第9話 救出

夕方、片倉は経丸の部屋を訪ねて




『殿、またこのような手紙が来てます』




手紙の内容は『ひのをよこさなければ兵を差し向ける』と書かれている。




『豊影って何者かわかりますか?』




『二日ほど前に稲荷君に豊影の情報を集めに行ってもらっているので稲荷君が帰ってきしだい殿にご報告します』




『すみません、よろしくお願いします』




「はい」








次の日の朝四時士郎は寝床で


今日も眠いでもあっ今日から殿と走りこみできるんだ。


士郎は飛び上がるようにして起き、着替えて経丸と合流し走り込みに行った。


「士郎、豊影って知ってる?」




「豊影?そんな奴知らないそいつがどうしたの?」




「ひのを返せって言ってきたんだよ」




「なんで?」




「理由はわからない。でも私は返したくない」




「なんで?」




経丸は士郎に心配かけないように昨日事は話さず




「いや、なんとなく」




 士郎は経丸の返答にそれがしには話せない何かがあったんだなと思い




「そっか、経丸が返したくないと思うなら返さないのが正しいと思うよ」




「ありがとう、士郎」




「おい、ペース上げるぞ」




「おう」




二人はこの後日課の稽古も各自で終えたのであった。




経丸は縁側で休憩していると






『殿―、豊影の身元がわかりました』




『ほんとですか‼』




「稲荷君、殿にご説明を」




「はい」




『豊影は愛知県の東側半分を治めている砂東家の家臣だったのですが、謀反をおこし砂東家の城主砂東寛を殺して今、砂東を乗っ取っております』




片倉が




『すなわちひのは砂東家の者だった可能性があります』




『なぜ、そのような事がわかるのですか?』




『憶測ですが豊影が砂東を潰したって事は完全に砂東家の者は皆殺しにしたいはずです』




『そうか、ひのは砂東家の生き残りかもしれないのですね』




『そうです、ひのは多分東砂の娘です。じゃなきゃ豊影もこんな所まで追ってきたりしないですよ』




『それもそうですね』




凛がスッと経丸の隣に来て




「殿」




「どうしたんですか、凛ちゃん」




「ひのちゃんの枕元にこんな手紙が置いてありました」




経丸は凛を急かすように




「見せて」




凛は経丸に手紙を渡した。




手紙には「少し外に出ていきます」




凛は不思議そうに




「殿、これはどういうこと何でしょう?」






『これはもしかして、ひのちゃんは私たちの会話を聞いて豊影の所に行ったのは間違いありませんね』




最初からこの場にいなかった凛は状況が把握できず




「どういう事ですか?」




経丸は凛に丁寧に説明した。






「経丸~経丸~経丸はそれがしがいないと生きていけなぁーい」




士郎は陽気な顔でどうしようもない歌を歌いながら戸を開けて入ってきて皆の顔を見て




「どうしたんだ?そんな深刻そうな顔をしてパッとしないな、こんな天気のいい日に城に籠ってたらいけないよ」




経丸は呆れながら




「いつもならクソみたいな歌に突っ込むけど今はそれどころじゃないの」




「何がクソみたいな歌だ、それがしの名曲をそれより皆散歩でもしたらどうだ下がしているひのちゃんでさえ元気に歩いていたんだから」




「ひのちゃんが!」




経丸は思わず叫んだ。経丸の叫び声にびっくりして士郎は思わず飛び跳ねた。




「おい、いきなり大きな声出すなよびっくりするじゃんか」




「士郎、ひのちゃんが歩いてたって!」




経丸は勢いよく士郎に迫った。




「そうだよ、どうしたの?」




「どこ歩いてたんだ」




士郎は経丸の迫力につい敬語で




「一時間くらい前に外ですれ違いましたよ」




経丸は大きな声で




「皆さん、今からひのを連れ戻しに行きましょう」




士郎以外は声を揃えて




「はい、もちろん」




一人状況がわからず取り残された士郎は




「えっ、ちょっと待って今からどこ行くの?」




「ひのを取り返しに愛知県まで」




士郎は驚き大きな声で




「愛知!!愛知!!」




「ひのが豊影っていう愛知県を本拠地とした大名に殺されるから助けに行くの」




「それは大変じゃねぇか、行くぞお前らー!」




凛は呆れた感じで




「兄貴、あんたが仕切るんじゃない」




と士郎の頭を叩いた。




経丸は覚悟を決めた表情で自分を奮い立たせるために皆に大声で宣言するように




「私は相手がどんなに強くても、もう逃げない!絶対に逃げない!!」




片倉は真剣な顔で




「殿、私も覚悟を決めました。絶対にひのちゃんを取り返しましょう」




経丸は嬉しさのあまり目をうるうるさせながら




「片倉さん」




凛は力強い声で




「私も微力ながらひのちゃんを取り返せるよう戦います!!」




「凛ちゃん」




稲荷はみんなに聞こえるかどうかわからないくらい小さな声でボソッと




「僕も戦力になるかわからないけど戦います」




士郎は大声で




「よし、これで皆の意見がそろったね」




「いや、兄貴まだ稲荷さんがここにいないから呼んでこなくちゃ」




士郎は顔をひきつらせながら




「凛、隣にいるよ」




凛は慌てて右隣を見るとそこにはちょこんと稲荷が座っていた。




凛は顔を引きつらせながら




「えっ、すみません。いつの間に?」




「ひのちゃんの枕元に手紙がの前から」




えっ,私より前からいたんじゃん




申し訳なさそうな凛の横で士郎が




「稲荷、影が薄いってすげぇー才能じゃん」




稲荷は小さい声で




「そんな才能は嫌だ」




皆、顔を引きつり空気がどよーんとした。




士郎はこの空気に焦って




「じゃあ、気合を入れるために片倉さん一発ギャグお願いします」




「えっ、この空気の中!」




「こういう時早く言わないとハードル上がるよ早く、早く」




士郎の急かすような口調に片倉はつられるように




「愛知はあっちぃー」




皆反応せずシーンとした。




「おい、士郎君酷くないか?」




士郎は片倉の言葉を無視してすかさず




「さぁ、片倉さんが盛大に滑ってくださいましたが気持ちを切り替えましょう」




こいつ、最低だ!




片倉は士郎を呪うように睨み付けた。






士郎は片倉の呪いなど全く感じず




「行くぞ大多喜―」




皆気合が入った声をそろえて




「魂‼」




「おい、お前だけいいかっこするなよ」




「いや、片倉さんのギャグがよかったから」




皆、片倉にパチパチと小さく拍手した。




片倉は少し笑いながら




「何の拍手だよ」




皆、笑った。




こうして天羽家は一致団結してひのを救出することを決めたのであった。


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