第17話

「撃てぇぇええ!!!残弾など気にするな!!何としても食い止めるんだ!!!」


 新宿ダンジョンの入り口は地獄だった。

 無数の発砲音にモンスターの叫び声。常に怒号が飛び交い、入口周辺の店の従業員たちは半狂乱で自衛隊員に縋り付いている。

 機関銃の硝煙によりあたり一帯は煙に包まれるほどだった。

 それでもモンスター達は続々と現れる。止まる事のない濁流の様に自衛隊員達の塹壕へにじり寄っていく。


「報告です!封鎖されていた区画からもモンスターが溢れているらしく今は待機していたDW達が対処しています!」

「チッ。増援は期待でないか。ここで被害を食い止めたかったが仕方ない。防衛ラインを下げる!本部からの増援は?」

「2個師団が向かっています。しかしながら退避する住人も多く、予想よりも到着に遅れが出ています!」


 司令官はギリっと歯噛みする。

 ここにいる自分達はあくまでも予備隊であり、物資にも人員にも限りがあるためこのままモンスターの勢いが止まらなければ壊滅してしまう。

 現に目の前のモンスター達の勢いはドンドンと増している。最上層のモンスターだけでなく徐々に深い階層のモンスターが上がってきているため銃が効きづらくなってきているのだ。

 それでも彼らは諦めない。未だに退避し切れていない住人の命のために。更にはその後ろに居る、自分達の家族の為に。


「白兵戦も覚悟せねばならんか‥二次防衛ラインまで下げる。遅滞作戦に移行する。一次防衛ラインは捨てる!爆薬を仕掛けさせろ」


 司令官が告げると、報告に来た隊員は敬礼をし司令官から離れていった。





 その頃、アカネと栗原は誰も居なくなったビルの屋上で戦況を眺めていた。


「これはまた随分と酷えな。スタンピートアラスカのスタンピートとは比べもんにならねえな」

「そんな所にも行ってたんだ」

「今度いろいろ話すさ。お前の話も聞きたいしな」


 二人の間に緊張感はない。目の前で何万というモンスターの大群を前にしても二人は冷静だった。


「さて、そろそろ防衛ラインを下げるみたいだし行くか。大慌てで爆薬を設置してる様だし、爆煙に紛れて侵入だな」


 アカネはこともなさげにそう言うと栗原を見る。

 普通なら常軌を逸した作戦なのだが、二人にとってはある意味で日常茶飯事なのだろう。

 栗原は頷くが、ふと疑問に思ったことをアカネに聞く。


「あれ。何で突入することになってるんです?別に突入作戦に問題は無いけど、犯人がダンジョン内に居るとは限らなくない?スタンピートのど真ん中だよ?」

「そりゃ、俺の敵は大抵渦中のど真ん中に居るからだよ。側から傍観する様な小物は俺の敵にはならねえからな」


 アカネの物言いに栗原は呆れた様に苦笑いするが、内心嬉しく思っていた。

 再開してからのアカネはどこか別人の様な、全く変わってしまった様に感じていた。

 それが、ここにきて昔の尊大な物言いが聞けてやっぱり変わってないのだと気付けたのは栗原にとっては嬉しい出来事なのだ。


「さてと、そろそろだな。二人で突撃なんていつぶりだ?カナンか?」

「極東じゃない?」

「随分と昔なのには違いねえってわけか。遅れるなよ!」


 そう言ってアカネはビルから飛び降りる。


「私だって成長してるのよ。むしろ遅れないでよね!」


 続く様に栗原はビルの縁を蹴りアカネを追い越していく。

 直後に爆発音が響き渡り、ビルのガラスが爆風によって砕け散った。

 周りのビルからもガラス片が飛び散るが、二人は飛び散るガラスが地面に落ちるよりも早くビルの谷間をかける。

 爆発により吹き飛んだモンスターの破片を避けながら、後続のモンスターの濁流の中へと飛び込んでいった。


「『冥府の吐息ハデスブレス』」


 飛び込みざまにアカネは魔術を行使する。アカネの魔術により冥府の門が開かれる。そこから現れるのは業火。爆発により少し勢いを削がれたモンスター達に直撃すると、濁流の中に一筋の道が開かれた。


「相変わらず無駄に派手だね」

「無駄は余計だ。走り抜けるぞ」


 二人はその場のモンスターには目もくれず、一直線にダンジョンの入り口へと駆けて行った。

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