第18話
「どうだ?」
二次防衛ラインに退避していた司令官は観測手からの報告を待っていた。
一次防衛ラインから隊員達が退避したのを確認し爆薬を起爆きたのだが、想定よりも爆発が大きく退院に被害がないか心配していた。
「隊員に被害はありません!しかしながら‥」
「どうした?」
司令官は伝令が言い淀むので、聞き返す。
「いえ、それが最後尾の隊員から爆発に飛び込む人影を見たと報告が上がっておりまして‥見間違いではないかと思うのですが‥」
最後尾で退避していた隊員にアカネと栗原は目撃されていたのだ。しかし、爆発に突っ込むなどという無謀な事をする者は常識的にあり得ないので伝令は言い淀んだのだ。
司令官も普通では有り得ないと、部下の見間違いだろうと考えた。
「破片か何かを見間違えたのだろう。隊員が巻き込まれたわけじゃ無いのであれば問題ない。もし本当にそんな奴がいたんなら是非ともスカウトしたい所だ」
司令官は冗談まじりにそう言うと伝令を下がらせた。
「へくちっ!」
「こんな時に‥体調不良などやめてね。そんなの言い訳に出来ないから」
アカネは鼻を啜りながら笑う。
「俺が風邪引くわけないだろ。誰かが噂してんだよ。これでも世界最強だからな」
「もしそうなら、芸能人は一年中くしゃみで会話もままならないじゃん」
アカネが冗談まじりに答えると栗原は正論で答える。
二人は今ダンジョンの中を下に下に降っている。
途中何度もモンスターの軍団と出会ったが、そんな事を歯牙にも掛けず突き進む。
「外の様子からすると中は結構静かなんだな」
「ダンジョンの中は道がいっぱいだからそう感じるだけじゃない?」
「それにしてもな気がするが‥考えても仕方ねえな。俺の仕事じゃない。これもダンジョンの未知ってことで」
「しばらく会わない間にセンスは下がったね」
「うるせえ」とアカネは苦笑いしながらさらに進む。
無駄口を叩きながらも二人のスピードは落ちない。
今も目の前から迫ってくる五百体ほどのモンスターを蹴散らした。
「今のたぶんミノタウロスの軍団だったけど‥十九層のモンスターがもうここまで上がって来たんだ」
「上は結構ヤバいかもな。早急に始末しないとマジで三島さんの予言通りになるぞ」
アカネの言葉に栗原は頷き二人のスピードは更に上がる。
「どこまで降りるつもりなの?とにかく降りてるけど、もし敵がダンジョンの中じゃなかったらかなり面倒じゃない?」
「大丈夫だ。目星はついてる。ダンジョンに入ってから感じるんだよ。地下深くの方から異様な魔力をな。そこで違いねえよ」
アカネが確信を持ってそう言うと栗原は納得した様に頷く。
「相変わらずアカネの感知能力は上限知らずだね。私はまだ感知できないから三十層辺り?三十層より下は完全に未探索領域の筈だからそれより下ってことはないと思うけど?」
「そういや、特戦の部隊が三十一層で壊滅したんだっけ?」
「よく知ってるね?そうだよ。だから未だに三十一層は手付かず。特戦が壊滅したとなると上も無理に要求することは出来なかったみたい」
「なるほどね。栗原は三十層は行ったのか?」
「行ったよ。三十層のボスも倒したけど、確かに先行部隊が命令されてなかった三十一層の探索に向かうのも頷けるかな。三十層であの強さなら問題ないと判断してもおかしくないね」
「待て。それはどう言う意味だ?命令外の行動で三十一層に向かって壊滅したのか?」
「そうだよ?三十層までの探索が本来の任務だったよ。まぁでも強硬派の人達だったから霧崎や有原さんから何か言われてたのかも知れないけどね」
アカネは栗原の話を聞いて考えが確信に変わる。
「そうか。なるほどな」
「どうしたの?勝手に一人で納得しないでくれる」
「ああ。悪い悪い。とにかく目的地は決まったな」
栗原は「えっ?」と驚いた表情でアカネをみる。アカネも既知の情報なのだろうと思い話していたのだから、そこから何か新しい情報が見つかるとは考えていなかったのだ。
「勿体ぶらないで教えて!」
「三十一層だ。間違いない。それにその先行部隊は壊滅してないと思うぞ」
「えっ」
「いくら三十層の敵が弱かったからって命令違反する様な奴は特戦にはいられねえよ。派閥争いで独断専行?有り得ないね。メリットが少なすぎる。三十一層で日本の最高戦力が壊滅したってなると誰も入らなくなるだろ?それに死んだ奴らが独断専行したってんなら派閥の上の奴らも痛くねえしな。」
「じゃあもしかして三十一層には何か見られたくないものがあるってこと?」
アカネは栗原の言葉に頷き、ニヤリと笑う。
「楽しくなって来たぜ。特戦と繋がりがあるような組織がダンジョンの地下深くで何やってんだろうなあ。そしてその付近から異様な魔力の高まり。更には突然起きた最大規模のスタンピート。まだでっかい組織が日本に残ってたなんてな」
「三十一層に殴り込みですね!」
目的地の決まった二人のバーサーカーをモンスターの軍団程度では止めることなできない。二人の通った後はダンジョンが真っ赤に染まり普段とは全く違う様相を呈していた。
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