第10話

「そういえば、トーヤさんっていっつも早くに帰りますよね。」


 魔術の講義が本格化してから3週間が経っていた。アカネとユズハはそのほとんどをトーヤと共に受けているのだが、帰りにどこか遊びに誘ってもトーヤはいつも断るのだ。

 嫌われているのか?とも考えたが講義や昼食の時はそんな素振りは一切見せない。

 だからといって詮索するのも気が引ける状態が続いていた。


「何か事情があるんだろ。俺たちだって隠し事してるんだし、人間秘密の一つや二つ抱えてるもんだろ。」

「確かにそうですけど。」


 ユズハはアカネの返答に歯切れ悪く答える。そんな様子を察してアカネは付け加える。


「まぁ、なんだ。トーヤが話す気になった時出来る限り力は貸してやろうぜ。それぐらいは仲良くなったつもりだしな。」


 その言葉にユズハは納得したように「そうですね!」と明るく答えた。


 今二人は清水准尉に教えてもらった武器屋に向かっている。

 魔術の講義が本格化しそろそろダンジョンに潜る事になるだろうと言われ、武器の整備をする事にしたのだ。


「それにしても清水准尉が民間の武器屋を紹介してくれるとは驚きましたねー。」

「清水准尉も特戦の一人って事だな。」

「やっぱりアカネさんも行きつけの武器屋とかあったんですか?」

「あったぞ。けど前、秋葉に行った時に見たら潰れたから清水准尉には感謝だな。」

「それは残念でしたね。今回のところが当たりだと良いですね。」

「清水准尉の紹介だし大丈夫だろ。」

「わかります。なんだか清水准尉のおすすめだと大丈夫な気がしますよね。」

「だよな。」

「あ!ここですよ!楽しみですね!」


 ユズハはマップを片手に雑居ビルの一つを指差した。


「確か、地下二階だよな。表向きはおもちゃのガンショップって。いかにもな感じだな。」

「私、こーゆー所初めてなんでワクワクです!」


 ユズハは目を輝かせながらエレベーターのボタンを押す。


「あんまりはしゃぎすぎて、物壊すなよ。」

「もう。そんな子供じゃありませんよ!」


 アカネはそんなユズハの様子を見てニヤリと笑いながら子供扱いする。


 エレベーターが地下二階に止まり扉が開くとそこには所狭しと並べられた銃があった。もちろん本物ではなくエアガンなどのモデルガンだったがその品揃えはとんでもなく多く壮観だった。


「これは、凄いですね。他のガンショップもこんな感じなんですかね?」

「いや、いくら何でもここまではそう無いな。しかもこれが表の店って考えるとここの店主は余程の武器マニアかもしれないな。」

「だから知らねえって言ってんだろうが!」


 アカネとユズハが店内を見て回っていると店の奥から怒鳴り声が聞こえてきた。

 思わず二人は怒鳴り声のする方へと目線を向けるとそこでは、カウンターに座る女性が数人の柄の悪い男たちに絡まれていた。


「そんな事ねぇだろ。俺たちだって何の確証も無く来てるわけじゃねぇんだわ。」

「それによ、金だってあるんだぜ。これでも俺たちそこそこ有名なDW《ダンジョンワーカー》だからよ。あんたにとってもメリットしかないだろ。」

「だから、いくら言われても無いもんは無いんだって。無いもんは売れねぇだろうが。」


 お互いの意見は平行線のようでカウンターの女性は呆れたようにため息をついている。


「それに、DW様なら国から支給があるだろ。こんな所で油売ってるよりダンジョンに潜って貢献度稼ぐ方がよっぽど生産的じゃねえのか。」

「国からの支給品なんざ俺たちには似合わねえ。もっともっとランキング上げるためには新しい武器がいるんだよ。」


 いっこうに引こうとしない男たちにカウンターの女性はさらに深いため息をつく。

 店内ではそんな様子からか、足早に店内を後にする客が増える。


「帰ってくれ。営業妨害だ。これ以上居座られちゃ閑古鳥がないちまう。」

「仕方ねぇな。今日のところは帰るがまた来るからな。考えを改めた方が身のためだぞ。」


 男の脅迫まがいの言葉にもカウンターの女性は動じず、手をひらひらとふり退店を促す。

 男の一人が大きな舌打をし、女性に背を向けるとそれに追従するように他の男たちも去っていった。

 去り際アカネと目が合うと男の一人がメンチを切る。そんな男を見てアカネはフンと鼻を鳴らし呆れたように笑う。


「何だてめぇ!女の前だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」


 馬鹿にされたと感じた−−−実際アカネは馬鹿にしたのだから間違いではない−−−男の一人がアカネにつかみかかった。

 ユズハがこれは不味いと思ったのだが、アカネは避ける事もせず甘んじて胸ぐらを掴まれたのだ。


「何してんだ!とっとと帰れ!客に絡むならけいさつを呼ぶぞ!」


 カウンターの女性が叫ぶと乱暴にアカネを突き倒し手を離す。


「テメェの顔は覚えたからな。」


 一言言い残すと店内から出て行った。


「アカネさん!何してるんですか!ヤンキーにわざわざ絡まれるような態度を取って!ヒヤヒヤしましたよ!」


 ユズハは大きくため息を吐き深呼吸する。


「俺の心配をしてくれたのか?」

「相手の心配に決まってるでしょうが!売られた喧嘩を買っただけでも殺人は殺人ですからね!ここは日本なんですから。警察に厄介になると困るのは私なんですからね!」

る時は見つからないようにするに決まってるだろ。」

「そういう問題じゃないんです!」


 ユズハはしばらく平穏な日々が続いてた事もあり、久しぶりのアカネの問題行動に自分の一緒に過ごしている人間が危険人物であることを再確認させられた。


 アカネは立ち上がるとパンパンとズボンをはたき、頭をかく。


「ユズハには世話になってるから気をつける事にするよ。」

「もう。何でそこで素直になるんですか。」

「お二人さんイチャイチャしてるとこ悪いが、少しいいかい?」

「いちゃついてません!」


 ユズハが顔を真っ赤にして答えると、そこには先ほど絡まれていた女性が近づいてきていた。


「さっきは迷惑かけて悪かったね。一応謝っておくよ。そこの金髪君は私の知る限りこの程度の事じゃ気にも留めないと思うがね。」


 その物言いにユズハは驚く。この女性の口ぶりからしてアカネのことを知っている様だったからだ。


「アリア久しぶりだな。こんな所で何してんだ?」

「油売ってんのさ。」


 そう言って二人は笑い合いながら握手をする。完全に置いていかれたユズハはむくれ顔でアカネを睨むがアカネがその事に気がつくのはもう少し後になってからだった。

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