第23話訪問


時は萬崎が太松太郎を討ち取った日の夜までさかのぼる。








夕刻、萬崎の家で勝利の宴がおこなわれていた騒がしかった。




じいはキョロキョロしながら近くにいた家来に




「殿はみなかったか?」




「あの殿の事だからどこかうろちょろしてるんじゃないですか」




「まったく今日は殿が主役なのに」




その頃萬崎は領地内の民家を訪ねていた




「家の方いらっしゃいますか?」




「はい、あっこれはお殿様」




萬崎は民に向かって




「本当にすまなかった」




萬崎は土下座した。




民は慌てて




「どうなされたんですか、顔をあげてください」




「すまない、あなたの大切な旦那さんを奪ってしまって」




「仕方ないですよ、戦なんですから主人ちゃんと戦ってましたか?」




「そりゃ、我のために全力で戦ってくました」




「そうですか、主人も喜んでいると思います。わざわざ勝ち戦の宴を殿様が抜けて家にお褒めの言葉を言いに来て下さるのですから」




「俺は早くこの国から戦を無くし皆が幸せに暮らせる世の中を作りたい」




「萬崎様ならできますよ」




「これ少ないが供養に当ててくれ」




萬崎はお金を渡した。




「いや、これは私達にはもったいないですよ」




「今まで我に奉仕してくれた分だ、困ったことがあったら遠慮なく申してくれそなた達のことは必ず面倒見るから」




萬崎は去って行った。




民は萬崎の去っていく背中を見て




主人があなたに仕えてた事は私のほこりです。




萬崎は三日かけて死者が出た家を一軒一軒回っていったのであった






後日萬崎の元に豊影から降伏の手紙が届いた。




萬崎はその手紙をちゃんと読まずにの返事を適当に書いた。






豊影は不安そうな表情で震えながら萬崎の城の前立っていた。




「伊藤、大丈夫なのか、我々が萬崎の前に行っても」




「大丈夫じゃないですか、手紙に同盟を結びたいって書いてオッケーって書いてあったんですから」




「いや、あまりにも軽い返事で不安なんだよな」




「まぁ、不安になっても仕方ないからとりあえず萬崎に会いましょう」




豊影は門番に向かって大きな声で




「萬崎殿にお会いしたい」




門番は豊影をジロッと見て




こいつのこの身なりはどこかの大名かな。




門番は丁寧な口調で




「どこの方でございますか」




「我の名は豊影でござる」




伊藤はあきれた感じで




あっ、殿はいつもござるなんて言わないのにもう緊張しちゃっておるな




「豊影?豊影ってあの豊影か?」




「そうでございます」




門番はさっきまでとは態度を変えて




「貴様らよくここにこれたな、今この場で首を刎ねてやる」




門番達が豊影の首元に槍を突き付けた。




それを見た伊藤は




ヤバい




逃げようとするが豊影がしっかり袖をつかんで来たので逃げられなかった。




豊影は少し怯えながら




「我らは萬崎殿に土産を持ってきた、刀もここにすべて置いていくだから萬崎殿にあわせてもらいたい」




門番は警戒しながらも




土産ってもしかしたら大事なものかもしれぬな、もし大事なものを持ってきた者をかってに刎ねたりしたら我も刎ねられるかもしれぬ。




「今、殿にお伝えしに行きます」




門番はしっかりと門を閉めて豊影達を残し萬崎に確認しに行った。




「殿」




「どうした」




「豊影が城の前で待っております」




萬崎は驚いた顔で




「豊影?」




家臣達に緊張が走る。




「豊影って誰?」




「あー、あー」




家臣達は皆転んだ。




「豊影ってこの前の戦で太松太郎の先鋒を務めていた奴ですよ」




「若松の先鋒を務めていた?」




「はい」




「てっことは我らに仕返しに来たのではないのか、怖いからそんな奴さっさと引き返してもらえ」




「はっ、しかし殿に手土産を持って来ているそうですが」




「お土産を持って来てるのか?」




「はい」




「ただちにおもてなししろ、早く」




「殿、そんな危険な者を城に入れてはなりませぬ」




「爺や、何かたいことを言ってんだ、遠路はるばるお土産を持ってきたのだから入れてやらねば」








そんなこんなで萬崎家は豊影をもてなす準備をした。




「失礼します」




「おーこれはこれは豊影殿、よー来た、よー来た」




伊藤は萬崎の様子を見て




なぜこの男はここまで機嫌がいいのか?我らは敵として戦ったんだぞ




豊影も




この男、太松太郎を倒した男だ、何か考えてのこの態度だろ慎重にいかねば。




萬崎は豊影達とは対照的に




お土産、お土産、早く早く、何だろ 何だろ、甘いものがいいな、楽しみだぁーい。




萬崎は心をウキウキさせながらそれを悟られないように低い真面目な感じで




「ところで豊影殿、我に何の用だ」




君がお土産持って来てることは知っているけど聞いてみたんだぁーい。




「これでございます」




豊影は布を萬崎に差し出した。




「なんだこれは?」




「この中に今日の手土産が入っております」




「おー土産か、これ見てよいのか?」




萬崎は嬉しい感情を押し殺しかっこよく聞いた。




「もちろんでございます」




「なんだろうなんだろ甘い物かなぁ楽しみだな」




萬崎は布を手に持ち引いた。




「うわぁーなんだこれは?」




萬崎は思わず尻餅をついた。




「太松太郎の息子千寿丸の首でございます。これを萬崎殿に献上し同盟を結んでもらいとうございます」




萬崎の顔が一気に変わり




「なんだお主は、こんな小さな子供を殺して人間としてクズだ」




豊影は伊藤を見たが伊藤も豊影と同じように萬崎の予想外の反応に対応できなかった。




「いえ嫌がらせではございませぬ、我らの萬崎家への忠義でございます」




「小さな子供を殺して何が忠義だ、ふざけるな!!」




萬崎は真っ赤な顔をして怒った。




「申し訳ございませんでした」




「さっさと帰れ」




豊影達は追い出されて




「伊藤、まさか怒るとは」




「私もあの反応は予想外でした」




「あんだけ怒らせたら同盟は無理だな」




「しかし奴は太松を倒した男、奴と同盟を組まなきゃ豊影家はこの世を生き残ることはできませんよ」




豊影は頭を抱えた。




萬崎を怒らせた豊影は果たしてどのようにして同盟を結ぶのだろうか

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