第5話 新たな出会い 1
暁の朝は慌ただしい。冬場なんかは特に。それは、単純にやることが多いというのもある。が、もう一つの最大の理由が──
「おにーちゃん! 朝だよー? 起きる時間だよー?」
これだった。
「土曜の朝早くに起こすなよ。僕はまだ眠いんだから」
現在時刻は六時半。平日なら学校があるためとっくに起きているが、休日は別だ。早くて八時、遅くて午前中は睡眠で消える。
そんな暁を起こしに来たのは、暁の妹──
平日休日問わず、起こしに来る茜は正直ウザイがそんなこと言えるはずがない。
茜が居なければ、暁は毎日学校に遅刻することになるからだ。ちなみに、別に起きられない訳では無い。
ただ、小説──正確には元カノの瑞紗への想い──を書くようになってから夜遅くまで起きている。
まぁ、暁がもうちょっと男らしければ別れることも小説を書くこともなくて済んだ話だ。だがもう、暁は小説家になることを本気で志望している。
だから、進学先も専門学校へ行くつもりでいる。
喜ばしいことなのか、悲しむべきなのか、暁の気持ち次第だが皮肉なものだ。振られたことで将来の夢を見つけたのだから。
「おにーちゃん、今日みーとデート何じゃないの?」
暁は頭の上にクエスチョンマークを浮かべるが、直ぐに茜の言ったことを理解した。因みにみーというのら瑞紗のことである。暁は幼少期からずっとこのあだ名で呼んでいる。
「そうだった!!」
今日は瑞紗とデート──ではなく、ただショッピングモールへ買い物に行く予定があった。ついいつものように叱ってしまったことを後悔する。
授業で使う教材が必要なのだが、暁は人混みが苦手ということで瑞紗が一緒に行こうと誘ってくれたのだ。そのことを茜に伝えたら、茜も行きたいと言い出した。それを瑞紗に了承されてしまった。
瑞紗は昔からの幼馴染だが、それはつまり茜の幼馴染でもあるということだ。だから、茜と瑞紗の間で特別な友好関係があっても可笑しくはないが、振られた兄の妹と元カノが仲良くしていると、嫉妬に似た感情が込み上げてくる。
今はもう恋人でもないが、未だに暁は片思いをしているため、ただ買い物に行くだけでもつい心を踊らせてしまう。
「はぁ、まだ時間はあるから。ゆっくり準備して」
妹はそう言って暁の部屋から出ていった。中々優しいんだなと感心しながら、ベットから体を起こしてタンスへと向かう。
タンスを開けた暁は苦悩していた。
「どんな服を着よう」
ぶっちゃけ暁には、ファッションセンスがない。それもそのはず、暁は全てにおけるセンスがない。
考え方が一般的とは違うと言えばセンスがないわけではないのだろうが、『SOCIAL DISTANCE』ってなんかかっこいいよね! なんて言われても反応に困るだけだ。
暁はセンスがない。だからこそ、暁は服装の組み合わせなんかが理解出来るはずがない。そこで暁の持ち出した答えは、
「いやぁ、やっぱジャージが一番いいなー。風通しもいいし、ジーンズと比べて履きやすくて脱ぎやすい。更には、上下セットであるためセンスなどは関係ない! まさに最高のファッションだ」
上下セットになっているジャージを着ることだった。全体的に黒を基調とし、手首から首周りにかけて金の刺繍が施されている。
暁にとっての一番のお気に入りだった。
ふんふんと鼻歌を歌いながら、階段を降りリビングへと向かった。扉を開けると当然茜の姿があった。
しかし、茜以外には誰もいない。では他の家族は他の部屋に居るのかというとそういうわけじゃない。ちゃんと両親はいる。いるが、どちらも仕事が忙しくて家に戻ってくることは少ない。母は全国──時には世界──各地を飛びまわりながら、歌を届けている。時々テレビに出ることだってある。父はそのマネージャー的な役割で母と一緒にいる為、どちらもいない。
