第24話 復讐者は復讐者と出会う

三日後の夕方過ぎ、ようやく孝幸は工房へと訪れていた。


日を空けたのは、当てもなく悩んでしまっていたからだ。

例えば、春也の頼みを本当に聞くべきだったのか。

また自身の復讐について、いい加減、動くべきだとか。

ただどんな手立てを用いるべきか、とか。

また、未だに家族を避け続ける母親の自室の扉の前で、とにかく、もう話だけでもしてみるかと扉を開けようとして、止めたりだとか。


……悩みに悩んだが。

(優柔不断というか、流されやすいというか、ひより過ぎというか……)

三日間も悩んだわりには、孝幸は何の結論も出せていなかった。

(そもそも俺はなんで未だ、普通に助手やってンだよ)

ため息と頬杖をつきながら、工房の入り口たる木扉を見つめる。

見慣れてきた景色に、更にため息を重ねる。

(ほんっと……なんで助手やってんだ? 金払いはいいけど、俺は別に金が欲しいわけでもねぇーのによ)

舌を打つ。

(…………あーそういうや、俺はもう、ここに来るのが習慣化されすぎて、来ないと変な感じするもんな)

足が自然と、この工房へと向かう。身体が勝手に動いてしまう。それ以外に言いようのないほど自然……いや、逆に不自然なほど工房へと身体が勝手に動いてしまうのだった。

(なんでだよ?)

再びの舌打ちをしたところで。


「ふむ、来てたんだね」


と、言いながら隣に座った蜜蘭。視線を交わし合う。しばらく互いに口を開かなかった。蜜蘭はこちらの言葉を待つかのように、目を向け続けてきている……ので仕方なく。


「なぁ、今回は春也の心情の解説はねぇーのかよ?」

「ん? 必要かい? キミと彼は束の間とはいえ、仲が良かった。理解しているのでは?」

「それはそうなんだが……春也があれほど姉のために献身するのには理由があったのか……ちょっとだけ気になっちまったンだよ、今、急にな」

「彼に、大した理由などないだろうね」

「……おい」

「あえて言うなら、彼はまだ子供だったということさ。今後の自分の人生を現実的に想像し、その価値を感じられるほど生きてなかった。未来の想像は過去の反転でもあるからね」

「……短くてもあるちゃ、あるじゃねぇーか、アイツには過去」

「でもないよ、彼は本当にキミが知る通り、姉の不幸を救いたかった。人間であることを忘れるほどに純粋にそれしかなかった。姉を思うあまり……泣かせたくないと思うあまり自分を泣かせることにした。ずっとずっと、自分が泣く方がマシだと思ったんだろうさ」

「……、」

「大切な人を純粋に想うあまりに大切な人ではなく、相手を大切だというしか見つめられなくなってしまったのだろう」

「良い話……だったはずだよな?」

「善意は時に悪意よりも凶暴なのさ、きっとね」

言って、蜜蘭は口元を吊り上げた。


「さて。キミの悪意はどうする?」


「は?」

「復讐はどうするね?」

「――あのな、」

「キミ、悩みすぎだよ。それも良いがね――急がないと、」

言いかけた蜜蘭の声音を押しつぶすように、扉の開け放たれる音が響く。


首を巡らした孝幸が見て取ったのは。

「アンタが人形師――」

目を見開くようにして睨みつけるのは、制服姿の藤堂冷夏。


彼女はあろうことか、手にナイフを持っていて――

「ほら、キミより先に、彼女が私を殺してしまうよ?」

悠長に呟く蜜蘭に――藤堂冷夏はナイフを手に襲いかかった。

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