第34話



「今から、私が問題を出しますので」


 F組の内情を知ってか知らずか、モーデンもまたマイペースに続けた。


「皆さんはそれにお答えいただけますかな」

「ふむ。わかりました」

「ただし。こちらをお使いください。校務員さん、すみませんが、お手伝いをお願いいたしますよ」

「はっ! おやすいごようであります!」


 モーデンがどこからともなく取り出したいくつものアミュレットを、なぜかやる気に満ちたセシエが受け取り、俺たちに配ってくれる。

 勇者仮免許だ。

 俺たちが昨日もらった物と、違いはないように見えるが……?


「この仮免許には、皆さんがお持ちの物とは違う、別のスキルが封じられております」

「スキルが違うのですか」

「ええ。攻撃技能・光針<リカーニードル>です。初歩スキルであるのは同じですが、汎用性の高い、立派な攻撃スキルですぞ」

「なんと……」

「私が出す問題の答えが、宙に浮いているボードのどれかに表示されます」


 それはまた器用なことを。


「答えがわかった方は、仮免許のスキルを発動し、ボードを撃ち抜いてください。正解のボードを撃てればトレビアン! 正解でなくとも、どれかボードを撃っていただければアッセビアン、回答権を差し上げます。そういうルールです」

「なるほど」

「景品があったほうが、おもしろうございましょう。最多正解者には、うーむ、左様ですなあ。この際ですからささやかながら、当校への入学祝いも兼ねたいところ……ええ、ええ。思いつきました」


 モーデンが、に、と意味ありげに笑った。


「他組の授業に参加する権利、を差し上げることにいたしましょう」

「他の組の……? 我々はF組なので、つまり上級の授業に参加することになりますが?」

「ええ。何組の授業でも構いません、BでもCでも、もちろんA組でも大丈夫。副校長の私が今、決めました」

「それは……ありがたい。が、しかし……」

「もちろん権利ですので、別に行使しなくともかまいません。ちょっとした見学、くらいに考えていただければ……けれども存外、学ぶことも多いかもしれませんぞ」


 まさしく。

 レベルの高い授業を見学できるなら、とてもいい経験になるだろう。

 クラス分け試験の結果が低かったからと言って、遠慮していてははじまらないか。

 降ってわいた幸運と思おう。


「ただ、うーむ。問題の内容をどうしましょうかねえ」


 思案顔のモーデンが、ととと、と指先で自分のあごを叩いた。


「本来であれば、我が校のめざすところにして特色でもある、『勇者』とは、といったコンセプトでお出しするのが筋かもしれませんが……そもそも、皆さんよくご存じのことでしょうし」


 いや、わからんぞ。

 まずここに1人、現在の勇者に詳しいなどとは到底言いがたい者がいる。俺だが。


「それに、アビエッテさんはもう何度か、このオリエンテーションをご経験済みですし。まあしかし、今日のところは新学生の方々を優先で……」

「魔界」

「んん?」

「魔界と魔族のこと。がいい」


 魔界……。

 アビエッテは、問題へのリクエストをしているのか?

 魔界や魔族のことを、問題にしてくれと……?


 なぜだろう。詳しいのか?

 いやそもそも、このオリエンテーションはそういう主旨だろうか?

 なぜこうまでの食いつきを見せているのかも、いよいよ気になるところだが……

 しかし、異論があるかといえば、ない。


「確かに、勇者を志す者には、魔界について知ることも重要です。うーむ……?」

「自分も、それでかまいません、副校長」

「左様ですか、レジードさん? それはそれは。シーキーさん、あなたは?」


 おだやかな視線を向けられ、シーキーが何度もこくこくうなずく。

 というか、俺やシーキーの名前も、すでに覚えているのか。

 確かに、そこまで大勢の生徒がいるというわけではないようだが……

 やはり信頼するに足る副校長殿に思えるな。


「では、皆さん」


 モーデンがもう一度、パチンと指を鳴らす。

 空中のボードに、様々な単語が浮かび上がった。

 これから出題されるものの答えとなるのだろう。同時に、ボードの動くスピードが上がり、教室内を泳ぐ回答ボードとなる。

 これを見ているだけでも、なんだかおもしろい。

 今日登校したのは大正解だったな。


「はじめましょうか」


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