毎月決まった日に仕送りがあるため、生活に困ることはないが、家事を今までしてこなかった暁にとっては厳しい日々だった。
朝は朝食の準備、そして学校。帰ってきたら夕飯の準備、お風呂の準備、洗濯とやることが多い。休日は掃除もしなければならない。
まぁ、その殆どが茜に任せている。別に暁がそうしろと言ったわけではない。寧ろ自分から進んでしようとしている。にも関わらず、何故かするなと言われてしまった。
本当によく分からなかった。
そんなことはさておき、暁は朝食の準備を手伝う。今日は──“いつも”の間違いだ──茜が食事の準備をしていた。ご飯に目玉焼き。味噌汁といった朝食っぽい朝食だ。更に茜の料理はお世辞抜きでもかなり美味い。ただ、卵を割っただけの料理なのにも関わらず、暁の作った目玉焼きとは段違いだ。
以前、暁が作った時には何故かそこが焦げていた。暁自信食べれるなら問題はないので、構わないのだが、茜は食べてくれなかったのが少し残念だ。
そんなことを言っているうちに、朝食の支度が終わった。
茜が盛り付けたものを暁がテーブルに運ぶ。それが、朝のルーティーンだ。
二人は食卓に着くと、ほぼ同時に手を合わせる。そして、
「いただきます!」
ここまでが本当のルーティーンだ。
食事を終わらせると、暁は歯を磨き、ショッピングの支度を始める。
持ち物は、携帯、財布くらいだ。出掛けるにしては少ないのかもしれないが、他に必要だとは思わなかった。
現在の時刻は八時少し前。瑞紗とは家が隣のため、八時過ぎに家に迎えに来てくれるそうだ。
少しでも、待たせるわけには行かないので暁は茜に声を掛けながら、玄関へと移る。
「茜。そろそろ行くぞー。来ないと置いていくからなー」
途端に、ドタドタと階段を降りてくる音が聞こえた。
「ちょっと待って! 置いてかないで!!」
「そんなに慌てなくても、置いていかないよ」
ちょっと揶揄っただけでこの慌てようだ。とても、中学生だとは思えない。
まぁ、そこが茜の可愛いところでもあるのだが。
※僕はロリコンじゃないぞ!
先に玄関の扉を開けた暁は直射日光に目を覆った。ようやく視界になれた頃、目の前に可憐な少女たちがいた。少女は二人とも佐藤家の玄関ポーチの階段になっている部分に寝込んでいた。年齢は多分、小学生高学年辺りだろうか。
暁は一瞬ホームレスかと思ったが、服装を見るにそれはないと確信する。だとしたらなんなのか、
「え? 誰、この子達……」
本当に謎だった。どうしてこんな所にいるのか。保護者はどうしているのか。次々に疑問が浮かんでくる。
そこに遅れて玄関から出てきた茜も驚いているようだった。
「おにーちゃん……いつ誘拐してきたの?」
普段の茜とは思えない声の低さと軽蔑するような表情で暁のことを睨んでいた。
「僕がそんな事するわけないだろ!」
慌てふためいた暁は急いで反論する。そこではっとする。こんな大袈裟に否定しては逆に疑いの目を掛けられるかと思いきや、案外素直だった。
「それもそっか、おにーちゃんにそんな度胸があれば振られなかったかもしれないしね」
「ぐっ……」
いや、素直すぎた。
誘拐の誤解は解けたのに、何故か心に刺さった棘は抜けなかった。
そして、そこに棘を刺した人物が登場した。
「暁くん、茜。ごめん、待たせ──」
歩きながら、暁に近寄った瑞紗は途中で口を閉ざした。そして、またもや軽蔑するような目で暁を見た。
「暁くん、そういうことをする人だとは思わなかった。」
直後、暁はショックのあまり気絶した。
茜から本気で「ダサっ」と言われたことを既に暁は聴こえていなかった。
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