第10話
そう言おうとしたが、驚きのあまり、久方ぶりの酒がのどに引っかかった。
激しくむせる俺に慌てて席を立ち、セシエが背中をさすってくれる。
見事な騎士ぶりのみならず、人間としてもたいへんにできた女性だな。
「だいじょうぶでありますか!? お酒はゆっくり飲むでありますよ!」
「う、うむ……。いや、少し驚いてしまって。なぜ俺の、その、村人……?」
「ああ。ギルドで報酬手続きをしたとき、職員が記入したものを見たのであります」
「ッ!? ……あのギルドの、職員が?」
「ええ」
「俺は、村人だと?」
「左様。違うのでありますか?」
これは……どういうことだ?
今日の依頼を受けるとき、俺はあのギルドで、ひとことでも村人と言ったか!?
あ。
言った。
1回言った記憶がある。
いやいやいやでも待て関係ないぞ、そのあとあの職員、俺のステータスを水晶玉で確認していたではないか!
適性が勇者だとわかったはずだ。
……しかし、なぜだか腑に落ちるぞ。
今日のあの、村人が受けるような内容だった
勇者免許がないと言ったときの、ギルド職員の表情。
俺を村人として扱っていたのだとすれば、すべて納得がいく。
だが、そんな手違い、あるか……? あっていいものなのか?
「う゛~~~む……!?」
「免許の話、ややこしかったでありますか? 説明下手で申し訳ないであります!」
「い、いやいや、まったくそんなことは……」
「自分、もっとがんばりますので! なにかわからないことがあったら、なんでも聞いてほしいであります!」
セシエ。
女神かこの子は。
こんないい子にこちらこそ、なんと説明すればいいものか。
キラキラ輝いて見えるセシエの笑顔に、俺は酒を飲み干すことしかできない……うまい……
「いやーしかし、レジード殿の活躍といったら!」
向かいの席に戻ったセシエも、座ると同時に杯を空にしている。
本当に酒が好き、というか酔いの速度も尋常ではないな。
もうできあがっているのではないか? いい顔で笑ってくれるものだ……
「あのごろつきどもを勇者もどきとは、うまいことおっしゃるでありますな! レジード殿のような方こそ、真の勇者でありましょう!」
「かくありたいと、思ってはいるが……まったく未熟の身。うむ、そうだな、こんなことで混乱しているようでは、俺はまだまだ……他人にどう見えるかなど、どうでもいいといえばいい。いやしかし。いやいやしかし。いや……」
「おーっと、酔われてきたでありますか? レジード殿! 夜は長いでありますよ!」
「なんかもういいかなどうでも」
「すみませーん、お酒10人前追加であります!」
「10て」
「少なかったでありますか? さすがは未来のSクラス勇者殿!」
S……
まいったな。
本当にわからないことだらけだ。育った野山は、いくら時を経ても変わらなかったというのに。
クラスの存在そのものは、知っている。
ジョブに就く際に適用される、練達の度合いを示す階級だ。
レベルとはまた別の、いわば他ジョブの人間にもわかりやすい価値観で言い表される、世間的評価基軸とでもいおうか。
つまり昔は、勇者にクラスなどなかった。
勇者そのものに特別な価値があったからな。
それが、Sクラスときたか……
すなわち今や、勇者にもそういった区分が必要になっている、ということなのだろう。あるいはそれも、もどきどもの登場が理由なのか。
しかし。
Sクラス勇者……Sクラス。
ふむ。
響きとしては、なかなか悪くないかもしれんな。
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