第15話 製作/失策/思惑/目覚
◆◆アキラ◆◆
「よーし、上手く出来るようになったな、シア」
「えへへ♪ アキラがよろこんでくれて、ぼく、うれしい!」
「それじゃ、もう少し頑張ってみようか」
「う、うん! ゆっくりしてね?」
「優しくしてやるからな」
「あっ! もっとゆっくり……あっ!」
はいそこのDTのお前!
お前が考えてるような事してないからな?
シアに【
鋳造レベルの武器を用意するだけでいいのなら、俺がリアクターの出力を上げて元素変換による素材インゴットの精製と成形をしてやれば簡単に手に入る。
だが、アビットの街の店を見て、こういう手に職を付けられる技術をシアに教えておくのもいいだろうと判断した。
シアは素直に俺の言う事を聞くから、上手く教えてやれば魔術の習得も早いだろうとは思っていたが、彼女のセンスは俺の予想を遥かに越えていた。
浄水・保温保冷機能付き水筒を使って川の水を汲み、そのまま飲んだ時としばらく振ってから飲んだ時の冷たさの違いで熱の原理を説明し、それを
最初こそ
この娘、とんでもなく天才なのではなかろうか?
まず鉄の加熱を練習させて、成功したようなので今度は
ミスリルは
その
が、うせやろ? 何で数回練習しただけで出来てんの?
天才こわい。饅頭も熱いお茶もこわいけど、天才こわい。
……まあいいか。才能があるのは喜ばしい事だ。
魔術でミスリルを加熱出来るとなれば、シアは鍛冶屋からひっぱりだこになる事間違いない。
インゴットを挟んだ火箸を必死に握っているシアの手に半ば感覚のない右手を添えて位置の調整をしつつ、左手のハンマーでガンガン叩いて鍛える。
俺は慣れているから素手だが、シアには当然耐熱の手袋を着けさせている。
やがて出来上がったのは、握りの部分を少し長めにした大振りのナイフ。
握りが長いのは、非力なシアが両手で持って使えるようにする為だ。
最高品質とは言い難いが、かなりの良品質なのは間違いない。
加熱にムラがあると品質が落ちるが、シアのセンスの良さが表れた秀作の一品だ。
後は刃を研いで……片手では砥石でやるのは難しいか。
流石に鉄やステンレスの刃物を研ぐ砥石でミスリルの刃物は研げない。
なので、ミスリルより固い
暗紅色の砥石に水を掛け、シャッ、シャッ、シャッと、一定のリズムでナイフを滑らせる。
うーむ……両手利きとはいえ、片手に感覚がないといまいち上手く研げないな……
シアに場所を譲って砥石の前に座らせ、二人羽織の体勢で、砥石への刃の当て方や研ぎ方を教えていく。
真剣な表情でナイフを研ぐシア。
でも、その口許にはうっすらと笑みが浮かぶ。
分かる!
自分で物を作り、それが形になっていく様を見る事、自分の出来る事が増えていくのは嬉しくて楽しい!
絵面が少々猟奇的なのがあれだが……
「アキラ、どう?」
やがて研ぎ終わったナイフを、少し心配そうな顔で俺に見せるシア。
品質は中の上くらい。鍛練も俺がやった物だが、加熱と研ぎがしっかりしてないとここまで良くはならない。やっぱり天才だわ、この娘。
「シア、お前天才だ。初めてでここまで出来る奴はそうはいない。お前ならこういう仕事で飯食っていけるぞ。そのナイフを売ったら数年は暮らしていけるだろうしな」
「やったぁー!」
両手でナイフを掲げてぴょんぴょん跳ねるシア。
やめて! 危ないからやめて!
怪我しないうちに止めようと手を伸ばしかけた時、シアの動きがピタリと止まる。
訝しげに見ていると、うっとりとした表情でナイフを見つめるシアは言った。
「でもぼく、これ、ぜったいにうらない。ぼくとアキラがはじめていっしょにつくったものだから……」
台詞はいい。台詞はいいんだが、美少女が大型ナイフを恍惚とした表情で見つめてるその絵面が、な?
