第12話  あいちゃんと壮志(1) (高校生)

「壮志くん……」

 

 あいは壮志くんの存在を知って、声をかけずにはいられなかった。


「篠裏か……智也から聞いたのか?」

「まあ……」


 あいは声をかけた瞬間に言おうと思ったことを忘れてしまう。


 ともくんから聞いたというか自分で気づいたのだが、慌てて適当に濁す感じで答えてしまった。


「そうか」


 壮志くんはまた何かを失ったような顔をする。これで2回目だ。


「壮志くん……!」


 あいは遠くにいってしまうような感覚になり、思わず壮志くんの名前を叫んでしまう。


 イジメられた相手にこんなことは普通しないだろう。でも——壮志くんは違う。


 壮志くんは一度だってあいをイジメてなんかない。ともくんには一緒にイジメているように見えるとは思う。


 人は集団でいれば一括ひとくくりとして見られる。


 部活に例えると、あれは”バスケ部”の人だと言われる。何とかくんだ、じゃなく”バスケ部”の何とかくんだ、と言われるようになるのだ。それと一緒でイジメも一緒にいるだけで、”イジメていた人”として一括りされるのだ。


「壮志くんは何であいをイジメなかったの?」


 そう。決して壮志くんはイジメなんかしていない。あいは壮志くんにイジメられたと思わなかった。


「もう俺のことは忘れてくれ」


 そう言い、どこかへ逃げようとする。あいと話したくないのかな……


「あいは! あいは……壮志くんのこと嫌いなんかじゃないよ」


 何とか言いきることができた。


 ずっと、ずっと、事故にあった時避けられているような感覚だった。


 でも入院の時期だけは、近くに壮志くんがいたような気がした。紫の花を見ると抱きしめたくなるような、そんな悲しそうな雰囲気がただよっていた。


「なんで……? 俺はあんな酷いことをしたんだ、許さないでくれよ……」

「もういいよ、壮志くんはあいをイジメなかったじゃん」

「止めないで見ていたんだぞ俺は」

「いいから」


 なぜか今になって怖くなってくる。すぐにどっか行きそうな壮志くんを何とか引き止めているような現状だ。


「俺は……許されちゃいけない、そういう人間になった」


 何とかいいきっかけがないといけない。何か……、何か……


「壮志くんは小学生の頃の約束忘れちゃった?」


 あいが思い出したのは小学生の頃、壮志くんと交わした約束。


 今になって思い出したのが奇跡というべきか、あいも実際忘れてしまっていた。だが、この時、頭に入り込むような感覚になり思い出すことができた。


「約束?」

 

 壮志くんは覚えていないみたい。確かにあの約束は覚えているような約束じゃない。


 あの約束は確か子供だったあい達だからした約束みたいなものだ。子供のノリてやつ?


 あの約束は——

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幼なじみとの思い出はやっぱりどのヒロインよりも最強だよね? 春丸 @harumarusan

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