5
冬なこともあって、日が落ちるのは早い。学校を出て、10分も経たずに空が橙色に染まった。影が見えなくなることを杞憂した
(どこで、そんな知識を身につけてくるのか)
樹がそんなことを思って圭と一緒に歩いているうちに、日は完全に落ちてしまった。
「もう日も暮れたし、今日は無理だな。時間も遅いし、帰ろう。」
樹が圭に呼びかける。
「いや、ここまで来たんだ。俺は確かめたい。」
暇つぶしに真実解明を目指す圭にしては、生き急いでいた。樹は普段とは違う圭に違和感を覚える。圭は立ち止まる樹を無視して、前へと進む。樹はその時、今日初めて、圭を頭から足下まで全身を見た。辺りは暗く、樹の視界では実際の距離以上に圭が遠く感じる。
樹がしょうがなく圭の隣に戻ると、圭は樹の方は向かないまま、話し始めた。
「影が無い生徒の噂は、俺の10歳上の兄ちゃんの時もあったらしい。起源はもっともっと昔らしい。……どうして、生徒なんやろうな?」
樹はよく分からない圭の質問に、何も考えず適当に返す。
「はぁ?そういう噂なんじゃないの?」
「じゃあ、どうして、影が無いんだろうな?」
「知らないよ。圭、さっきから何が言いたい?」
樹はわざわざ質問形式で話す圭に苛立ちを感じる。圭はそんな樹のことも気にせず、あいつのこと見つめている。圭がジリジリと、あいつとの距離を詰める。
「実は、影が無いのは元からじゃなくて、奪われたかららしいんだ。あいつも、元は同じ高校に通う高校生だった。」
圭が不気味に笑う。
「俺たちがあいつのことを見つけられるようになったのは、次は俺たちの番だから。今度は樹か俺のどちらかがその存在を奪われる。」
樹がふと周囲を見渡すと、ほとんど人のいない路地に入っていた。あいつとの距離はもう1~2mほどまで近づいていた。それ以外は暗くてよく見えない。
パッ、と突如として街灯がつく。チカチカ光る街灯のちょうど真下にあいつが立っている。近くにいたはずの圭が、あいつよりも遠くにいる。樹が圭の方を向くと、圭も樹の方を向いていた。ただ、樹を見る圭の顔は後ろめたさと恐怖で歪んでいた。
「樹、ごめん、俺はまだ消えたくないんだ。」
そう言って、圭は走って逃げる。樹の頭の中では、先程まで圭が話していた内容がグルグルと回っていた。全部は理解できないけど、あいつが異様な存在で自分はその生贄にされたのだ、と直観的に分かった。
あいつが樹に近づく。街灯の真下で見えなかったあいつの影が樹の方に伸びてくる。
(あれ、影が……ある?)
樹がそう思ってあいつのことを見ていると、近づいてきたあいつがゆっくりと手を目線の高さまで上げて指をピンと立てて、樹の方に向ける。いや、その指先は若干、下方向に向いている。樹は、それが樹よりも後ろを指していることに気づく。
振り返ると、そこにあるはずの樹の影が無かった。
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