第16話

 アカネと栗原が三島と再会をした頃、新宿ダンジョンの地下では白衣の研究者が集まっていた。

 そこはダンジョンの中だというのに、所狭しと並べられた研究機材を前にモンスターの研究をしている。


 そんな中で一人、スーツに身を包んだ男は報告に来た自分の部下に罵声を浴びせていた。


「まだ見つからないのか!いつまでかかっている!我々がどれほどこの日の為に準備していたと思っているんだ!」

「しかし、藤堂所長。我々も手を尽くしているのですが、相手も魔術師なのです。下手に返り討ちにされない為にも慎重に動く必要が‥」

「言い訳など聞きたくない!早くユズハを連れてこい!アイツはその為にんだからな。だからあれほど自由にさせるなと言っておいたと言うのに。お前らも行け!早く私の元にユズハを連れてくるんだ!」


 怒鳴られた部下は頭を下げるとその場から立ち去っていった。

 部下たちがユズハ捜索に向かったのを見届けると藤堂は自分の椅子に座り、未だにイライラが収まらない様で机を指でトントンと叩いき独り言を呟く。


「奴は処分だな。この研究の重要さを何も理解していない。人柱の一人にすれば最後には役に立ってくれるだろう」


 研究者たちは自分たちの雇い主の言葉に冷や汗をかきながら、自分の仕事を必死で続ける。

 自分たちも同じ様に処分されるのではないか?という恐怖が彼らのしている研究の愚かさを考えさせない様にしていた。


 そんな時、藤堂の元に一人の男が現れた。

 その男は長身で細身なのだが、痩せていると言うよりは細く絞られていると言った感じだ。立居振る舞いから只者でない事が伺える。


 男はイライラしている藤堂に全く臆する事無く話しかける。


「進歩の方はどうですかー?」


 その気楽な声に周りの研究者たちは背筋が凍る思いをする。この男は命知らずなのかと。

 しかし意外なことに、藤堂は男の態度に舌打ちをするも怒鳴る事はなかった。


「問題ない。順調だ」

「前もそう言ってませんでしたか?そろそろとしても成果の一つや二つ見せて欲しいのですがねー」


 男の言葉に藤堂は青筋を立てる。


(成果の一つや二つだと!?我々がこの研究にどれ程費やしていると思っている!)


 しかしそんな思いを口に出す事はできず、藤堂は答える。


「最後のピースが揃えばすぐにでも。だからそちら側にも手伝ってもらいたいものだがな」

「またお手伝いですか。これまでも幾度となく頼まれごとをこなしてきたはずなんですがね」



 やれやれとばかりに男は首を振る。

 藤堂はそんな態度に歯噛みするが、この男−−−更にその上に立つ人間の手助けがなくては研究を続けられないのも事実なので言い返さない。

 そんな様子を見てニヤニヤする男は言葉を続けた。


「そんなに怒らないで下さいよ。軽い冗談じゃないですか。仲良くやっていきましょうよ。。それに、既に種は蒔いて来ましたからね。時間の問題だと思いますよ」

「それはどう言う‥‥」

「所長!少しよろしいですか?」


 藤堂の言葉は大慌てで戻ってきた部下によって遮られる。


「なんだ!今は重要な話をしている。大した話じゃなかったらわかってるんだろうな?」


 藤堂は自分の部下に圧をかけると、部下は少し怯むが報告をする。


「ユズハ様が見つかりました。」

「なに!?ならば早く捕まえろ!多少傷ついても構わん!絶対に逃すな!」

「いえ、その。それが‥」


 部下の男の態度に藤堂は更に怒りを強める。


「何だ!早く言わんか!」

「実は本社の方にユズハ様が直接来られまして。全く抵抗する様子もなく、コチラもそんなお嬢様を強く拘束することも出来ず‥」


 部下の言葉に藤堂は一瞬目を丸くするが、すぐにクツクツと笑い始める。それはだんだんと大きくなり最後には高笑いへと変わった。


「そうかそうか!アイツも自分の使命が分かっている様じゃないか!」

「上手くいってよかったですよ」


(こいつの仕込みか。どうやったは知らんが役に立つじゃないか。また借りを作った事は癪だが仕方あるまい)


「助かるよ。これからも良き協力者でいて欲しいものだ」

「もちろん。私どもも願っていますよ」


 藤堂と男は互いに自分たちの利益のために笑い合った。

 それがたとえ片方の不利益になったとしても。



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