第9話  あいちゃんの男ともだち

 あいちゃんをいじめていた人。小河原おがわら壮志そうし


 彼は小学校の頃、あいちゃんのことをいじめていた。事故にもあった。とても許せることじゃなかった——


「小河原」

「お、おお、智也か」


 僕のことを覚えていたようだ。それもそうだ。彼とは何度も喧嘩をしたことがある。

  

 まだ小さかった頃、僕たちは親同士の仲がよかったため、よくお家に遊んでいた。だが、それは幼稚園の頃。


 小学生になり友達関係が変わり始めたのである。壮志はヤンチャな元気なグループといるようになった。俺は内気だったため、ずっとあいちゃんといるだけだった。


 壮志もあんまりはしゃぐタイプではないため、みんなの後をついて行くように見えた。僕はあんまり楽しそうに見えなかったため、一緒に遊ぼうと誘ったりした。だが、壮志はいつもの人たちと遊ぶと言ってどっか言ってしまった。


「なんであいちゃんといるの」

「……」


 彼は黙り込んだ。


 いじめが始まったのは可愛らしい容姿だったあいちゃんのパンツが何色だ、とかから言い始めたのがきっかけだった。


 小学生だからこれぐらい普通だと思っていたが、それがエスカレートしていった。


 あいちゃんにかまってもらいたいのか、ランドセルを盗って逃げ回ったりして、常にあいちゃんの周りにへばり付くようになったのである。それでもあいちゃんは『も〜やめてよ〜』とその時は楽しそうだった。


「また同じようなことはしないで」

「する気はない」


 もうしないと言っているが、とても信じられるようなことじゃない。あの罪は僕にとって、とても大きいと感じている。でも、壮志はそんな人じゃない——


 あいちゃんが嫌がり始めたのは、物を隠されてからだ。


 彼たちは宝探しと言って遊んでいたが、あいちゃんにとっては悲しい思いだったのだ。自分のものを盗られ遊ばれているのだから僕でもそう思う。


 そしてあいちゃんは僕の家で泣き出したこともあった。僕は未熟だったため、上手く言葉をかけられなかった。


そして、水をかけられたりとどんどんエスカレートしていき、事故が起きた。


——壮志の友達が押して、その途端とたん、角から自転車が飛び出してきて衝突した。その時僕はいなかった。


 真っ先に駆けつけたのは——壮志だけだった。他はなにも考えずに逃げたのだ。救急車を近くの人に呼ばせてと、迅速な判断をしたのだと周りの人が言っていた。


「まさか……罪滅ぼしとか言わないよね……」

「俺はみんなに流されて止められなかった……」


 それは見ていてわかった。壮志はいじめに加担するのではなく見ているだけで、場を盛り上げているだけだった。だが、僕はあのようになった壮志を許せなかった。


「壮志はあいちゃんをいじめていたのに変わりはない」

「そうだ……、俺はあの時そっちの立場だった」

「なんで止めなかったんだ! 壮志ならもっとちゃんとした道に言ったはずだ! 今更なんだよ!」

「ほんとにごめん……」


 あいちゃんの事になると感情を優先してしまい叫んでしまった。


 ここは学校のトイレだ。誰が駆けつけてきてもおかしくない。


「場所を変えよう」


 俺らは人がほとんど通らない棟にやってきた。使われていない教室、壊れた椅子や机が置いてある教室に入った。


「今更なにをするつもりなの?」

「あいちゃんは俺のことを覚えていなかった」


 僕は黙り込み次の言葉を待つ。


「最初にあいちゃんを見た時びっくりした、そして怖かった」


 そこで1呼吸おき、言葉を続ける。


「俺は見た時に謝りに言った。そしたら困ったように覚えてないんだけど、と返事をされた」


 どうやら、入学式の時にあいちゃんと気づき、謝りに行ったようだ。覚えていないのは彼らは隣の小学校に移り、中学校も地域とは一個離れたところに通ったからだろう。


「だから——俺は一から彼女との関係を築けたらと思った」

「なかった事にしようと……?」

「そういう理由じゃない。俺は彼女のためになる事をしたいと思って関係を築きたいんだ」


 壮志はなかった事にするのではなく、彼女のために何かしてあげたいと思っているらしい。要は罪滅ぼしだ。


「それはもう無理。壮志のことは昨日気づいた」

「え……」

「アルバムを見てわかったらしい、転校した壮志も載っていたよ」

「そんな……」


 昨日あいちゃんは知ってしまっている。いや、僕が知らせた。やはりあいちゃんを傷付けたのを許せなかっのである。 


「もう関わるのはやめる方がいい。あいちゃんも怖いだけだよ」

「……」


 壮志は黙り込んだ。考えているのだろう。壮志ならここで考えるだろう。


 このまま関わるのを辞めるか。


 それとも——


 ——続けて罪滅ぼしをするか——


 そして僕は壮志ならそうするだろうと分かっている。


 壮志は——


 

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