第14話

 栗原がアカネの住むアパートに到着した時。周りは野次馬で溢れかえっていた。

 警察が立ち入り禁止のテープを貼りアパート全体の立ち入りを制限していた。見える範囲だけでも激しい戦闘の後が見られ各所にブルーシートがかけられている。

 栗原は焦りそんな中を割って入ろうとするが肩を掴まれ止められる。振り返るとそこにいたのは自分の探しているアカネその人だった。


「アカネ!無事だったんですね!」

「これぐらいなんて事ないさ。」

「それは何よりですけど、ここまで荒れてると後々大変じゃないですか?」

「それはがなんとかするだろ。」

「それはどういう‥」

「この話は後だ場所を変えよう。三島さんとは連絡が取れたのか?」

「ええ。昔よく使っていた喫茶店に来るって言ってました。」

「わかった。歩きながら話そう。」


 そう言って二人は野次馬を尻目に目的の喫茶店へと向かい歩き出した。


 しばらく歩き人混みを抜け、閑散とした商店街を歩いている。


「ここもこんなになっちまったんだな。」

「仕方ないよ。外壁ができる前はここも危険地区だったから。それよりそろそろ何が起きたか教えてくれても良いんじゃないですか?」

「そうだな。それじゃあ最初から話すわ。まず朝起きて−−−−」


 アカネはそう言いながらここまでの経緯を話しだした。




 一時間ほど前、アカネは腹部を押さえながら壁にもたれかかるチンピラの首元に刀の刃を向けた状態で静止していた。

 それはこの場に現れた人物に驚きを隠せなかったからである。


「何でここにいやがる。ジジィ。説明する気はあるんだろうなぁ!」


 その人物とはシリウス・ゼン・ブラッドレイその人だった。


「もちろんじゃ。しかしまずは矛を納めてはくれんかの。そ奴らはここで死ぬには惜しいからの。」


 シリウスがそういうとアカネは舌打ちしながら刀を鞘に戻し別空間に収納する。


 この場に現れたシリウスに驚いているのはアカネだけではなかった。壁に寄り掛かったままのチンピラとその横で必死に止血するホスト君も同様だった。


「じいちゃん!何でここに!それより、アニキが死にそうなんだ!助けて‥」

「ハル。分かっとるから少し黙っとれ。」


 驚きながらも矢継ぎ早にシリウスに助命を頼むホスト君−−−ハル−−−はシリウスの魔術によって気を失う。


「スバルも、今は気を失った方が楽じゃろ。安心せい。それぐらいの傷ワシにかかれば傷跡も残らんよ。」


 何かを言おうとするチンピラ−−−スバル−−−にも同じように魔術を使い気絶させる。そのまま回復魔術をかけるとまるで時間がかのようにみるみるうちに傷が塞がれていく。青白かったスバルの顔に血の毛が戻るのを確認すると二人を何処かへ転移させてしまった。


「さてと。待たせたの。まず一つ言っておくがワシは黒幕でも何でもないからの。今回の件はノータッチじゃ。」


 アカネは一先ず安堵する。シリウスのことを信用などしていないアカネだが、シリウスの性格はよく分かっている。黒幕ならあえて黒幕とこの場で宣言する。

 そうやって何度もアカネに黒幕として立ち塞がった男なのだ。

 アカネは警戒することをやめ質問することにした。


「なら、誰が黒幕だ?調べはついてんだろ?」

「勿論じゃ。今教えてやってもいいんじゃが時間もあまりなかろうて。」


 そう言ってアカネに、破壊され穴の空いた壁の外を指す。

 外には既に人だかりができていて、この場に長く止まるのは悪手だった。


「三島にある程度は伝えておる。そこで話を聞くと良い。この場はワシが何とかするから気にせず行けい。」


 そう言って手をひらひらと振りた。

 アカネはこの場はシリウスに任せた方がいいと考え、現場から離れた。

 その後野次馬に紛れそこで栗原と合流したのだ。




「そんなことが起きてたとは。それにしてもあのじいさんが黒幕じゃないとなると少し面倒ですね。」

「まぁ、三島さんに色々伝えてるらしいから話を聞けば解決策も出るだろ。」


 そうしているうちに目的地の喫茶店につき二人は中に入った。



「いらっしゃい‥ってアカネじゃねえか久しぶりだな。」

「ヤスさんも元気そうだな。奥いいか?」

「おう。三島のやつはもうついてるぞ。」

「おっけー。積もる話はまた今度飯でも食いに来るわ。」


「おう。」とヤス−−−やすし−−−がカウンターの奥でグラスを磨きながら答える。

 栗原もペコリと頭を下げ、二人で奥にある個室へと移動する。

 個室の中には一人コーヒーを嗜む三島の姿があった。


「やぁ。久しぶりだね。一足先にくつろがせてもらってるよ。コーヒーは冷める美味しくないからね。」

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