第2話 転生

 食事を終えたふたりは、出発の準備をし終わり、セレネの声と共に玄関の扉を開けた。


「さぁ、最終試験もサクッと終わらせるわよー! レッツゴー!」

「……ごー」


 ふたりはいつもと変わらずに、試験会場へと足を運んだ。

 まだ、神になっていないものの、見習い神の中でもかなり優秀なふたりはかなり遠く離れている場所でも、瞬く間に辿り着くことが出来る。


 セレネは、全能の神なだけあってその身体能力は抜群。セレネの瞬発力を人間界で例えるなら、台風あたりだろうか? もし本当ならかなりの速度だ。


 アルテナの場合は、単純な身体能力のみをセレネと比べると天地の差があるが、見た目に近い年齢──神に年齢はないが──の人間の女性というより少女と比べると、下の上くらいであるが、アルテナほど知力に長けた者は神の中でも数名しかいない。セレネの走った際に生じる風巻しまきを上手く利用して進んでいる。


 そうして、二人は難なく、試験会場まで到着した。



 そこには、ある男が待ち構えていた。見た目は怖そうな優しいような、人によって捉え方が変わってくる顔をしている。全体的にでかく、ゴツゴツとしていそうな感じだ。しかし、嫌な感じはせず、むしろ鍛えられた筋肉を見れば好印象だろう。

 服装は、顔には似合わないような波千鳥の和服を着ている。それでも、似合っていない訳では無いのでなんとも絶妙な気分になる。


 この人こそ、セレネとアルテナが神になるため色々と教えてくれた神、つまるところ恩師である。


「おーい! ししょー!」


 セレネは、恩師相手とは思えない口調で師匠──統一神カムイに挨拶をする。


「おはよう御座います。先生」

 遅れて、アルテナが挨拶をする。


 カムイは、軽く返しながら直ぐに本題へと入った。


「おう、ふたりともおはよう。これから行う試験がなにかは今更言う必要はないよな? それでももう一度確認のために言うぞ。」


 ふたりは、喋らずに首を縦に振った。これは、ふたりが真剣だということの表れだった。


「これから行う試験は、これまでとは違う。どんなに優秀だろうがなかろうが、時間がかかる者はかかるし、早い者は早い。つまり、これまで優秀と評価されて来たお前たちでも、この試験をクリア出来ないかもしれん。だが、オレの自慢の弟子だ。無事に成し遂げることを祈っている」


 カムイの言葉はとても優しい音をしていた。この声を聴けば、誰もが安心感に包まれるだろう。


「「はい!!」」


 ふたりは息の揃った返事をした。いつもは刺々しい会話ばかりするふたりが急にここまで合わせることが出来るのは、双子だからということもあると思うが、きっと本来仲がいいのだろう。


「よし、気合いは十分にあるようだな。では、最終試験“人の世界で暮らす”について詳しく話す。と言っても文字通り人の世界で暮らしてもらう訳だが、ふたりにはまず人間として転生してもらう」


「にんげん、ですか?」

 アルテナは、眉を潜めた。


「どうしたアルテナ? 人間が嫌いか?」

 アルテナの表情に気づいたカムイはアルテナに優しく問いかける。


「いえ、そんなことはありませんが」

「なんだ? 質問があるならいいぞ」

「……人間の世界は神々が創り出したものであり、人間はカムイ先生がお創りになったもの。なら、カムイ先生は本来崇められるべき存在です。なのに人間は崇めるどころか神の存在すら信じている人物すら居ません。天罰を下すべきです」


 カムイは、参ったな、という表情を浮かべた。アルテナの言うことは正しかったからだ。本来自分たちを創造した者に対しては一生の敬意をしてすべきであり、尽くすべきなのだ。


 しかし、それはあくまで神々の常識であり、実際に創造された者たちがどう考えるかは考慮されていない。

 みなそう考えているものたちが多かった。しかし何故か、は人間を自分たちと同等の存在と考えているようだった。


 アルテナも例外ではない。


「そうだなぁ、なんて言えばいいか。確かにそうかもしれないな。でもなアルテナ、人間たちにも感情があるんだ。お前には少し理解しにくいかもしれないが、それは自分の目で見てきて欲しい。そのためにこの試験があるんだからな」


「……わかりました」

 納得はしていないようだが、それを知るための試験なら、試験を受ければ答えが分かると解釈し、渋々納得した。

「でも先生、ならどうして人間を創ったんですか?」

「ん? そんなの簡単だろ。寂しいからさ」


 カムイの言葉には、文字通りの寂しい気持ちともうひとつ──悲しい気持ちが含まれていることには気づいていた。




 最終試験“人の世界で暮らす”のクリア条件は、受ける見習い神全員が違うため伝えられていない。

 自らの力で導き出すことが鍵となるからだ。


 人間として転生した際ある年齢──神によって異なるが──に達した時に自分が見習い神であり、修業をしていることに気が付くようになっている。そして、思い出した時には一人前の人間になったということなので、自立のために育てた家族から記憶は消され自分の力で生きていくこととなる。つまり、大抵が十八歳以上になって思い出すことが多い。


さらに、この試験では禁止事項がいくつかある。

 仮にそれを破ったからといって特別な罰則がある訳ではないが、試験が長引く原因となる。


 禁止事項──これは自分が神だと思い出した際のみ該当する

 ⒈自分が神であること──またはそう思われるような素振り──を人間に話してはいけない。

 ⒉自分が神だからといって、人間を下に見てはいけない

 ⒊神としての力を私利私欲のために使ってはいけない

 ⒋己が人間であることを忘れず、人間らしく生きること

 ⒌

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