という思いはおくびにも出さず、シアの頭を撫でる。
「それじゃ、そいつの鞘も作らないとな。ちょっと待ってろ」
俺はなめした革と革紐、そして高圧縮ミスリルのインゴットを取り出した。
高圧縮金属は、その通常の金属を限界まで圧縮して精錬した物。
圧縮の度合いが増した分だけ強度も上昇するが、質量も同様に増加する。
そして当然、加工も難しくなる。
しかし、そのくらいの強度の刃受けを鞘の中に仕込んでおかないと、鍛造して強靭になったミスリルナイフの刃が鞘を突き破って飛び出して来かねない。
流石に天才なシアでも高圧縮ミスリルの加工は無理だろうから、シアには火箸で押さえてもらうだけにして、後は俺が加工する。
通常の真銀を加工する時の数倍の魔力を消費する【
そしてヒヒイロカネ製のタガネを使って革に縫いとめる為の穴を開ける。
革の方は、俺が指導しながらシアに加工させ、刃受けと鯉口を縫い付けてから鞘全体を縫製させた。
最後に、ナイフの柄の部分に余った革と革紐を巻き、シアが使いやすい握りを付ければ完成だ。
「むふぅ~~♪」
腰の後ろへ水平に佩かせてやると、ご満悦の表情で肩越しに見やっている。
「使い方は昨日の訓練と同じだ。右手で抜いて、そのまま逆手持ちで少し前屈みに構える。シアは小柄だから、まずは相手の傍をすり抜けながら脚、太ももを狙う。相手が膝をついたり倒れたら急所の首や目を突く」
「うん! おぼえてる!」
「よし。なら、俺に向かって打ち込んでみろ」
「えっ!? アキラ、けがしちゃうよ!?」
「ミスリルナイフくらいじゃ俺のウェアは切れないから大丈夫だ」
「でも……」
外側がミスリルコーティングされている耐刃繊維が普通のミスリルナイフ程度でどうにかなる訳がない。
でも、シアにはそれが分からないだろうしな。
俺は困り顔のシアの頭を優しく撫でた。
「分かった分かった。なら、まずそこら辺の木で練習してみようか。但し、そのナイフは凄くよく切れるから、勢いを付け過ぎないように気を付けろ? 転んで怪我をしたら大変だからな」
「わかった!」
近くの木へとテトテトと寄っていきナイフを構えるシア。ちゃんと教えた通りの姿勢だ。
「しっ! しっ! しっ!」
素早い動きで木の脇をすり抜けながら、ナイフが木に当たる瞬間だけ鋭く息を吐く。何処かの誰かさんのように声を出す必要はない。得物が相手に当たった瞬間だけ力負けしなければそれでいいのだからな。
これも教えた通り、相手をすり抜けてから止まらずに身体を切り返し、3回切りつけてから元の場所へと戻るシア。戦場で立ち止まる事程危険な事はない。
「あれ? なんかれんしゅうとちがう?」
まじまじとナイフを見つめるシア。
「そりゃあ、木剣で叩いた時とは違うからな。ほら」
俺がシアの切った木をペシっと叩くと……
ビキッ! バキバキバキバキ!
俺が叩いた所と反対方向に折れながら倒れていった。
シアは目を丸くしている。
「この木の太さはそのナイフの刃渡りの倍程度だからな。周りをぐるりと切ればこうもなる。それもシアが昨日練習した通りきれいに切りつけられたからだ。偉いぞ、シア」
「えへへ♪ アキラにほめられた~♪」
ガバッと抱きついてくるシア。
シア、お前分かってるか? 抜き身のナイフが俺の背中をガリガリ引っ掻いてるぞ?
