何かの記念日なわけでもない。それにもかかわらずどうして今日を選んだのだろうか。


「……考えても意味ないか。きっと、特別な日とか関係ないから」


 暁月はきっと、昨日のうちに決めたのだろう。でなければ、突然こんなことを言い出すわけがないわけで。それについて首を突っ込む気は全くない。

 茜がすることは、陰で応援することだけだ。



 ──おにーちゃんと瑞紗が幸せになりますように

 茜は暁月の弁当を作りながら、神に願った。

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