第40話
どしてでえす? とパルルが小首をかしげた。
「そーゆー人たちは、もう力もやることもいっぱいあるし、わざわざ勇者になんてなろうとしないだけじゃないですかあ?」
「パルちゃん、勇者免許さえあれば、対魔物に特効のある勇者スキルを無条件で使えるようになるでありますよ? 持っていても損にはならない、でしょう?」
「それはー……そうですねえ? もともとすごい人たちなら、きっとこの学校でも特A組に……」
「ならないであります」
「……あ」
「正確に言えば、
「魔力の存在偏重でしょお?」
「それも正しいでありますが、もうひとつ答え方があるであります。魔族には、
……!
そうか。
言われてみれば、それもそうだ。
この世界に生まれたからには、たとえ言葉がしゃべれない犬や猫、果ては植物までもが潜在的にジョブ適性を持っていると考えられている。
生き物がもともと備えているなんらかの情報を、人間がジョブ適性という名前で呼んでいる、とも言われているな。
もちろんエルフやドワーフ、ミノタウロスやドラゴンにも、ジョブ適性はある。
しかし、魔界生まれの魔族には、それがない。
「もしも、世界を守る大きな力たりえるはずの特別な人間たちに、勇者の適応度がなかったら……」
「ふむ……」
「勇者のジョブ適性、またその適応度の高低は、運否天賦。まったくその通りでありますが、であればこそ、魔界と人間界を比べて『人間界に運がない』と言えるのであります。世界そのものが、自分を守る力に乏しく不運だ、というふうに」
ふむ……
本人たちはどうあれ、そう考える周りの人間、特に一般人は動揺してしまうかもな。
「ゆえに、彼らは勇者免許を持とうとしないのでありますよ。モーデン氏は元Sクラス魔法使いとのことでしたが、相当な変わり種と思われます」
「なるほど、大変だな。魔法使いの仲間からは、いい顔もされなかっただろう」
「おそらく……。そしてこの理論、レジード殿についても当てはまると思うのであります」
「俺に?」
「レジード殿の実力は、すでにSクラス騎士をしのぐでありましょう?」
いや、何を言って――
「当然ですうそりゃそうですう間違いないですう!!」
ここで怒濤のパルルか。
「お師匠さまがその気になれば、ジョブ適性がどうであれ、騎士でも魔法使いでも料理人にでもなれるですう! このパルル、100年前にも、お師匠さまの耳にタコ作るつもりで言い続けたですう!」
「さすがのパルちゃん、話が早いであります!」
「つまりお師匠さまほどのお人が勇者でないなら、文字通り世界の損失ということですねえ!?」
「話が早すぎるであります! でもその通りであります!」
「わーい!」
「わーい!」
2人でなにがうれしい?
というか、話が飛躍しすぎだ。
「セシエの買いかぶりうんぬんはともかく、世界と世界を運比べなどとは……ちょっと理屈が違わないか?」
「もちろん自分も、与太話にすぎないと思っていたであります。しかしレジード殿のジョブ適性が、本当は勇者なのに外からは村人に見えると知って、この理論のことを思い出したのでありますよ」
「む……」
「特に……この理論、最後まで『だから人間界はやばい滅びる』と言っているにすぎないのであります。このまま勇者適性を持つ者が現れず、やがて再び侵攻してきた魔界の軍団に対抗できない、と……ただただ悲観的なだけなので、誰もに忘れ去られた言説であります。自分も、酔った師匠から聞かされなければ、きっと知りませんでした」
「酔いながら今の話を……前々から思っていたが、セシエの師匠殿はただ者ではないな」
「師をほめられると悪い気はしないでありますが、いっつも飲み過ぎるので困ったものであります」
そうか。セシエの酒は師匠殿ゆずりか……
「どれほど力のある者でも、勇者になれるとは限らない……それはこの世のさだめであります。しかし、なるべき者がなれないでいるなら、この世のほうがまずいのでは? と考えることもまた、自然でありますゆえ。レジード殿の不思議なステータスも、案外そのあたりに解決策があるのでは、と」
「ま……仮にそうでも、守るべき世界に変わりはない。俺は俺として、力を尽くすまでだな」
「ふふ。レジード殿なら、そうおっしゃると――」
そのとき。
『何度言ったらわかるんだ!!』
中庭に響いた怒声に、俺たちは会話を打ち切った。
すぐそばから聞こえた……
それに、聞き覚えのある声のような気がするぞ?
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