「こらこら。抜き身のナイフ持ったまま抱きつくな。俺じゃなかったら血塗れになってるぞ?」
「え!? あっ! ご、ごめんなさい!!」
俺に指摘されてやっと気付いたシアが、俺の背後に回りペタペタと触って確かめている。
「さっきも言ったが、その程度じゃ俺の服は傷すら付かないから大丈夫だ。でも、武器を持ったまま他の人に触るのはやめるようにな」
「うん! わかった!」
再び頭を撫でてやると嬉しそうにするシア。俺は褒めて伸ばす主義なのだよ。
さて、次はシア用の
もっとも、2人から連絡が来てから動きを見守ってはいたんだが。
先に宿を出たアイは、一旦西に出て昨日訓練した辺りで追っ手を巻いてから街に戻り、こちらに向かっている。
一方、遅れて宿を出たスノウはそのまま北から出て、川に掛かる橋を渡っても更に北上、随分行き過ぎてから西へと方向を変え、森の中で追っ手を巻いてこちらに向かっている。
が、スノウ、追っ手を巻ききれてないな。
追っ手はスノウを見失ってはいるようだが、スノウも追っ手も川縁に出ようとしているから、スノウが川縁を戻ってくると途中で追っ手に再捕捉されてしまう。
俺達と合流する前にどう始末をつけるのか見ものだな。
2人の動きを見ていると、スノウは拙速を尊び、アイは巧遅を尊ぶといったところか。
シアも魔術を使い続けて疲れているだろうから、休憩しつつ見守っていてやるか。
▲▲スノウ▲▲
随分と出遅れた。
街中は人が多過ぎて気配だけでは感知出来ないし、マイズが感知出来る範囲にもアイの反応はない。
アキラに言われた通り朝ご飯を食べてから口の中を香り水で漱いでから宿を出た。
昨日やらかしているから同じ轍を踏む訳にはいかない。
アキラは「北の川縁で鍛冶をしている」と言ってたから、素直に北門から出て川を渡る橋へと向かう。
さて、アキラ達は川のどっち側だろう?
橋を渡らずに川の手前を西に進んだ方が街には近い。
けど、途中に木々が鬱蒼と生い茂るところがあって通りづらい。
もしそっちに行くなら、北門じゃなくて西門から出て、昨日訓練した場所から更に北上して川縁に出る方が行きやすい。
なら、橋を渡って川沿いを西に行ったところだろうか?
あのシアって子を連れているのなら、歩きやすいそっちに行ったとも考えられる。
橋の手前で立ち止まって考えていると、街の方から視線を感じた。
前にアキラから気配の探り方を教えてもらって、自分に向けられる視線や意識というものに敏感になった。
アタシの立場としてそれは歓迎すべき事で、それだけでもアキラに感謝出来るわね。
でも、アキラのところに余計なお客さんを連れていく訳にもいかない。
ここは一旦街から離れて、この先の森の中で巻いてしまうのが一番ね。
アタシはそのまま橋を渡り、北へと向かった。
森に入ったアタシは、木々や下生えを利用して尾行者を巻きに掛かる。
マイズの感知範囲にも、アタシの気配感知にも何も引っ掛からない。
だけど油断はしない。
尾行者は隠蔽や感知に長けた人間だ。
アタシも多少の心得はあるけど、本職には敵う筈もない。
しばらく様子を見て、問題なさそうなら川縁に出よう。
しばらくそこに留まり、マイズや自分の感知に何も引っ掛からない事を確認してから、アタシは川縁に出て歩きだした。
アキラ達はそれほど街から離れてないと思うから、街に戻る方へと歩く。
果たして、直視出来ない藪の向こう側、マイズの感知範囲ギリギリの距離に正体不明者の反応。
アタシの気配感知じゃほとんど分からなかった。さっすがアキラの謎装備!
それにしても、そうきたかー。
見失ったから、逆にアタシの通りそうなところで待ち伏せ。
尾行者の行動としては当然かもしれないけど、厄介よねー。
相手の位置からだとアタシは風下で視線も通ってない。
相手は1人だし、ここはもう一度森に入って、気付かれる前に背後から強襲して黙らせよう。
端に近いとはいえ、森の中は薄暗い。
その視界をマイズが補って見やすくしてくれる。
色味はないけど、枝の一本一本まではっきり見える。
昨日、アキラがゴブリン10匹を倒した時もこんな感じだったのね。
2本の剣を抜き放ち、音が立ちにくい場所を選んで駆ける。
相手が川の方を見ているとしたら斜め後方になる辺りから接近、
「っ!?」
ツプッ!
足を引っ掛けられて転倒した。スネアトラップ!?
更に首筋近くに鋭い痛み。その部分に手を当てると血が滲んだ。
素早く身体を起こして立ち上がろうとしたけど、身体の感覚がどんどん鈍くなり、剣を地面に突き立てて支えにしながら片膝立ちになるのがやっとだった。
そうか。麻痺毒を仕込んだ針か。
油断したつもりはなかったけど、相手の方が上手だった。
「多少は頭も回るようだが、俺にとっちゃカモだったな。んじゃ、仲間を呼んでこのままゴブリンの巣に放りこんでくるか」
おあいにくさま。アビット周辺のゴブリンは昨日の夜にアキラが殲滅したわよ。
「んー、それなりに上物だし、そのままゴブにくれてやるのも癪だな。仲間を呼ぶ前に楽しませてもらうとするか」
ゴブリンは殲滅されてても、下半身がゴブリンと同等なおバカはまだいるんだった……
毒が回ってきて地面に崩れ落ちたアタシ。もうマトモに声すら上げられない。
イヤよ! こんなゴブリンと変わらないヤツにヤられるなんて!
