第11話  智也と壮志

「なんで壮志がいる……」

「いや……、これは……」

 

 眉間にシワを寄せながら、険しそうな表情で言う。


 そんな僕の顔に壮志は顔を地面の方に向けている。壮志のことだ。何かしようと思い、来たのだろう。

 

 壮志がいじめ側の方についている時の僕の気持ちを知るはずもない。


「なにしにきたの」

「いや、帰るから忘れてくれ」

「おい……!」


 あいちゃんの病室の近くなのであまり大きな声を出せない。僕は帰ろうとする壮志の腕を掴み、あいちゃんの病室から離れたところに来た。


「僕は許さないぞ——あいちゃんが許しても」

「知っている」


 壮志は今更僕に許してもらおうとしているわけじゃないようだ。じゃあ、なにをしに来たのか疑問だった。


 だから僕は理由を聞かずにはいられなかった。


「じゃあ、何しに来たの」

「お花をね、あげようと思って」


 その花はあいちゃんにあげるやつなのか。壮志は手に持っている紫色の花を見つめながら言う。


 その花に意味があるのか分からないが、とても大事そうに持って見つめているため、僕も綺麗な花だなと思った。


 そして——その花見覚えがあった。


「その花、もしかして壮志がずっとあげに来ていたの?」

「そう、今日は朝行けなくて……あいちゃんには気づかれたくないんだ」


 あいちゃんが寝ている時を狙って花を渡しに来ているらしい。襲ったりしていないよな、と心配になったが、そんなことはあるはずがないとすぐに頭の端に追いやった。


「今来たらバレるよ?」

「分かっていたけど、気づいたら病院にいた」

「ばか……?」


 今日は朝行けなく、花をあげられずにいて、どうしようか悩んでいたら病院に足を運んでしまったと言う。

 

 壮志はそういうところがある。そして、流されやすいタイプだ。


 校則とかもみんなで破れば怖くないように、いじめではみんながいたから一緒になってしまったのだろう。

 

 だが、それで許される問題じゃない。一緒に行動をしてしまっている以上、罪はかぶさってくる。


「俺は帰るよ」


 壮志はもういる意味がないのか帰ると言い出した。その花をどうするのかと思ったが、持って帰るようだ。


 僕は——


「その花僕でよかったら渡すよ」

「……いいのか?」

「うん、壮志だからね」

「許し……」

「いや、許したわけじゃない。やっぱり壮志でも許せる問題じゃない」


 僕は壮志の行動を代わってやるだけ。僕もその花気に入ったから。


 ——なぜだろう。その花を受け取った時、壮志の気持ちを受け取った感覚になった。後悔の気持ち、許しをう気持ち、悲しみ、哀れみ、全てその花に詰まっているようだった。


 そして初恋の終結。これは壮志の気持ちだろうか。俺は壮志の気持ちを背負うような、受け止めるような感じになる。


 この紫色の花の花言葉『悲しみ』『初恋のひたむきさ』『ごめんなさい』『許してください』


「じゃあ、これ渡しておくね」

「ほんとにありがとう……」


 壮志はなぜか泣きそうになっている。


 壮志も辛かったのだろう。


 壮志はいじめに加担したわけじゃない。一緒にいただけ。そして、それが何より辛い立場なのだ。止められず、ずっと見ている立場。止めなきゃ行けないけど止められなかった。——そして事故が起きた。


 壮志には後悔しかない状態。


 それを僕がこの花を受け取って、受け入れられた、背負ってくれた、そう壮志も思ったのではないだろうか。


 だが、許されたわけじゃない。だからこれからも壮志は何度もあいちゃんの知らないところで何かをするだろう。


 そして、それが、直接接するようになるとき、何かが変わるだろう。


「じゃあな」

「バイバイ」


 そうして、壮志の背中はだんだん薄くなるように見えなくなっていった。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る