第14話 遭難/準備/宝探
◇◇シア◇◇
アルデバランを装着出来た。出来てしまった。
今までとは別の姿で、今までとは違う装備で、アキラの元へ向かったところでアキラに拒絶されるかもしれない。
でも私に、アキラの元へ向かう以外の選択肢はなかった。
私の生まれた、そして存在する理由はアキラのサポートをする事。
そのアキラが
私はアンダーアーマーの状態で
エアロックを抜けて格納庫に入った私は、1番ハンガーに格納されているシネラリアに目をやる。
本当はシネラリアで向かいたい。アキラが怪我を負っていたら、シネラリアに搭載されているRBSが必要になる。
だけど私はシネラリアに向かう事はやめた。
隣の部屋にあったアルデバランならともかく、シネラリアまでは登録の変更はしてくれていないだろう。
シネラリアの所まで来るとセプテントリオンの誰かの目に留まる。そうするとコウさんに通報されてしまう。
私は外へと通じるハッチへと向かう。
ここも当然エアロックになっている。
1つ目の扉を潜りロックする。
そしてアルデバランユニットを展開する。
「リリース・アルデバラン」
胸部、背部、肩部、腰部、腕部、脚部、そして頭部。アキラのアンタレスと同じ深紅の鎧。
しかし、機動性を最優先した軽装甲のアンタレスとは違い、アルデバランは重武装重装甲。
アンタレスのように背中に翼はなく、代わりに"エルナト"という名の付いた50.8mm
ランチャーは、収納時は背中に縦に固定され、砲撃時は90°持ち上がって顔の両側から前へ砲身が展開される
Rライフルは逆に下から90°展開し、腰部マウントラッチに固定される。
そして、肩部装甲上面と脚部装甲側面にアンタレスの背部にあるものと同じ
更に、両前腕部には敵に接近された時の近接防御用に
全身ハリネズミのように武装しているけど、訓練でアンタレスと模擬戦を行うと必ずアルデバランが負ける。
理由は簡単。
アキラが
でも、未来視を使っていなくても
アンタレスをロックオンして砲弾や銃弾、誘導弾を発射するけど、どんなに
アキラがその知識と技術の粋を集めて作ってくれた私の
アキラと同じ身体を得た今、その理由も分かるのだろうか?
話が逸れた。
装備を取り戻した以上、この扉を破壊してアキラの元へ向かう事は可能だ。
だけど今までアキラ共々色々お世話になったのだ。出来ればその恩を仇で返すような真似はしたくない。
だから一度、要請と警告をしておく。
「シアより
数瞬の後、
『アルデバランが装着出来てるだと!? あの馬鹿余計な事を! 止めろシアさん! 全てを失いたいのか!?』
「私はアキラを
『だから俺の話を聞け!! 君の生体反応はアキラ君のアンタレスには登録されていないんだ。ジェネシスの反応はアルデバランなのに装着している者が不明なんだぞ? アキラ君は今の君が前の君を殺してアルデバランを奪い、改造して使っている敵と判断する。当然、今の君を殺しにかかってくるぞ!』
何を言ってるのか。例え身体が変わったとしても、アキラが私を分からない筈ないのに。私とアキラの想いは、絆は、そんなに脆くない。
「コウさんはアキラの事を分かっていない。アキラは私を間違えない。絶対に。勝手にこの身体になってしまって、拒絶はされるかもしれないけれど、私を殺す事なんて絶対にありえない。だから私は行きます。貴方には色々お世話になりましたので、貴方の船を傷つけたくはありませんでしたが、要請を拒否されたと判断し、
――― System shift to a Combat mode.
視界に様々なパラメーターや
「DSF展開。エルナト、砲撃態勢に移行。シェルタイプ、GCS」
背中に収納されていたエルナトが上へと延び上がり、そして前に倒れる。
頭から生える2本の角。アルデバランの最大攻撃武装。
装填した砲弾は、重力子圧縮内包弾、グラヴィトンカートリッジシェル。
命中し、弾殻が破壊された瞬間、圧縮内包されていた重力子が解放され、命中箇所にマイクロブラックホールを発生させる。
ジェネシスが
その中でも
艦船クラスのDSFと装甲を破壊して外に出ようとするなら、
例外は、アキラがアイツの置き土産を処理した時に使用したと推測される【グラヴィトンスフィア】。
装備による間接制御ではなく、使用者の意思力による重力子の直接制御。
それを成し得るのは、ジェネシスに搭載されている時流制御機構、クロノシステムと同じ力を、装備に頼らず発動させる事の出来る者のみ。
私の知る限り、それが出来るのはアキラとコウさんだけ。
だから、私が今この時点でアキラの元へ向かうにはエルナトの、兵器クラスの装備が必要だ。
ドォォォン!!