助けて! アキラ!!
シュンッ! ボッ!
アタシが心の中でアキラに助けを求めたその瞬間、僅かな風切り音と共に男の首から上が弾けとんだ。
血を噴水のように撒き散らせながら崩れ落ちた男の身体。
これって確か!?
「ったく、大廻りして避けないで、何でワザワザ強襲するかな。ゴブじゃないんだから、待ち伏せの背後はトラップで守ってるに決まってるだろ」
アキラー! あぁ! やっぱりアキラは頼りになる!!
さっきのは銃による攻撃だ。前にゴブリンから助けてもらった時と傷が同じだし。
「仕方ない。鍛冶は止めにして街に戻るか。シア、街に戻るから、お前が持ち上げられる道具だけバッグにしまっておいてくれ」
連絡を終えたアキラがアタシを背負って立ち上がる。
あの! お姫様抱っこを所望するわ! アタシお姫様だし!
と言いたかったけど、麻痺っててまともに喋れらないから、そのまま背負われていく。
役得だけどカッコ悪いなぁ……
それに後で説教されるわね。
嬉しいやら悲しいやら……
△△アイ△△
私がそこに着いた時、その場所にはシアしかいなかった。
「あ! アイおねえさんこんにちは!」
「シアちゃん、こんにちは。アキラは?」
「アキラはスノウおねえさんたすけにいったよ!」
何やってんのよスノウは。アキラに迷惑掛けて……
ふふっ♪ でも感謝するわ♪ これで相対的に私の株が上がるもの♪
辺りは草が刈られ、鍛冶に使ったであろう金床が置かれているが、他の道具は見当たらない。シアが片付けたのだろうか?
シアに再び目を向けた時、腰に佩いている
通常の物より柄が長い。きっと筋力のなさそうなこの娘が両手でも使えるようにそうしたのだろう。
「シアちゃん。その腰の短剣、もしかしてアキラと?」
「うん! アキラとぼくがいっしょにつくった!」
やっぱり。アキラはこの娘が手に職を付けられるように色々教えてるようだ。
「少し見せてもらってもいい?」
「いいよ! はい!」
シアは短剣を鞘から抜いて私に差し出してきた。ちゃんと刃を此方に向けないように。教育が行き届いているわね。
シアから短剣を受け取って気付いた。これ、アキラが偽装して持っていた槍と同じで総ミスリル製じゃないの!?
この子はこれをアキラと2人で作ったと言った。
ミスリルの加工は高性能な炉がないと出来ない。
でも、この周囲にそんな炉なんて見当たらない。
どうやって作ったのだろう?
「ねぇ、シアちゃん。どうやって作ったの?」
「ぼくがあつくして、アキラがたたいて、ぼくがといだの!」
ちょ、ちょっと待って!? 「ぼくがあつくして」!?
魔術で簡単に加熱出来るような金属じゃないわよミスリルって!!
海を渡った遥か西の国にそれが出来る鍛冶の村があるとは聞いた事があるけれど、少なくともこの国にはそれが出来る魔術士はいない。
まさかね……もしこの子の話が本当なら、この子はこの国の最高導師以上の
私は礼を言ってナイフを返すついでに聞いてみる。
「ナイフありがとう。ところでシアちゃん、今、ミスリルを熱くする事って出来る?」
「できるよ! ん~と……あった!」
彼女はバッグから火箸とミスリルの欠片を取り出し、火箸でその欠片を挟むと真剣な顔になって集中し始めた。
「なっ!? 何、この膨大な魔力!? こんな小さな子がこれだけの魔力を扱えるっていうの!?」
あり得ない程の魔素魔力変換能力。
私はもちろん、私が知っている誰も、恐らくこの国の最高導師すら足元にも及ばない程の。
驚愕したまま呆然と彼女を見ていると、火箸に挟まれたミスリル片が紅く輝きだした。確かに加熱されてる。
天才という言葉はこの子にこそ相応しい……
アキラと一緒にこの子も取り込められれば、故国再興もぐっと近付く。
「確かにシアは天才だが、このくらいならお前さんやスノウでも出来るぞ?」
「ひゃあう!?」
急に背中から声を掛けられて驚いた私は、思わず変な声を上げてしまった。
「……何かろくでもない事考えてたな? まぁいい。ちょっと手伝ってくれ」
び、びっくりした……
少し不味ったかも? アキラに変な疑念を抱かせたかもしれない。
シアに指示して敷物を敷かせ、そこに背負っていたスノウを降ろしたアキラに対して、内心の動揺をおくびにも出さずに言葉を返す。
「手伝う? って、スノウ、どうしたの?」
「尾行者に手を出そうとして返り討ちにされた、ってところだ。麻痺毒喰らってるな。残念ながら、俺は直接解毒する事は出来ない。このままだと乙女の矜持が大ピンチになるだろうから、下着の下にこれを履かせてやってくれ。シアも手伝ってやってくれ」
エの字型をした白い布のような物を私に渡してきた。なにコレ?
