2-4 ヒトの可能性
「超能力、って透視とか念力とかのことか?」
「うむ。それらも含まれるが私が提言しているものはそれらよりも先のものなんだ」
「先、か……」
口を滑らしてうかつなことを言うわけにもいかない。かといってここでいきなり話を切り上げるのも不自然だろう。
約束の時間まで15分ほど、聞き手に徹して情報を聞いておくことを決意した。
「先というよりはまだ見ぬ可能性というべきか、もしくはSFとして描かれていることが現実になっていくのだろう、と言うのが私の今の研究内容でね」
「SFっていうと空を飛んだりとか、ワープしたりとかそういうやつか」
「そういうものだね。他にも炎や氷、雷を体内で生成したり、放出したり。物質の成分をなんの道具も使わずに解析する。ああ、人間の身体能力の限界を超えたりもあるね。とまぁ、こういった具合に考えられるものは無限大に存在すると思っているよ」
「なるほど……」
実際に今の説明に該当する人物はフォビア内にも多い。自然現象を操る異能力者も多くいるし、
自分の身体能力を無理矢理強化して進むような脳筋も居た。
一方で、羽を生やして空を飛ぶような異能力者はいなかったが、この先異能に目覚める存在の中にはそういうタイプも出るかもしれない。
その異能に目覚めた人間はおそらく幸せになることはないだろうが。
「ただそう言っても今の人間にそんなことが出来るようには思えないんだけどどうなんだ?その代わりにライフラインを整備するようにまでなってるんだろうし」
「私はあくまで分岐しただけだと思っているんだ。本来人間に備わるはずだった機能を外付けにしたことによって人類の進化の発展を妨げたもしもの世界線、という2つにね」
「その言い方だと電気やガスなんかを自由に扱えるはずだったって考えてるのか?」
「ああ、おそらくはそのはずなんだ。その場合、現代のような技術の発展はなかっただろうが、人類の進化は進んでいただろうね。ただ代わりに人口は今ほど増えなかっただろうし、むしろ個々の身体の強さに依存してしまう社会に向かっていくのではないか、と考えられているのさ」
「超能力があったとしてもそう単純な話じゃない、ってことなんだな」
その現場に身を置いていたからこその本心が口から出た。フォビアという組織の中での経験は今にも活きているものではあるけど、それが幸福だったかというと素直に頷けるものではない。
話自体はまだ家庭の話であり大学教授の講義の場であるならば本来、根拠やそういう理論になった経緯を細かく交えて話すのだろうが、気を遣ってくれているのだろう。専門用語や、難しい単語を言わずに研究について話してくれている。
その気配りの相手の正体は、その教授の研究対象というかその成果とも言うべき存在なのだけど。
「さて、かいつまんで話しはしてみたが君は能力が変わらない今と、もしもの世界のどちらの方がいいと考えるか……と聞いてみたいところだがこれ以上は時間を取らせすぎるかな?」
確かにそろそろ時間が怪しいところだ。
最短距離を走れば余裕はあるだろうが、いきなり大学の構内でパルクールをする不審人物として通報されることも考えなければならない。
「気遣い助かるよ。それじゃあ、今度の講演行ったときにでも答えさせてもらうかな。その時に話ができるかは分からないけど」
「講演に興味を持ってもらえたのであればこの時間も有意義だったかな」
薬司教授は満足そうに頷きながら言った。
「もしも空いている時間があれば私の研究室にも来てみるといい。興味を持った人間はいつでも歓迎しているよ。……ああ。肝心なことを忘れていたな。君の名前を教えてくれるかな?」
「そういえば名乗ってなかったっけ。俺は伊藤怜人。伊藤でも怜人でも好きなように呼んでくれて構わない」
めったにしない自己紹介を告げて、ここまでの道を引き返すことにした。
「それじゃあ悪いがこの辺で失礼する。講義感謝するよ薬司教授」
「問いの答え、期待して待たせてもらうよ。伊藤怜人君」
背中に返事を受けた俺は踵を返して、京阜大学の構内を走り出していった。
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