第2話 君を探した3年
俺の中学デビューは一言でいえば『最悪』だった。
入学式の朝、校庭に足を踏み入れた俺は、ある光景を見てしまった。
小学生時代、悪評の絶えなかった女子生徒3人組が
校庭の中で1匹の猫を囲っていたのだ。
嫌な予感がして、目を付けられないようにコソコソと校庭脇を通り過ぎようとした。
彼女たちには極力関わらない。
それが俺が小学生の時に学んだ、処世術だった。
しかし、気づかれないように彼女たちから離れて、その場を逃れようとしたその時だった。
女子生徒たちの中央から大きな鳴き声が聞こえたのだ。
刹那、俺の体が反射的に後ろを振りむいた――。
気づいたときには全身ボロボロで校庭のど真ん中で倒れていた。
草食&軟弱系男子の俺では、彼女たちの相手をするには役不足もいいとこだった。
気づくと、猫もどこかにいなくなってる。
腕をゆらゆらと持ち上げて腕時計をみると9時10分。完全に遅刻だ。
「何してんだか、俺は」
苦笑いを浮かべながら、体を起こしたその時、確かな視線を顔の右側に感じた。
思わずその方向に顔を向けた時、一人の女の子が背中を向けて駆け出していたのだった。
見られていたのか…。
初っ端からボコボコにされるわ、醜態をさらすわ、遅刻するわで
俺の中学生活は最悪のスタートダッシュだった。
けれど、俺の中学生活は不思議な力に支えられていたのだった。
俺は入学式の後、ある連中から目をつけられた。
ある連中とは、勿論入学式の日に猫を苛めていた女子生徒たちだ。
クラスこそ違えど、俺は彼女たちから大小さまざまな嫌がらせを受けていた。
机や制服へ落書きをされたり、根も葉もない噂を立てられたり。
その度に親しかった人達がその度に俺を助けてくれたのだが、
どうすることもできない類の嫌がらせが一つあった。
それは…「物隠し」だ。
連中は筆箱や体操服から始まり、俺の大切なものまで
盗んではどこかに隠した。
例えば、妹が俺の高校受験の為にプレゼントしてくれた学業成就のお守り。
例えば、亡き祖母の形見の万年筆。
隠されたものを毎回必死に探したが、俺は毎回見つけ出すことができなかった。
しかしだ。ここからが不思議なのだ。
何故か翌日、彼女たちから盗まれたものが下駄箱の中に置かれているのだ。
誰が犯人かを特定することができなかったが、一つだけ
分かっていることがあった。
それは、犯人は女子だということ。
下駄箱に戻されたものにはある共通点があったのだ。
それは、香水のような花の香りがついているのだ。例えば春には菫の匂い。例えば冬には水仙。
香水などつけている中学生男子など断じて存在しない。
だからこそ俺は確信した。
犯人は女だと。
いつしか俺はその名も知らぬ女の子に恋をしていた。
だから、この3年間探し続けた。
しかし、ついに今日まで見つけることはできなかった。
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