第10話 あいちゃんの入院
あいはなんであの人がいるのかではなく、なんであの人と普通に話せたのか、を気にした。
あいは気づいていたのかもしれない。——壮志くんということを。
そして、壮志くんじゃないということを信じていたのかもしれない。いや、後者だろう。
だから、アルバムを見て確信したのに驚いてしまったのだ。
確信した時に、頭に小学生の頃の入院生活の記憶が頭に流れ込んできた。
あれは小学生の冬の入院生活のとき——
「ママ、この花なに?」
ママは昼過ぎに毎日は仕事上来れないが、ほとんど来てくれる。でも、ママが来れない日でも、ともくんが毎日来てくれるからとても毎日が嬉しい。
「ともやくんじゃないかしら」
「でもともくんはいつも来る時話しているよ? その時花持ってきてないよ?」
「う〜ん、わからないわ」
「でも今日は増えてない増えてないね」
「そうね」
あいが起きると必ずそこには——紫色のヒヤシンスという花が窓際に置かれていた。
だんだんと増えていくその花は太陽に輝いており、紫色という鮮やかな色に毎朝気分が良かった。
「でもずっと同じ花なんだよね」
「キレイだからいいじゃない」
「あいもこの花好き!」
花のことをああまり知らないあいにとって初めて好きななった花。
それが、ユリ科のヒヤシンス族の花——ヒヤシンス。
この花には花言葉ある。花にはそれぞれ花言葉があるようにこの花にもあるのだ。あいはそんなことを知らない。
ヒヤシンスには花の色によって違う花言葉を持つ。
今回置かれている紫の花言葉は『悲しみ』『初恋のひたむきさ』。
そして西洋では——『ごめんなさい』『許してください』という花言葉を持つ。
後悔を意味する言葉だ。
「わわっ」
あいは窓を開けて外の空気を吸おうとしたら緩く着ていたパジャマが肩から落ちそうになる。
慌てて服を摘み、元の位置に戻した。
小学生だったため、胸などを気にしていなく、浴衣に似たパジャマをダボッと着ていたので脱げそうになった。
「そろそろともやくんが来る頃だからしっかり着なさい」
「は〜い」
ママに注意され服をしっかりと着る。
「ヤッホー」
すると、首をちょこんと出してともくんがやってきた。
「ともくんー‼︎ 待ってたよー‼︎」
「ごめんね、学校があって」
「うん! それよりなんかやろ〜」
小学生の頃もあってか、あいはかなりのわがままだった。ともくんは毎回そんなあいに付き合ってくれていた。
それに比べともくんは最近しっかりするようになったと思う。あいの事故があっから何かあったのかな、と思った。
「ごめん、今日用事があって少ししか遊ばない」
「そっか、じゃあ少しの時間遊ぼ!」
「うん!」
あいたちが会話をしていると、ママはタイミングを謀っていたのか、口を開く。
「じゃあ、ママはまたお仕事に行かなきゃだから、行ってくるわね」
「は〜い」
あいはこの時、ママと離れるより、ともくんとの2人の時間が新鮮で嬉しかった。
ママとはいつでも会えるしね!
そうして遊んでいるとあっという間に時間は進んでいく。
「じゃあ、僕そろそろ行くね」
「えー」
あいはすぐ拗ねた。今もかもしれないが、わがままで頑固な性格だったのである。
だからか何をするのか聞いてしまった。
「何するの?」
「ちょっと友達と会いにいくの」
「そっかー……」
「ごめんね」
あいは悲しそうな顔をともくんの目の前でしてしまう。小学生には相手の態度とか表情を見て、行動やらを変えることはできなかった。
「なんですぐ謝るの?」
「う〜ん、わかんない」
最近ともくんは謝ってばかりだ。あいが悲しい顔や、寂しい顔をすると、すぐに謝ってくる。
でも、あいはともくんの謝る理由に気付けなかった。
「バイバイ、明日もいくから」
ともくんが別れの挨拶をする。少し寂しかったがそこは顔に出さずに元気よく答えた。
「バイバイ! また明日ね!」
ともくんもそれを聞いて、笑顔を浮かべる。それにあいも返事のように笑顔で返した。
あいはともくんと別れた後、紫色の花を見つめた。
そして廊下では——
「なんで壮志がいる……」
「いや……、これは……」
ともくんと壮志くんの会話は、あいには聞こえていなかった。
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