尾行は放課後になってから行う。それまで、いつきはあいつの姿を見ることも、けいと会話をすることもなかった。最後の終業のチャイムが鳴って、圭が樹に話しかける。


 「行こうぜ、校門で待ち伏せ。」


 圭はすぐさま帰り支度を済ませ、ウキウキで樹の元に駆け寄る。


 「探しに行かないのか?」


 樹は圭のいつもの様子に今朝の気まずさもなくなって、いつも通り接する。


 「探しに行って、すれ違ったら意味ないだろ?ほら、急いで、急いで。」


 急かされた樹は支度を済ませて、圭の後を追って校門へ向かう。


 樹が校門に着くと、先に向かっていたはずの圭が後ろから声をかけてくる。圭は校門近くの校舎裏に隠れて、通る生徒の群れを観察するようだ。樹が圭のそばに近づく。


 「圭、影が無いのを確かめるってどうするんだ?」


 樹が圭に尋ねた。


 「それはその時まで秘密。代わりに、その噂について新しく手に入れた情報を教えてやるよ。」


 得意げな圭に樹は黙って聞く姿勢をとる。


 「『影が無い』ってのはな、『存在が無い』ってのに繋がるんだ。影が薄いとか、噂をすれば影が差すとか、言うだろ?だから、影が無い生徒ってのは、その存在も認識されないんだ。だから、他の奴にはあいつが分からなかった。どうして、俺たちが分かるのかは知らないけど、その真相を調べられるのは俺たちだけなんだよ。」


 樹は圭が今朝、もう一度、誘ってきたことに合点がいった。


 「それで、その噂の起源ってのが……あっ、いた。樹、行こう。」


 圭の話はそこで止められ、あいつの後を追い始めた。

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