第8話

 翌日、早速魔法の講義がはじまった。

 アカネとユズハにとっては今更学ぶものもないほど初歩の初歩ではあったが、他の生徒と同じように振る舞うため真面目に講義を受けていた。


「‥‥という訳で皆さんの中にある魔力を知覚していただいたところで皆さんの魔力属性について検査していきたいと思います。出席番号順にお呼びしますので、順番に前に来て下さい。それでは安保さん。前にどうぞ。次の方は並んでお待ちください。」


 魔力属性とは、魔術師の魔法の得意不得意を決める重要な要素だ。検査の方法は単純で、術式の付与された水晶に手をかざし魔力を注ぐだけだ。

 魔術師の中で火や水など元素系を操るものが9割とされ、その他は非常に珍しく簡易的な検査では判断することができない。

 それに加えて元素属性以外の属性の魔法は固有の魔法が多く、その属性でないと扱えないものばかりで非常に重宝される。

 今回の検査でも統計通りほとんどの生徒が元素系の判定を受けている。


「そういえば、アカネさんって何属性なんですか?昨日言霊魔法使ってたんで、干渉属性ですか?」

「いや、俺は召喚属性だよ。聞いたことあるか?」

「いえ聞いたことないですけど、召喚って召喚ですか?」

「そうだよ。どの魔術師でも最初に覚える召喚魔法さ。それに特化した属性ってわけだ。」


 それを聞きユズハは思わず驚いてしまう。

 何故なら、召喚魔法と言うのはどの属性の魔法にも属さないと言われている魔法で、魔力さえ有れば誰でも覚えられる魔法の一つであるからだ。


「でも、昨日のあれは絶対に言霊魔法でした。どう言うことですか?もしかしてからかってます?」

「残念ながら本当だよ。物事には何事も裏道ってのあるってことさ。次俺の番だから先行くぜ。」


 そう言ってアカネは立ち上がると教壇の前に向かった。

 ユズハの中では疑問が疑問を呼んだのだが、諦めていつか聞ける機会が来るだろうと深く聞くことをやめた。




「皆さんお疲れ様でした。属性検査も終わりましたので午前の講義はこれで終わりにします。午後からの講義は13時30分から開始しますのでそれまでに着席するようお願いします。それではありがとうございました。」


 本格的な1回目の魔法の講義が終わり、昼休みがやってきた。アカネやユズハにとっては既知の話だが、他の生徒からしてみれば初めての−−−それも無いものと考えられていた魔法を扱うという講義は非常に理解し難いものだったのだろう。ほとんどの生徒がため息を吐いたり疲れた顔をして机に突っ伏したりしている。


 そんな中アカネとユズハは、人の少ない食堂で昼食を取っていた。国営の大学ということで校舎にはなかなかの金額がかけられており質の高い食堂も特色の一つだ。


「午後の授業は何をするんですかね?」

「この流れだと媒体選びじゃ無いか?」


「あー。」と納得するような声を上げ、ユズハは自分の注文したチャーハンを口に運ぶ。


「それにしてもこの食堂は広いですね。私のいた高校もマンモス校だったんですけど、それでもここまで大きくは無かったです。」

「高校がどんなもんかわからないが、ここは自衛官も使うんだろ。一応駐屯地も併設してるわけだし。」

「確かに。マスコミなんかがこんな広さの食堂を見たらうるさそうですもんね。」

「火のないところに煙は立たないが、マスコミは小さな火を大きな煙にするの得意だからな。あくまで駐屯地のついでって事にしたいんだろ。」

「隣いいかい?」


 特に身のない談笑をしながら食事を進めていると突然声をかけられた。アカネが振り返るとそこには料理の乗ったプレートを持ち佇む同じクラスの男子生徒がいた。


 アカネがユズハに目線で尋ねるとユズハは首肯し了承の意をしめす。


「どうぞ。」

「悪いね。ここにはまだ友達が居なくてさ。一人で昼食を取るのもなんだか味気なくてね。」


 そう言いながら、アカネの隣に座り手を合わせ頂きますと呟いた。


「僕は若槻董哉わかつきとうや。気楽にトーヤって呼んでよ。」

「俺は藤堂朱音とうどうあかね。こっちのは姉の柚葉ゆずは。よろしく。」

「こっちのってひどくない?」


 ユズハの突然の言葉遣いに思わずアカネは驚くが、悟られないように表情は変えなかった。学園長に指摘されたのでユズハはアカネが偽名とはバレないように普段よりもフランクな口ぶりにし、親しさを演出する事にしたのだ。


「姉弟揃って入学できるなんて凄いね。凄い倍率だっただろう?でもそうか姉弟だから両方とも魔法適性がある可能性が高いのかな?」


 実際のところ魔力を持って生まれる子供は遺伝によるところが強い。両親が魔力を持っていればほぼ確実に子供も魔力を持って生まれてくる。その為、魔力を持つ家計を絶やさないように繁栄してきた一族も多い。

 アカネはわざと曖昧に「どうだろう。」とだけ返した。


「それにしても魔法なんて驚きだよね。小説や漫画の世界の話が突然論理を伴って迫ってくるって言うのは自分の知っている世界じゃないみたいだよ。」

「そうですね。でも私は同時にワクワクしますね。」

「ユズハさんは好奇心旺盛のようだ。確かに魔法そのものには僕もワクワクしてるよ。アカネ君はどうだい?」

「俺は、そうですね。何とも言えないですね。」


 トーヤは「それが正しい表現かもしれないね。」と頷きながら独り言のように呟いた。その後は年齢やここに来るまでは何をしていたのかなど自己紹介を交えながら談笑した。


「僕は今から少し清水先生の所に行くから先に行くよ。午後の授業でまた。」


 そう言ってトーヤは早めに席を立った。


「トーヤさんはどうでしたか?」

「最初は警戒したが多分大丈夫だろう。一般人だよ。嘘の反応はなかった。」

「それは一安心ですね。私達みたいな問題児にわざわざ話しかけてくるからどんな人かと思いましたよ。」

「それよりも普段はあんな口調なのか?」

「どちらかと言えばこちらの方が素ですよ。」

「別にフランクに話してくれていいんだぜ?お姉ちゃん。」


 アカネが最後にユズハをからかうとユズハは顔を真っ赤にしてポカポカとアカネを叩くのだった。

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