体育が終わって、着替えている時もけいはその話を続けた。


 「そう思って、ここ最近気にかけてみてたんだけど。あいつ、いつ見ても影が何かに隠れて見えないんだよ。」


 「そんなのたまたまだろ。」


 いつきは仕方なく圭の話に付き合っていた。


 「だから、いろんな奴に聞いて回ったんだよ。『あいつにのを見たことがあるか?』って。そしたら、皆、『そんな奴、いたっけ?』だと。それで、今日、樹にも聞いたんだよ。」


 それを聞いても樹は興味がなさそうだった。


 「絶対に何か秘密があると思うんだよなー。樹も調べるの手伝ってくれねぇ?この前、英語の宿題を見せてやったろ?」


 圭はそんな樹の様子も構わずに強引な勧誘をする。


 「……まただろ?」


 樹は呆れ顔で圭のことを見る。樹に圭がこんなことをお願いしてくるのはなのだ。


 灰島はいじま 圭には妄信癖がある。都市伝説やら噂やら、学校の七不思議からクラスメイトの二股騒動まで、話を聞きつけてはに興じる。部活にも入らず、バイトもなく、特にやりたいこともない高校生にとっては、格好の暇つぶしなのだろう。その度に、樹は付き合わされたり巻き込まれたりした。


 「俺はいいよ。もうそういうのは勘弁。そもそも、仮に影が無かったとして、それが何なんだよ。俺には関係ないだろ。」


 樹はわざとキツイ言葉を使って、圭を突き放した。樹がしっかりと拒絶を示したのは、これが初めてだった。普段と違う樹の反応に、圭は動揺をみせる。


 「それは、そうだけど。……そっか。」


 圭はいつもより、すんなりと引き下がる。圭の声のトーンがガクンと落ちる。


 「とにかく、今日の放課後、あいつに影があるのか確かめる作戦があるから。明日になったら、どうだったか教えてやるよ。」


 樹が思っていた以上に落ち込んだ様子の圭は、明らかに無理をして明るく振る舞っていた。

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