僕の天使。
どこかの大学生
第1話 プロローグ
その日も、いつも通りの夜空が広がっていた。雲ひとつなく、辺り一面が星空でいっぱいだった。星座に詳しい人なら、夏の大三角形を見つけられたのかもしれない。
下を見下ろすと、たくさんの民家が集まっており、所々に公園やコンビニなどの公共施設が点々と設けられてある。
その内の一軒家で、佐藤
耳を澄ませると、野鳥の鳴き声や風の流れる音はどんなに耳を澄ませても人間の耳で捉えることは出来ないほどに凪いでいた。
ここまで静かな夜を眺めていると、今でこそ当たり前であっても、日本は平和だな、と今の平和な日本を創り出した先人とそれを維持し続ける総理大臣やその他機関がありがたく思う。
こうして考えてみると、今の世界を創り出した先人たちは、本当に凄いのだと実感する。世界には言語の違う人もいれば、肌の色が違う人たちが多くいる。昔は、特に差別などに厳しく、戦争・紛争が日常茶飯事となっている中で、いつしか話し合いで解決するようになったのだから。
しかしそう思う反面、もし○○だったらよかった、なんて考える行為は愚か者のすることなんだろう。だとしても、どうしても思ってしまう。
──どうして、こんなに平和なのだろうか。
と。
確かに平和に越したことはないのだろう。それはきっとそうなのだと思う。それに、日本は平和だと言っても、日本以外の国では未だに紛争が起こっている。
国内でも、大きな争いはなくても、様々な問題を抱えている。そうした問題を解決するべく、たくさんの人が働いている。
これは素晴らしいことなんだ。世の中を平和にするためにしていることなんだ。でも、
(僕は平和が嫌いだった。)
正確に言えば、平和すぎて生きた心地がしなかった。これを、聴いた大半の人間は暁を何か精神的な障害を患っているのではないかと心配するだろう。若しくは、何を馬鹿なことを言っているんだと憤りを隠せなくなるはずだ。
もし、平和じゃなかったら?
もし、危険と共に生きる環境で生きることになったら?
例えばの話、この世界にあるウイルスが撒き散らされることになって、どんどん人が感染して人を喰らう化け物になっていくとする。
そんな中生きるのは大変だし、むしろ神様に死ぬことを乞う人も出てくるのだと思う。
そうした苛酷な環境の中を生きていくというのは僕にとって素晴らしいものに感じた。
だからどうしても思ってしまう。
──どうしてこんなに、平和なのだろうか。
それと同時に、願った。誰に願うかはいうまでもなく、神だ。
僕は神様に願った。
「この平和な日本を──」
いや、これでは多くの人が被害に遭うことになってしまう。それはダメだ。この世界に一切の不満を抱かずと言えば嘘になるが、それでも生きている人に対してそれは失礼というものだ。
これは一種の逃げなのだから。
今まで自分が努力をして頑張ってきたのに、それを努力もしない人間に抜け駆けされたら誰だってムカつく。
だったら──
「この平和で平凡な僕の人生を、何でもいいので満たしてください!」
•*¨*•.¸¸☆*・゚
「ふぁー」
ベットから起きると、なにやらキッチンの方から、何かを焼くような音と香ばしい匂いがアルテナの鼻腔をくすぐった。
神経を研ぎ澄ませると、どうやら一階に誰か居るようだった。
誰かが家に居るのにも関わらず、アルテナが落ち着いているのは、下に居るのが共に暮らす双子の姉──セレネだからだ。
ふたりは双子で、現在は訳あってふたりだけで暮らしている。その訳というのも──
「アルテナー! 起きてー!! 今日が最後の試験日なんだから、ちゃんと気を引き締めてよね」
「はぁーい」
アルテナはセレネのコールに適当に答える。
アルテナの言う通り、今日は神になるための最終試験がある。
試験は朝イチに行うものなので、いつもは平均十時起きのアルテナも今日だけは早く起きた。
顔を洗い、着替えが済んだら、セレネの所へ急ぐ。
テーブルの上には、ご飯とみそ汁。そして、焼き魚とコップ──中はお茶だろう──が二人分置かれていた。
セレネは、何もせずただ椅子に座っている。いや、アルテナを待っていたのだろう。
アルテナは、待たせたことに対する謝罪の も兼ねて挨拶をする。
「おはよう、セレネ。ごめん、遅れちゃって……」
「いいわよ。別に寝坊したわけじゃないし、それに、今日は珍しく早く起きたんだしね。 」
セレネは、からかい気味に歪な笑みを浮かべるが、いつものことなのでアルテナはいつも通り返答する。
「寧ろ、朝晩しっかり起きれるセレネの方が変だよ」
「何でよ! 早起きは三文の徳って教わったじゃない! 早寝・早起き・朝ご飯は髪になるためにも必須なんだから、アルテナもずっとそんなんじゃ神になれないからね」
「アルは別にそんなのしなくても、神になれるからいいもん。セレネだって、この前の数学のテスト悪かったじゃん。何点だっけ?」
「え、えっと、それは……五点。今はその話はしなくていい! はぁ、これじゃあ折角作ったご飯が冷めちゃうわ。早く食べちゃいましょ」
「そうだね、頂きます」
「いただきまーす。」
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