「好きだった女性を殺した犯人を探し続ける男の話」。
こう言ってしまうとミステリかサスペンスかという印象ですが、この作品のテーマは敢えてもう半歩ずらしたところにある気がします。
表は古道具屋、裏は情報屋の顔を持つ主人公・形無の元へ、青二という少年が預けられるところからお話は始まります。
それを皮切りに、形無の追う事件にまつわる状況があちらこちらで動き始め……
物語の中心は、あくまで形無と青二です。
青二の登場は、事件のことで頭がいっぱいだったと思われる形無の生活に大きな変化を与えます。
先のことを、ちゃんと生きていくことを、考えざるを得なくなったりとか。
人と人との関係の移り変わりや空気感の描き出し方が、とてもリアルで秀逸です。
青二と過ごすうちに、形無も満更じゃなくなってくる日常の充足感が微笑ましい。
それが事件とは本質的に無関係のところにあったのが、たぶん形無にとっての救いになったのだと思います。
ハラハラするシーンあり、ほっこりするシーンありで緩急が上手いです。
散りばめられた伏線が残らず回収されていく終盤は、特に読み応えがありました。
事件の真相を追っていたのは、形無だけではありませんでした。
追い求めた事実は一つでしたが、真実は人の数だけ存在しました。
他人の真実が自分のそれとは決定的に噛み合わず、憤りばかりに囚われる可能性もありました。
積年の思いを果たした後、燃え尽きて抜け殻になってしまう可能性だってありました。
だけど、青二との生活を選んだおかげで、彼はこの先も前を向いていられるはずです。
すんなり割り切れることばかりじゃない。それでも時間は前へと進む。
しんみりとして、しかしどこか清々しいラストでした。これからの二人の様子を覗いてみたい気持ちになりました。面白かったです!