3
次の日、
(昨日は少し強く言い過ぎたかもしれない……)
樹は今朝から圭に会わずに済んだ安堵と圭の誘いを断った罪悪感で、得も言われぬ思いを感じていた。圭との再会に緊張が高まっていく。普段は気にしないはずの教室のドアに注意が向く。ガラガラと開く度に、樹の体が一瞬こわばる。
「よう、樹。」
樹が気にしていた扉とは反対の扉から入ってきたのであろう圭が、樹の後ろから声をかける。驚き慄く樹とは対照的に、圭は平然とした様子だった。それどころが、多少、気の抜けた感じで、昨日の熱はどこへ行ってしまったのだろうか。
「お、おう。」
樹は戸惑いながらも挨拶を返す。樹は気後れて、それ以上、会話を続けられない。樹がどうやって昨日の話を切り出そうかと迷っていると、また圭の方から樹に声をかけた。
「昨日、帰りの通学路であいつの跡をつけてたんだよ。それでさ」
圭は昨日のことを気にしていないのか、あの後のことを陽気に話した。昨日のことを気にしていない、というよりか、昨日のことなど無かったかのようだった。
「で、結局、途中で見失っちゃったんだよ。今日も昨日の続きをしようと思ってるんだけど。樹もどう?」
圭は懲りずにまた樹を誘う。
「いや……」
樹は想定してなかった圭の再度の勧誘に戸惑う。
「どうせ、暇だろ?」
確かに樹には今日の放課後、特に何の予定もない。あるとすれば、明日までの課題を終わらせるくらいだ。
「一緒に来るだけでいいからさ。明日の課題が終わってないなら、また見せてやるし。もう強引に誘ったりしないから。これで最後。」
狼狽える樹にここぞとばかりに圭が責める。
「まあ、一緒に行くだけなら……。これで最後だからな。」
樹は押しに負けて承諾する。
「ああ、これで最後だ。」
そう言う圭の表情は、昨日よりも真剣だった。
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