次の日、いつきは普段通り登校した。樹が高校に着いた時、けいはまだ席にはいなかった。圭が樹より遅れて登校してくることは、同じクラスになってから半年、片手で数えられるほどしかない。


 (昨日は少し強く言い過ぎたかもしれない……)


 樹は今朝から圭に会わずに済んだ安堵と圭の誘いを断った罪悪感で、得も言われぬ思いを感じていた。圭との再会に緊張が高まっていく。普段は気にしないはずの教室のドアに注意が向く。ガラガラと開く度に、樹の体が一瞬こわばる。


 「よう、樹。」


 樹が気にしていた扉とは反対の扉から入ってきたのであろう圭が、樹の後ろから声をかける。驚き慄く樹とは対照的に、圭は平然とした様子だった。それどころが、多少、気の抜けた感じで、昨日の熱はどこへ行ってしまったのだろうか。


 「お、おう。」


 樹は戸惑いながらも挨拶を返す。樹は気後れて、それ以上、会話を続けられない。樹がどうやって昨日の話を切り出そうかと迷っていると、また圭の方から樹に声をかけた。


 「昨日、帰りの通学路であいつの跡をつけてたんだよ。それでさ」


 圭は昨日のことを気にしていないのか、あの後のことを陽気に話した。昨日のことを気にしていない、というよりか、昨日のことなど無かったかのようだった。


 「で、結局、途中で見失っちゃったんだよ。今日も昨日の続きをしようと思ってるんだけど。樹もどう?」


 圭は懲りずにまた樹を誘う。


 「いや……」


 樹は想定してなかった圭の再度の勧誘に戸惑う。


 「どうせ、暇だろ?」


 確かに樹には今日の放課後、特に何の予定もない。あるとすれば、明日までの課題を終わらせるくらいだ。


 「一緒に来るだけでいいからさ。明日の課題が終わってないなら、また見せてやるし。もう強引に誘ったりしないから。これで最後。」


 狼狽える樹にここぞとばかりに圭が責める。


 「まあ、一緒に行くだけなら……。これで最後だからな。」


 樹は押しに負けて承諾する。


 「ああ、これで最後だ。」


 そう言う圭の表情は、昨日よりも真剣だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る