第3話
日本
−−
「やっと着いたか。」
アカネは七時間ほどの空の旅を終え、欠伸とともに伸びをする。体からパキパキと子気味良い音が聞こえ長時間のフライトを物語っていた。
飛行機の中では機長の挨拶とともにシートベルトランプが消え、乗員は各々降りる準備を始める。
飛行機内の人がまばらになってきたのでアカネも降りる準備を始める。この後の予定は特に決まっていないので焦る必要もなくゆっくりと行動を開始する。決して日本に着いたと言う現実から目を逸らすためにゆっくりしているわけではない。
無いったらない。
アカネは飛行機の機内から通路を通り空港の中を歩く。手荷物の中のパスポートを取り出し、日本人専用の入国審査の列に並ぶ。
他の列と違い日本人用の所では特に質問などされる訳ではないので、列もスイスイと進んでいく。
手持ち無沙汰になりアカネは自分のパスポートをパラパラとめくる。
(
アカネは日本では死んだことになっているので当然本物のパスポートは用意出来ない。その為、本物のパスポートを用意し、偽造した内容を入力してあった。
偽名と出鱈目な渡航歴。アカネは自分のためにここまでする某国の手の入れように呆れる。
(ご丁寧なこった。まぁ、これも裏でカークスが手を回してくれたおかげかもしれねーか。)
そう考えアカネは一人納得する。
「次の方どうぞー。」
そんなことを考えているうちにアカネの順番になっていた。
「お願いします。」
そう言って朱音はパスポートを渡した。
入国審査官は、パラパラとパスポートをめくりスタンプを押す。
「どうぞ。お帰りなさい。」
そう一言添えながらアカネにパスポーを手渡した。
(特に確認することもなく入国できるのは危機感に欠けるが、これも日本の平和さの現れか。)
他の国では帰国者とは言えこんなに簡単に通すことはないだろう。
最後に一言添える所などまさに日本人らしいなとアカネは思いながらパスポートを受け取り「どうも。」
と一言だけ言うとバゲージクレームに向かった。
自分のボストンバッグを受け取り中身が変わっていないことを確認し、アカネはゲートを潜り空港の外に出た。
季節は春先と言うこともあり、まだ肌寒さを感じる温度で今まで東南アジアを拠点とし世界各地を飛び回っていたアカネはジャケットのジッパーを首元まで上げた。
「藤堂朱音さんですか?」
朱音は突然話しかけられ、自然な動きで距離を取り警戒度を引き上げた。
自分の偽名を知っていると言うことは、カークスやケイスの関係者のはずだが自分が話しかけられるまで気配を感じられ無かった事はアカネの警戒に値する人物だった。
「何のようだ?」
振り向きながら相手を確認すると、身長は150センチ少々だろう。小柄で可愛らしい女性で年齢はアカネと同世代くらい。スーツにパンプスと言う見るからにビジネスウーマンと言った格好をしていた。背格好は年下に見えるがその見解を許さない圧倒的な存在感を放つ胸が見た目年齢を引き上げる。
アカネは警戒していることをアピールする様にあえて蕪村な態度を取る。
「警戒させてすみません。自分はケイスさんの情報屋です。日本でのアカネさんのお世話をするように言われてます。」
そう言って女性はケイスからの手紙を渡して来た。そこにはアカネがちゃんと日本に行っているかどうか確認するためアカネが到着したら自分に連絡を入れるよう依頼されており、最後に到着したら久しぶりの日本で分からないことも多いだろうから助けてやってくれと書かれていた。
ケイスの関係者と言う女性に対してアカネは警戒心を解除する。
(全く。ケイスには頭が上がんねーな。それにこいつにわざわざ書類で依頼するって事はいつからこの展開を読んでいたんだか。)
アカネはケイスへの感謝と同時にケイスの情報網の広さと、そこからの展開を予測する先見の明に身震いする。
「あのー。確認いただけましたか?私、ケイスさんに連絡入れたいんですけど、ちょっと待っててもらっていいですか?」
そう言って女性は端末を取り出し、電話のジェスチャーをする。
「ああ。えーっと、「あ。私、
アカネがユズハの名前がわからないで困っているとユズハは自分が名乗っていなかったことに気付きすぐさま名乗った。
「藤堂さんって言うのは何かおかしいからユズハさんって呼んで良いか?」
「もちろんです。何なら呼び捨てでも、愛称でも何でも大丈夫ですよ?これから暫くは姉弟になりますからね。」
目をキラキラさせながらユズハは言うと、「ちょっと失礼しますね。」と手に握ったままになっていた端末から電話を掛ける。
アカネはユズハの事をマイペースでどこか掴みどころの無い奴だと内心評価する。最初は気配を消して近寄って来たこともあり、信用に値するか測りかねていたがそんな評価をする事がバカらしくなる様な振る舞いである。
もしここまでがユズハの計算通りであったなら驚愕であるが、そこまで気の回る人間であるならわざわざ最初に警戒される様な動きはしないだろうとアカネは思っていた。
「ちょっと!やめてください!!本当にお節介なんですから!」
アカネがそんな事を考えているうちに報告が終わったのか、最後は声を荒らげ顔を真っ赤にして通話を切っていた。
「大丈夫か?何か問題でも起きたのか?」
アカネはユズハの様子にただならぬものを感じたので尋ねた。
「いや、大丈夫です!ちょっと。そんな顔を近づけないで欲しいです…」
「ああ、すまん。」
ユズハは更に顔を赤くし、端末で顔を隠して少し後ずさる。その様子を見たアカネはケイスがユズハに言った事を何となく察する。
はぁ。と大きなため息をつき、ここでこのままグタグタしていても仕方ないと話を切り上げることにした。
「まぁなんだ。ケイスの言うことは大抵が嘘だから話半分くらいで聞いてた方がいいぞ。とりあえず、俺はこれからどうすれば良い?俺は日本が久しぶりな上に何の準備もせずに来たからな。正直ユズハさんがいてくれて助かる。」
「ゴホン。失礼しました。とりあえず、生活必需品を揃えに買い物に行く予定です!その服だと日本じゃ目立ちますから私服も何点か購入したほうがいいですね。」
ユズハは、アカネの服装を見回しそう結論を出す。
アカネの今の服装は迷彩のカーゴパンツにTシャツ。その上からジャケットを羽織り編み上げブーツというどう見ても退役軍人かミリタリーオタクにしか見えない格好なのだ。
「そのままでもダメじゃないですけど、寧ろ私的にはアリですけど……。そんなことはどうも良くて、日本じゃ絶対に目立ちます!」
「じゃあ車回してきます!」と言ってユズハは走って行ってしまった。
その後ユズハが来るまでにアカネはタバコに火をつけるが、すぐに警備員にこの場所が禁煙であると怒られ、日本では喫煙者が排斥されている事実に頭を悩ますのだった。
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