2-7 分岐点

 待ち合わせをしていた京阜大学の門から15分ほど歩くと、京阜駅という大きな駅がある。通勤や通学に加えて、最近建設された大きめのショッピングモールも隣接している場所だ。

 その近くには商店街もあるらしいが、ショッピングモールが出来てからの繁盛具合は語るには及ばないだろう。

 ここには任務で度々訪れたことがあるが、決まって人通りが少ない裏通りだったり、そもそも人の数が少ない時間の深夜帯だったため、こういった食事目的で訪れるのは初めてだった。


「えーと怜人さんはどこのお店がいい、とかありますか?」

「いや、ないな。ほとんど外食はしたことがないから明子ちゃんたちの馴染みがある店で問題ないさ」

「了解です。そうしたらいつものサークルの皆で行ってるところがあるので、そこにしますね」


 そう言いながら慣れた足取りで進む彼女の後に従って進んで行く。

 歩きながら周囲を見回すと、夕方という時間だからか学生やサラリーマンが多い。交通の要の駅へと向かっているか俺たちと同様に食事を目的とするかだろう。

 お世辞にも趣味とも言えない人間観察をしていると、前を歩く不意に明子ちゃんが足を止めた。


「おっと……どうした?」

「あ、すみません。……さっき言ってた連絡がつかなかったっていうサークルのメンバー……その中の1人が今居たような気がして」

「……どんなやつなんだ?」

倉井くらいくん、って私と鳴海ちゃんと同じ学年の男子なんです。大人しいんですけど、真面目ですし気回るしで結構喋るんですよ」

「そうやって聞いている感じだと普段は連絡が急につかなくなったりはしなさそうだな」

「そう、なんですよね。だから、病気とかじゃなければいいんだけどって思ってたんですけど……」

「それが出歩いてるように見えた、か」

「ですね。ただ、見間違いかもしれませんし」


 自信がないのだろう。明子ちゃんは眉をしかめながら言葉を紡ぐが、最後まではっきりとは言い切らない。


 実際に他人の空似の可能性もある。ただその一方で本当に連絡がつかない青年がそこに居た場合、考えられることはなんだろうか。

 かなり楽観的に考えれば携帯電話が壊れたとかか。それなら連絡がつかないのも妥当だ。ちょうど今携帯電話の修理なり買い替えなりをしにいたのであれば辻褄も合う。

 ただその場合、倉井という青年は大学に行かなかったか、セットの移動の予定を意図的にサボったことになる。

 倉井の実際の人物像は定かではないが、明子ちゃんが言っているものとは一致しないように思う。

 一方で悲観的に考える場合、ほぼほぼ確実に何かに巻き込まれている可能性が高い。その何かが治安の悪さから来ている普通の事件なのか、あるいは異能が絡んだ異質な事件なのかまでは分からないが。

 服部から忠告は受けている。ただその一方でやりたいようにやれ、とも言われている。それならば、俺の取る行動は——————


「なぁ、明子ちゃん。その倉井ってやつはどっちに行ったか覚えてる?」

「え?向こうです。駅じゃなくて……商店街の方かな?」


 お世辞にも人が多いとは言えない商店街。向こうには携帯を取り扱っている店もなさそうだ。


「明子ちゃん。1つ提案なんだけどさ」

「な、なんですか?」

「見間違いじゃないと信じて、追いかけてみないか?」

「…………今からですか!?」

「そう。大まかな方向が分かってるなら様子を見に行ってもいいんじゃないかなってね。明子ちゃんも気になるんじゃない?」

「そりゃあそうですけど……絶対、倉井くんだったって断言できませんよ?」

「それならそれで人違いでした、で構わないさ。大したことじゃない」

「うーーん…………分かりました。本人だったら心配ですし、行ってみましょう!」

「いい返事だ。ああ、後から来るはずの鳴海ちゃんには一言言っておいてくれると助かるよ。」

「分かりました!」


 彼女は判断が早い。

 判断が早ければそれだけ色んな事が出来る。もし、仮にだがこの数瞬でこの先の出来事に影響が出るかもしれない。

 まぁ、それがどうなるかは行ってみなければわからないが。


「見つからなければ2人で鳴海ちゃんに謝ろう。……さぁ、善は急げだ。行こう!」

「わっ、ちょ、ちょっと待ってください怜人さーん!」


 そんな声を背に受けながら彼女を置いていかない程度にかつ、倉井という男に追いつける速度を意識しながら走り出した。

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