ヴィーッ!ヴィーッ!ヴィーッ!ヴィーッ!
着弾した弾頭が砕け、その場に発生したマイクロブラックホールが全てを飲み込む。
その球状領域が目の前に迫る。
しかし、エルナトの砲口ぎりぎりまできたところで拡大は止まり、今度はホーキング放射により縮小していく。
それと同時に、私は漆黒の闇に包まれる。
ウィスタリアのDSFは私の砲撃によって抉られた船体に沿って張り直された事により、アルデバランとの空間連続性が失われ、そしてマイクロブラックホールの影響で時空間が著しく乱れた為に光の反射が私の目に届かなくなったからだ。
常闇の中で佇む私。
そして、待機状態だったアルデバランが記録していたアキラからのビーコンの相対座標を確認する。
ここからならアルデバランの足でも辿り着ける場所だ。
私は一刻も早くアキラの元へ向かう為に、そちらに向けてアルデバランを真っ直ぐ駆る。
けれど、それが何よりも大きな間違いだった。
私は急ぐあまり、別れ際にアキラが言った事を忘れていた。
"世界線と時間軸に気を付けろ"
全ての世界と時間は一点から始まり、その始まりの点、"原点"から放射状に世界の中心線、"世界線"が広がっている。
各々の世界は、この世界線を軸に一定立体角内に存在し、この範囲を越えて存続はしない。
この範囲を越えようとしたその世界の流れは、その流れの元となった分岐から途絶し、終焉を迎える。
丁度剪定された木の枝のように。
世界が世界線を軸として一定立体角内に円錐形状に存在するなら、当然、世界のない隙間の部分が出来る。
私達はその隙間を伝って世界を行き来する。
その理由は、世界の壁を越える時、DSFに大きな負荷が掛かり、Cリアクターを大きく損耗するから。
Cリアクターの出力が低下し、高次元空間内でDSFを失うと、通常とは違う時流に曝された物質は物質としての形状を保てなくなる。つまり、消滅する。
それを避ける為に、本来ならジェネシスのシステムに現在地から目的地までの最適な最短ルートを計算させてから移動する。
それを行わず、真っ直ぐ突っ切ったアルデバランのCリアクターは一気に損耗した。
―――Caution! C‐Reactor is worning out over 50 percent.
視界に映し出されているアルデバランのステータスにCリアクター損耗50%オーバーの警告が表示される。
「何で!? まだ3分の1も進んでないのに…… そうか!!」
警告が表示されてやっと、自分のしでかした大きなミスに気が付いた。
慌ててシステムにルートの計算を指示する。
しかし、結果は無情なものだった。
「目標到達可能性2.6%。何処かでリアクターを修復しないと……でも……」
急ぎたいのに急げない。焦りばかりが募る。
「そうだ! 一旦、同じ世界の違う時間に降りれば!」
目標とする世界の、ここから一番近いところを指定してルートを再計算。
結果は、到達可能性52.2%。決して高くはない。でもさっきよりは全然いい。
迷っている間も可能性は減っていく。私は再計算したルートをシステムの指示通りに進む。
―――Warning!! C‐Reactor is worning out over 80 percent!!
「お願い!! もう少しだけ!!」
最後の壁を越えて何とか目的の世界に辿り着き、急ぎ相対時流速の同調に入る。
相対時流速0.3、0.2、0.1……
突然、身体が強く揺さぶられる。一体何なの!?
そうか! 時間軸が少しずれているんだ!
全ての空間に影響を与える実時間の流れ、時流も、世界線と同じく原点から放射状に流れている。
この流れに同調して通常空間に現界する時に、流れの方向、時間軸と自分の進む方向がずれていると、流れに弾き飛ばされる。
もしそれにより世界の壁の外へと飛ばされると、限界を越えたCリアクターが緊急停止し、DSFを失ったアルデバランと私は時空間の片隅で消滅する事になる。
「くっ! このっ! 大人しくなりなさい!!」
必死にアルデバランを制御して何とか立て直し、再度現界を試みる。
相対時流速0.3、0.2、0.1、現界。
目に飛び込んできたのは星の煌めく夜空と星明かりに照らされた漆黒の大地。真下はどうやら草原のようで、数km先に森らしき影が見える。
とにもかくにも着地しないと。
多少の高さなら強化再精製体である私の身体なら耐えられるけど、現在の対地高度は1562m。流石に無事じゃ済まない。
―――Warning!! C‐Reactor is worning out over limit! C-Reactor emergency shutdown!
