2-6 アフターワーク

 倉庫に入ると他のサークルメンバーであろう人が数人作業に取り掛かっており、俺ら3人もそこに合流して運び出す工程に取り掛かった。

 そこからの作業は単純なものだった。大小様々なセットや小道具を順に運び出して行く。運送用のトラックへ積み込んだり、自家用車に載せられるようなものは別途纏めていく。

 俺は糸崎ちゃん、鳴海ちゃんの2人が他のメンバーと相談してるのを隅で待って、相談が終わったら指示を聞いて行動するといった具合だ。


 そうやって進めていって、作業が終わりに近づいたのはそれから2時間ほど経ってからだった。


「あー疲れたぁ!授業の後に運び出すのはやっぱきついって!」

「まぁまぁ。しょうがないよ鳴海ちゃん。公演もそろそろなんだしやらなきゃいけなかったでしょ?」

「それはそうだけどさー」


 分かってはいるものの、釈然としていないという様子が彼女の全身全霊から溢れているのがよくわかる。


「怜人さんも今日はありがとうございました!」

「ああ、どういたしまして。これくらいならお安い御用だよ」

「いや、でも本当になんでそんなにピンピンしてるんですか?そんなに楽じゃなかったと思うんですけど」

「まぁ、色々あってね。体力には自信があるんだ」


 フォビアに居たときには基礎トレーニングから始まり、ダンベルやバーベルを使ったウエイトトレーニング、ランニングマシンで延々と走ってたりもしたし、その上で異能を使わない組み手などなど。

 異能力者は身体能力が上がっていってしまう、とは言ったものの世界平和を守る組織としてはそれだけで良しとはしない方針だった。


「怜人さんが居てくれて助かったのはホントだけど、もうちょっと人数いるはずだったのになぁ」

「そういえば連絡が取れないメンバーが何人かいるんだっけか」

「そうなんです。鳴海ちゃんも電話かけてみたんだよね?」

「番号知ってる人にはね。ただまぁ繋がんなかったんだけどさ」


 そもそも俺がここに来る発端となった話でもあるが、少し詳細を聞いてみることにした。


「その連絡が取れないって人数はそんなに多いの?」

「んーいや3人なんで、まぁ多い、のかな?そりゃあたまーに連絡がちょっとつかなかったりしますけど、こうやって纏まって連絡つかないのは珍しいかなって感じですね」

「大事にならなければいいんですけどね……」

「じゃあ、その3人ってのはなんか変わった様子があったりはしてない?」

「そんなに変わってたっけ?」

「私は特に変な感じはしなかったと思います」

「そうか。まぁ、それならいいんだ」


 少なくとも、その連絡がつかない当人たちが異能が覚醒したというような感じではなないのは僥倖だ。兆候も、それに繋がるきっかけもなさそうだ。

 ただ、それとは別にここ最近の治安の悪さの面を考えると解決していない。先日遭遇したチンピラ一行も目的は金のようだったが、そういった事件に巻き込まれている説もある。


「ただ、先輩たちも何かあったら怖いので、明日には様子を見に行くと言っていました。病気で電話に出れない、とかだったら助けになりますしね」

「3人いるんだから1人くらいそういう人が居てもおかしくはない、か。治安の悪さの上に病気まで、ってなるとあんまり考えたくはないけど」

「ホント怖いですよねぇ。最近よくパトカーのサイレン聞いてる気がしますもん」

「私もよく聞くかな……前はそんなに聞かなかったのにね」

「ホントにねー」


 女の子2人がうんうんと頷きあう。俺よりも長く京阜市にいるのだろうから、その感覚に間違いはないだろう。

 実際のところ服部や、新入りのタラソ。彼女もそういった事件に対応をしているのだろうが日中堂々と店を襲うような相手には対処が難しく、警察を上手く誘導することになるはずだ。

 その上で警察が介入しづらい部分には容赦なく対処をしていくに違いない。


 ……俺にできることはないのだろうか。


 服部に釘を刺されたものの、どうしてもその思考は頭の中に巡る。

 少なくとも怪我や病気が相手なら俺は対抗策が……。


「もしもーし怜人さーん?聞いてますかー?」


 どうにもぼんやりと考え込んでしまったようで、鳴海ちゃんが目の前で手を振って反応を伺っていた。


「な、鳴海ちゃん、失礼だよ!?」

「いや、俺が気づかなかった方が悪い。気にしないでくれ」

「気にしてはないですよ!ただ、折角なのでこの後ごはんでも行きません?って話になってただけですし。明子のいきなりのお誘いに付き合っていただいたしそのお礼に、ってことで」


 こういった誘いを受けたのは思えばほとんどなかったかもしれない。

 誘ってきていたのは大概相棒だった服部か、面倒を見てくれていたクロノさんくらいだ。

 この誘いを断る理由を無理に探す必要を感じられなかった。


「……ああ、それじゃあお言葉に甘えようかな。どこに行くんだ?」

「無難にファミレスとかでどうかな、って思うんですけど……そちらだったらお代も出せますし」

「さすがにそこまで気を回さなくても平気だ。それなら混まない内に準備しようか」


 彼女なりに気を遣ってくれたのかもしれないが、元々世話になっている恩返しのつもりで来ているわけでそれに対価を受けるつもりはない。


「あ、じゃあ、先輩たちに話だけしてから追っかけますから先にいっててくださーい。明子、場所決まったら教えて!」


 そう言って鳴海ちゃんは駆け足で立ち去ってしまった。


「えーと……すみません怜人さん。バタバタしちゃって。それと本当にありがとうございました。いきなりの連絡だったのに」

「気にしなくていいさ。それよりも何度で悪いけど案内を頼むよ。あんまり外食とかしなくてさ」

「……はい!任せてください!」


 ファミレスならメニューに支障はないだろう。思うところはあるが、ひとまず夕食へ向かうことになった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る