第12話 忙しい日曜日 2

「おにーちゃん、こっち手伝ってー」

「暁月ー。これってどこに置けばいいのー?」

「…………」

 昼食を食べ終えたら、少し休憩を挟んでから直ぐに作業に取り掛かった。作業とはいっても、茜たちの言われるままに動いているだけだ。


 茜たちといってもずっと茜と咲が仕切っている。智乃は黙々と本や雑誌を整理──ただ読んでいるようにも見えるが──している。


 今日やることは大きく分けて三つある。

 一つ目は空き部屋の掃除だ。そこは今まで物置としてごちゃごちゃとしていたが、前に片付けたのである程度は綺麗になっている。それでも殆ど放置状態てあったため、多少埃がついていても可笑しくはない。そこを掃除して咲と智乃の新しい部屋にするのだ。


 二つ目に咲と智乃の寝室──主に──になる空き部屋に、敷布団やタンスなどの必要最低限の家具を設置することだ。敷布団は元々家にあったのでそれを使うことにする。

 今、使っていないタンスはこの家にはないので、昨日買いに行ったのだが、流石に徒歩で持って帰るには厳しいので、今日届けてもらうことにしていた。それももう──暁月が寝ている間に届いたらしい。


 三つ目のこれは、茜と暁月が二人で行う予定だ。理由は、両親の部屋の整頓だからだ。別に隠すことはないが、整頓するなら暁月と茜が二人でした方が効率がいいからだ。咲と智乃には二人の部屋の整頓をしなくてはいけないという理由もあるが。これは最後にすることになっている。

 暁月は片付けると聞いた時、両親の部屋を──ダブルベットもあるので──そのまま咲たちが使えるように片付ける、ということかと思っていたがどうやら新しく別室を片付ける、という意味だったらしい。


 暁月は現在、空き部屋に家具を移動させている──もう掃除は終わった──。といってもそこまで多くないので苦労する程でもない。今日届いたタンスや、居間の押し入れに仕舞っている敷布団ら、を二階の奥の部屋──茜の部屋の隣にあたる──まで運ぶ。

 家具を部屋内まで運び終えると、咲が中心となってレイアウトしているため、暁月の仕事は力仕事だけだ。


 そこで暁月はふと、幼いとはいえ女の子の部屋になるのだから入るのは躊躇した方がいいのだろうか、と疑問が浮かんだ。

 以前、茜の部屋に漫画を借りようと入った時、盛大に怒鳴られた。兄妹だから別にいいだろうとは思ったが、その時は暁月が素直に謝ることで解決した。


 だからこそ、こういうことには少し気を配ることにしているのだ。しかし、咲と智乃が暁月にそんな態度を示すようには見え──。

 暁月は脳内で、二人の部屋に入った場合のことをシミュレートしてみる。

 ──うん。咲からはなにかしら絶対言われる気がする。細心の注意が必要だな。

 暁月には、咲と智乃が茜に言いつけて茜に変態扱いされるところまでイメージできた。

 茜のみならず咲や智乃にまでそんなことを言われてしまったら、家出してしまうかもしれない。そんなことになったら、三人は心配して探しに来てくれるだろうか。そんなありそうで想像で終わってほしい未来を思い描くうちに、当初の目標は二つ達成出来た。


 暁月と茜は最後に両親の部屋の整頓をしつつ、断捨離していく。

 咲と智乃の話し声が遠くから聞こえてくる。普段なら両親の部屋にいる暁月に咲たちの声が聞こえることは絶対にありえないが、今日は喚起の意味も兼ねて扉と窓を前回にしている。そのためかなり風通しがいい。例え猛暑日であっても風さえあれば、クーラーなしでも暮らしていける──二階に限る──だろう。


「おにーちゃん。ぼーっとしてないで早く手動かして。掃除って結構疲れるんだから」

「……あ、ごめんごめん。ちゃんと動かします」

 暁月は少しの時間ぼーっとしていた。何か突っかかるものがあるからだ。喉に、という訳ではなく、とちらかといえば頭に、だ。

「まぁ、お母さんたちの部屋は元々大事なもの以外はないから掃除するだけでいいから楽なんだけど」

 しかし、突っかかっている気がする。ただそれだけだったので、暁月は掃除に専念する。

 両親の部屋に埃があるとすれば、ベットの下くらいなのだが押し入れの中を開けるとは少し勇気がいる。

 そして、押し入れを開けた勇者──茜は、中を見てま眉を顰めた。


 茜がそういった表情を浮かべるのもわかる。何故なら、小物からある程度大きいものまでごちゃ混ぜになって敷き詰められているからだ。

 母は部屋を綺麗にすることは出来るが、断捨離が出来ない人だった。だから、捨てられずにいるキーホルダーやバッグを押し入れに仕舞い込んでいった結果がこれだ。

 父は母とは真反対で、何も手にしようとしなかった。無関心、なのか物に対する関心が少ない人だった。

 そんな夫婦であるために、物がどんどん奥底に眠ってしまったのだ。

 それでも、時間が出来たら茜と二人で少しずつ捨てていったので最初の頃に比べたら全然マシだ。

「……はぁ、今日はもう疲れたし、これ以上はもういっかー」

 茜は大きくため息を吐いた。

「そうだな、もう四時近いし、今日はもう終わるか。──あ、今日の夜って何作るんだ?」

「んー、何も考えてないけどあるもので済ませる。……何か食べたい?」

「いや、特にないな。あ、魚以外で……」

「ん。おっけー。じゃあ、手洗ってくるー」

 茜はスタスタと部屋を出ていった。遅れて暁月も部屋から出ようとした時──。


 ──部屋の窓から一通の手紙が入ってきた。

 それは、丁度、暁月が出ていく所を見計らって飛ばしたかのように視界に入り込んできた。それは暁月宛の手紙だということを教えてくれているようだった。

 その手紙はピンクの封筒でリボンのシールで留めてある。何かのイタズラなのだろうか、それとも別の何かなのか。暁月にはそれは分からない。

 ──これ、開けても大丈夫、だよね? 爆発とかしないよね。

 若干警戒しつつ、そんなことは有り得ないだろうと思い開封する。出来るだけ傷がつかないように、丁寧にシールを剥がしていく。

 完全に開け終わり、暁月は中の手紙を取り出す。

 中からは、白い便箋が二つ折りになって入ってあった。

 暁月はそれを取り出すとゆっくりと開いた。

 手紙にはこう書かれていた。


 ──あの子たちをよろしく頼む

 と。

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