急速降下し、対地高度10mの辺りで一旦空中静止。そして軟らかく着地する為に再び動き出そうとした矢先、Cリアクターが限界を迎えて緊急停止した。
飛行能力を失くしたアルデバラン・ユニットを着けたままでは受け身も取れずに地面に激突してしまう!
私は、コンデンサーに僅かに残ったエネルギーを使い、アルデバラン・ユニットを量子化する。
ダンッ!
アンダーアーマーの状態で落下を始めた私。空中で姿勢を整えて足から着地した。全身で着地の衝撃を逃がす為に大きくしゃがみこみ、そのまま腰を下ろした。
「危なかった…… フッ、フフッ…… 何やっているだろう私。これじゃ、まだコウさんの言う事を聞いていた方が遥かに良かった……」
緊急停止させてしまったリアクターの修復には時間が掛かる。
余力がある状態で量子化収容すれば1日程度で修復が完了するけれど、緊急停止までさせてしまうと最低でも1週間、下手をすると10日以上掛かる事もある。
それに、余力がある状態なら
だから、武装も展開出来ないし、センサーもマイズ単体の半径100mの範囲でしか使えない。
ほぼ丸腰と言っていい状態だ。
「…………ここでこうしていても仕方ない。ここが安全なのかも分からないし。うんしょ、あれ……?」
立ち上がろうとして、視界が歪む。そして崩れ落ちるように倒れた。
「身体が、動かない……それに意識が……どうして……」
草原に身体を横たえながら薄れゆく意識の中、私は自問する。
頭に浮かんだのはリィエの講義。生物の定義。
自己確立、自己増殖、自己代謝。
そう、自己代謝。外から活動エネルギーの元になる物を取り込んで、活動エネルギーに変換する。
私はこの身体になってからまだ一度も食事をしていない。
感情のまま突っ走り、友人や協力者の忠告も無視して飛び出して、ミスにミスを重ねて、愛する人の元にも辿り着けず、何処とも知れぬ場所でひとり終わりを迎える……
涙が溢れた。
感情のまま馬鹿な事を繰り返した自分に。
そして何より、助けを乞うている愛する人の元に辿り着く事すら出来ない自分に。
ごめんなさい、アキラ……ごめんなさい……
そして、私の意識は闇へと落ちた……
MISSION "アキラの元へ" FAILED……
◆◆アキラ◆◆
誰かに呼ばれたような気がして目を覚ます。
身体を起こそうとして、右腕に誰かがしがみついているのに気付く。
誰かは分かっているんだが。というか1人しかいない。
前の宿はダブルの部屋に放り込まれたから仕方なかったとして、今度の宿はちゃんとツインで取ったんだがな……
ゴブリンの群れを屠り、「あの魔術を教えなさい!」と胸倉を掴んできたフィーアを「独自に研究した成果をそんなに簡単に教える奴いるか?」のひと言で黙らせ、魔道具の振りをして見せた例の映像の、投影装置とその映像の内容それぞれに騒然としたドライド達を宥め、夜の移動は危険だと引き留める村人達の好意をやんわりと辞退して、ささっとアビットに帰ってきた。
あぁ、生き残ったゴブリン共はサクッと始末してきたぞ、勿論。
「ごめんなさい、アキラ……ごめんなさい……」
目尻に涙を溜めて寝言で謝るシアに苦笑する。ちょっと効きすぎたかな。
だがまぁ、銃に限らず武器の危険性というのは最初にしっかり教えておかないと、後々自分が酷い目に遭うからな。
空いた左手にハンドタオルを出してシアの涙を拭ってから、赤く染まったその髪を手櫛で漉くようにして撫でてやる。
険しかった顔が少し緩む。
今度は手のひらをシアの頬にそっと当ててやる。
互いの温かさが互いを温める。
シアの顔に笑みが浮かぶ。どうやら悪夢は去ったようだ。
自然と自分も口角が上がる。
このシアに生きる術を教えてここから去る前に、遺伝子が解析出来る部分をほんの少し分けてもらえば、俺のシアも肉体を得る事が出来る。
きっとあいつも喜ぶだろう。
もっとも、肉体を得た後の方が色々大変なんだけどな。
慣れるまではシアも相当苦労するに違いない。
特に、今までメッセージや数値で表示されていたものを感覚で判断出来るようにするのが難しい。
例えば、機械の身体ならCリアクターのお蔭で無補給で動けたものが、肉体になると水と食料を補給し続けなければならなくなり、補給が必要な状態かを感覚で判断しなければならない。