私が怪訝な顔をしていたのか、アキラはシアを呼んで、彼女の服の上からそれを履かせる実演をしてくれた。
あぁ! これは乳児や幼児に履かせるアレね!
なるほど確かに、麻痺させられてたら毒が抜けきる前に垂れ流しになりそうだものね。それよりはコレの方がかなりマシか。
乙女の矜持が大ピンチから小ピンチになる程度だけど。
シアと協力してスノウのボトムスと下着を脱がせてコレを履かせる。
あら、コレ、すごく履かせやすいわ。
私が知っているものは、長い布をぐるっと巻き付けるのだったけど、これなら腰の後ろから前に股間を通して腰の両脇でピタッと止めるだけで済む。
アキラとの間に子供が出来たら育児もやり易そうね♪
ん゛ん゛! それは少し置いておいて、スノウ、良かったわね! んぷぷ♪
下着とボトムスを元に戻して、アキラを振り返って見る。
片付けを終えたアキラは背負う筈のバッグを前側に着け、こちらに背中を向けて辺りを見ていた。
「アキラ、終わったわよ」
「ありがとな。さて、街に連れて帰るか。俺達の宿に二人部屋を取るからアイもこっちに移ってきてくれ。二人の今の部屋は分かっているから、荷物は俺がこっそり持ってくる」
「分かったわ」
むふふ♪ 労せずしてアキラと同じ宿に移れるわ♪
シアも将来有望な感じだし、精々仲良くして私のところに取り込まないとね♪
◇◇シア◇◇
私は目を開いた。
見覚えのない天井が目に入る。
頭が痛い……まだ意識が朦朧としている……
ぼぉっとした意識の中、首を傾けて横を見る。
やはり見覚えのない壁。そして扉。
ここは何処だろう?
そのまま何気なくそちらを見ていると扉が開き、数人の男女が入ってきた。
「おや? どうやら目が覚めていたようです、
白い衣服を身に付けた男の人が横になっている私の傍に歩み寄り、目を覗き込んだり首筋を触ってくる。
朦朧としている私はなすがままにされていた。
一通り私を調べ終えたその白い男の人が私にゆっくり話し掛けてきた。
「貴女は自分が何者か分かりますか? 名前は?」
名前……? 私の名前は……
「シア……」
頭に浮かんだ名前を告げた。
「シア、さんですか。劉巌様、彼女の名前は『シア』というようです」
「シア、か。良い響きの名だ。シアよ。お前は何処から来た? 何故あの場所で倒れていた? そして、何物でも傷つけられぬその衣は何だ? 答えよ」
低い響きの声。有無を云わさない迫力があった。
でも私は
自分が何処から来たのかも、どうしてここでこうしているのかも。
「劉巌様、やはり衰弱状態が長すぎ、記憶に障害があるようです。まだ意識もはっきりしてないようですし、尋問はもうしばらく養生させてからの方がよろしいかと」
「そうか。ならばまた3日後に来るとしよう。それまでに真面に話が出来るようにしておけ」
「承知いたしました、劉巌様」
白い男の人だけを残して、他の男女は部屋から去っていった。
それを頭を深く下げて見送っていた白い男の人は、頭を上げた後、私の傍に来て話し掛けてきた。
「まずはお腹に何か入れましょう。重湯を用意してきます。その後、休
み休みで良いので貴女の話を聞かせて下さい」
「はい……」
私は白い男の人に従う事にした。
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