第48話



「では」


 モーデンが右手を掲げると、ゴゴ、と重い音が体育館に響いた。

 ステージが中央から割れている。

 モーデンの立つ場所が左右に分かれ、奥への道がひらかれたのだ。


「すごーい!」


 パルルが無邪気にはしゃいでいる。

 なんだかんだと、けっこう派手好きだな。


「この先に転移場があるんですねえ! すごいですねえ!」

「ああ。さすがの規模だな」

「でも先に行った人たちがいるってことは、わたしたちが集まる前にここいっぺん開いて、またがんばって閉じたってことですねえ! 雰囲気作りですねえ! 学校側の努力がけなげですねえ!」

「……うむ」


 そういうことは、気がついても言わずにいたほうがよかったのではなかろうか。

 ともあれ。


「皆さんは、私といっしょに」

「副校長。……シーキーも?」


 なにやらご用のようですので、と柔和に微笑むモーデンに連れられ、シーキーはずいぶん恐縮しているようだった。まあ、それはそうか。

 しかし、あとアビエッテがいれば、F組前期がそろっていたな。

 惜しいことだ。


「転移先では、決して私から離れないように、お願いしますぞ」

「承知しました」


 ひらかれた通路の先には、パルルの言う通り巨大な魔法陣がある。

 大規模軍施設などに設置されている、転移のための固定魔法陣だ。

 この学園の重要度と信頼度が、軍施設並ということだろうか。


「参りましょうか」


 再びモーデンが合図をすると、魔法陣が輝きはじめる。

 ……いつかここを通って、旧イルケシス領へ赴く日も来るだろう。

 一刻も早く、そのときを迎えなければならないが……


 ところでパルルよ。

 床に這いつくばって、なにをしている?


 床に描かれた魔法陣が光っているから、下から全身を照らされて、なんというかその、おもしろいぞ。


「ふむふむー。なるほどなるほど」

「パルル……どうした? まわりの邪魔になってしまうぞ」

「あ、はいー。転移って、『魔法使い』さんのスキルでしょう?」

「そうだな」

「呪文とか、魔力の魔法陣とかならともかく、こういう形にできる物でスキルの再現やサポートができるの、興味あったんですう。がんばれば、パルルにもできるかなーって」

「ほう……なるほど」


 すばらしい向上心だ。

 我が弟子ながら、あっぱれではないか。

 俺も見習わなくてはいけないな。


 さすがにパルルといっしょに這い回るのはどうかと思ったので、立ったまま目を閉じてみる――

 うむ。

 いつもは空気中で混沌というか、天真爛漫といった感じになっている魔力が、整然と流れているのがわかる。


 わかるがしかし、それだけだな。

 転生前からずっと、山を駆け回る体力重視の修行をしていたものだから、理屈にはとんとうとい……

 これはなるほど、ひとつ俺の課題かもしれないな。心しておこう。


 …………、……

 ん……?


「パルル……妙な感じがしないか?」

「え? なんですかお師匠さま?」

「いや、なんというか……こう……転移の魔力……?」

「はい。すごい密度ですねえ」

「うむ、そうなんだが……うむ……」


 気のせいか。

 この場の流れと、違う方向を向いている力を、一瞬感じたような……

 しかし、そういうものなのかもしれん。


「転移します」


 モーデンの言葉とともに、俺は目の前が左右にぶれるのを感じた。

 同時に、わずかな耳鳴りも。

 それは、


 レジード


 そう言っているように聞こえた。


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