そして、機械の身体ならCリアクターが停止したとしても、それまでの人格や記憶は保存しておけるが、肉体だと死んだらお仕舞いだ。
この辺りは十分に訓練出来るまで俺が傍にいてやらないといけないな。
さて、そろそろ夜明けだ。起きて今日の予定をこなす準備をしよう。
まずは朝飯を食って、午前中は川の傍でシア用の
で、一度街に戻って昼飯を食ったら、午後からはシアと、望むならスノウ&アイの訓練。
今回は魔術の訓練をメインにして、ついでにアイにこの世界の魔術、というか魔法について確認する。
また【Absolute Zero】のような魔術をぶっ放した時、出来ればこの世界の魔術に似せておきたい。色々面倒だからな。
起きて着替える為にシアの腕をやんわりと解きに掛かるが、場所をずらしてしがみ付き直してくる。
段々しがみ付く場所が上にずれていき、シアの両腕が俺の首へと回され、俺の右腕はシアの脚と脚の間にがっちりホールドされてしまった。
腕を引き抜く為にぐりぐりと動かすと……
「ん……♡ もっと……♡」
シアが甘い声で寝言を言い始めてより強く抱き付いてきたので、寝かせ続ける事は諦めてシアを起こす事にする。
「お~い、シア、起きてくれ。今日のやるべき事をやるぞ」
「ふぁ~い…………おはよ、アキラ……Zzz……」
「こらこら、寝るな寝るな。それで顔と身体を拭いて着替えてくれ」
「うん、わかった」
二度寝しようとするシアの顔にレンチン蒸しタオルもどきを乗っけて起こす。
時間は常に流れていく。やるべき事はさっさとやっておかないとな。
「アキラはきがえないの?」
もそもそと着替え終わったシアが聞いてくる。そういえば言ってなかったな。
「この服は特別製なんだ。こうして……」
右腕の肩から手首までの袖を量子化して素肌を晒す。
「一旦消してからまた出すと、破れや付いた汚れを消せるんだ。だから、補修も洗濯も必要ないのさ」
アンダーアーマーのアーマーを除いた部分、アンダーウェアはジェネシスの一部として非常に丈夫に出来ている。
表面は、スペクトラガード繊維の芯材をクロノチウム系合金に変えた上で更にミスリルでコーティングしたものを使っている。
下手な防具より余程丈夫だ。
流石にCW徹甲弾や光子弾、重力子弾は防げないが。
というか、この3つは防ぐものじゃなくて避けるものだからな、普通。
「いいな~! ぼくもそれほしい~!」
「これ重いからシアには着れないぞ? そもそも、
このウェアは宇宙空間で与圧を保つ事も出来るものだからかなり重い。
普通の人間だと筋トレが出来るだろうくらいには。
シアに着せても動けないだろうな。
そして量子化する為には
量子化くらいならCリアクターでなくても可能は可能なんだが、そもそもアンダーウェアを着て動けないのでは意味がないし、設備もないのに量子化装備作るのは骨が折れる。右手も満足に使えないしな。
「アキラとおなじになればいいの?」
「そうなんだが、 物が欲しいからってそんな事決めるなよ? お前がこれから生きていく上で俺と同じ力が必要と言うならそうしてもやるが、前に話した通り、普通の人から見たら化け物なんだ、よく考えろ」
「わかった」
「いい
「!! うん! ぼくてつだう!!」
シアの頭をわしわしと撫でてやると嬉しそうに自分でも頭を動かしていた。
▲▲スノウ▲▲
「ふわぁ~よく寝たぁ~」
昨日は夜遅くまで起きていたせいか、今朝は少し起きるのが遅かった。
はい、そこの「あれ? 昨日の朝は?」と思った無神経なヤツ。
一歩前に出なさい。
アタシの剣のサビにしてあげるから。
手早く身支度を整え、朝食を摂る為に食堂へと向かう。
今日は午後から魔術の訓練をしてくれるとアキラが言っていた。
アキラ曰く、本当の意味での魔術。
アタシやあのシアって子でも使えるという。
それが本当なら願ってもない事。
アキラがアタシの王配となってくれたとしても、アタシ自身もアキラに見合うだけの力は身に付けておきたい。
もし可能なら、アキラと同じ身体になりたい。
それにはまず、アキラの事をもっと知らないと。
そういえば、今はナニしてるんだろ?
