4話 ヒモとオンナ
翌日から、夕は骨折後初の授業へと向かう。右腕で文字を書けないため、左腕で書くしかない。
───書くしかないのに、書けない。右腕が痛むのと、快適に勉強が出来ないことによる、成績低下への焦燥のせいで、文字を書くのに集中できない。本当は何かを恨みたい。でも、何を恨めばいい。あの時、女を放っておいたら、自分の在り方を失うことはなかった。
そのとき、
「───あの」
誰かが声をかけてきた。
俯いていた夕はゆっくりと顔を上げる。高い声の持ち主だ。誰でもいい。この思いを伝えて、共感してほしい。そう思いながら、声をかけた人に目を向ける。
────目の前にいたのは、鮮やかな短い赤髪の、長身の女だった。
「えっと、夕君、、、」
「?どうして俺の名前を?」
何気なく出たこの言葉が、後に最悪の言葉であったと知る。
夕がそう言ったとき、女は目を潤ませていた。
何故だろう。知らない人なのに、知っている泣き顔だ。
「え、、、」
「この、鈍感」
そう言い残して、女は去っていった。
────去っていった。ただ、無言で。
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