3話 ヒモとオンナとナミダ

無意識の中で時を過ごす。意識が覚醒し、目を開けようとする。光が強く、すぐには開けることができなかった。何かが聞こえる。

「───は、右──骨─です」

「ごめ──さいお母─ん、私の───」

「気にしなくて──のよ、──ちゃん」

「目を─けて、私、あなたと─な─を───」

ぼんやり、話し声が聞こえる。光にも慣れ、ゆっくり目を開ける。清潔に保たれ、うっすらと消毒の香り。そこは病室だった。そこにいた2人は、夕の回復に歓喜した。視界には、涙顔の母と、涙顔のーーー


さっき助けた女がいた。背が高く、長い赤髪を1つに結んだ女。


「よかった、夕、、、死んだかと思ったのよ、、、?」と、母。


死んだことにされていたことは不服だ。


「よかった、生きててくれて。助けてくれてありがとう」と、女。


彼女は泣いていた。


「名前を聞かせてくれる?」

「西乃野 夕。君は?」

「私は優心 風瑠。えと、助けてくれてありがと、、、夕君」


頬を赤らめながら、優心こころ 風瑠はるは礼を述べた。それに戸惑ったこともあり、少しの間、沈黙が続いた。

「──私、昨日、この街に引っ越して来たんです」

空気を和らげようと、風瑠は切り出した。

「へぇ、学校は明日か、、、ら、、、?」

何かを思い出した。車に轢かれる前のこと。学校から帰る前のこと。スグと話をしていたとき。

───机。

合点がいった。

「風瑠さん、川橋高校に転校してきましたか?」

「────え?なんで分かったんですか?まだ学校に行ってもいないのに、、、」

「俺のクラスに机が1個増えてたから、もしかしてと思って。やっぱり転校生が来るのはホントだったんだ。お互い仲良くやりましょう、風瑠さん」

夕はそう言って、笑顔で手を差し出す。夕の手は小刻みに震えており、何かしらの悪い感情が表まで現れていた。でも、今はそれでも────


彼女に、新たな生活を快く始めてもらうために。今はこうやって、握手をしよう。


───泣いている彼女に前を向いてもらうために。

今はこうやって、握手をしよう。


左手で、夕と風瑠は握手を交わした。

怪我は幸い、右腕の骨折だけで済んだと、医者に伝えられた。

────何が幸いなんだ、最悪だ。


翌日。

夕はすぐに学校に復帰することになり、学校へ向かう。



それから1ヶ月間、2人は会話をしなかった。

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