時間があるならオハナシしにいってみよう。
「えぇと、リンク・マイズAK」
アキラに教えられた通りにこそっと呟いてみる。
―――Connected MISE・AK
視界の端にアキラが言ってたように文字が出た。これでいい筈。
『スノウか。おはよう。調子はどうだ? 筋肉痛になってないか?』
「おはよう、アキラ。大丈夫よ。さすがにそこまでやわじゃないわ。でも、心配してくれてありがとう」
『そうか。なら良かった。ところで何か用事か?』
「えぇ。時間があったら、アキラの話、聞きたいな、って思って。今どこ?」
『北の川縁でシアの装備作ってる。良かったら来るか? 剣の刃にミスリルコーティングくらいしてやれるぞ?』
ミスリルの加工って川縁で簡単に出来るものだっけ!?
いや確かに、アキラは自分で加工出来るって言ってたけど!
でも、やってもらえるならぜひともお願いしたい!
「行く!! どこよ!?」
『なら、マイズの使い方の練習がてら探してみようか。こっちは当然、音と光が見つからないように隠蔽してる。昨日の説明をちゃんと聞いていたなら難しくはない。宝探しだと思ってやってみな?』
確かにいろんな意味で"宝さがし"ね! 頑張っちゃうわよ!
「すぐ行くから待っててね!」
『焦らなくていいぞ? シアのやつを作り終わってからしか出来ないんだし。通信のタイミングからして朝飯もまだなんだろう? 冒険者は身体が資本。しっかり飯食ってからにしろ』
アキラの正論に言葉が詰まる。
でも、そういう気配りが出来るアキラ、素敵♡
「わ、分かったわ! だから……」
『ちゃんと待っててやるから。それじゃ、後でな』
「う、うん! また後で!」
っし! 会う約束を取りつけたわ! 気分がウキウキする! これが"恋人と出掛ける女性の気分"ってヤツね!
昔お忍びで街へ繰り出してカップルを見掛けた時、「よく人前でイチャついて恥ずかしくないものね」と思ったけど、ゴメン、謝るわ。こんな気分なら周りなんて気にならないもの。
「おはよ、おやじさん♪ 朝ごはんお願~い♪」
よい気分のまま食堂へと向かい、
「おう! すぐ用意するからな! スノウの嬢ちゃん
「ありゃあ~、さすがおやじさん、すぐ分かっちゃうか~♪ って、"も"?」
おやじさんの言葉に違和感を覚えた。そのタイミングで別の方向からおやじさんに、聞き覚えのある声が掛かる。
「おやじさん、ごちそうさま。それじゃ、出掛けますね」
「おう! 男と仲良くしろよ?」
「はい、それはもう! たっぷり仲良くしてきますね♡」
声の方向へギィ……と首を向ける。そこには案の定、見知った顔があった。
「あらスノウ、おはよう。私、ちょっと出掛けてくるから」
「……ドコヘ?」
「ん~~ちょっと"宝さがし"に♪」
「おやじさん! ご飯早く!! ハリーハリーハリー!!」
△△アイ△△
「おやじさん! ご飯早く!! ハリーハリーハリー!!」
相変わらす朝から騒がしいわね。
ま、いいわ。私は"宝さがし"に行ってきましょう。
さて、まずはどちらの門から出ようかしら?
昨日は西門から出て少し北に行った森の中で訓練していた。
普通なら、そこから更に北に行って川縁に出ると思う。
だけど昨日の訓練の帰り道、アキラが通信でこっそり教えてくれた事。
"尾行されている"。
私達が街の衛士に訴え出ないか監視しているのだろうとアキラは推測していた。
スノウに先んじて宿を出たのはそれも理由の1つだ。
もちろん、最優先は"お宝"を手に入れる事だけどね♪
アキラ達も同じように監視されているだろうけど、あちらは尾行なんて簡単に撒ける。
ただ、撒いた尾行者に近くをウロウロされても面倒だろうから、撒いた場所から普通の手段ではすぐに行けない所へ移動するだろう。
となると、一番ありえるのは、昨日の同じ西門から出て北へ行き、川の直前で姿を消して、そのまま川の対岸へと渡る。
尾行者がそちらに行く為には、川を泳いで渡るか、街に戻り北門から出直して、街道の途中にある橋を渡るしかない。
西門から街壁沿いに北門へは向かえなくはないけど、木々が鬱蒼と生い茂っているからかなり大変。
なら私は西門から出て途中で姿を消して、尾行者をやり過ごしてから街に戻り、改めて北門から出て川の向こう岸へ向かおう。
隠蔽系の魔術は動きながら使うのはかなり難しいし。
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