2-2 学び舎
いつもの日課を手短に変更して済ませ、家を出る。道中は坂道やら、石段やらを上っていく必要があり、運動をしない人にとっては入り口まで来るのに苦労しそうだ。
京阜大学まで行ったことがなかった俺は、余裕をもって出かけてきたが予定よりもかなり早く着いてしまった。
「15時30分……」
30分前後を何もせずに待つのも落ち着かないし、かといってトレーニングをするにも授業が終わり帰る様子の学生や、サークルの活動に赴く学生たちが多く行き来していてやり辛い。
かといって、糸崎ちゃんとしても大学の兼ね合いがあるのだろうし。わざわざ急かす必要もない。
そうやって少し考えた末に出た結論は、大学の中でも見てみようかということだった。
高校では見学がNGなようだが、大学は敷地への出入りが寛容であるという話は聞いたことがある。
フォビアでは任務の都度、必要な身分を使って行動をしていたが学校というものには縁がなかった。後からフォビアに入ってくる異能覚醒者の多くが学生で、学校に潜入する、または学校の異変を調べるのであれば彼らの方が適任だったからだ。
そういうわけで、学校に行きたかったわけではないのだがどういったものなのかを気になっても実際に見てみることは叶わなかったのである。
そういった理由から来た純粋な興味と、時間の調整のためという目的が一致した俺は、ゆっくりと学生たちに紛れて構内へと足を踏み入れていった。
京阜大学構内には、複数の建物が乱立していた。建物の内訳は校舎がメインではあるものの、購買や食堂と思わしき場所もありどこも人が賑わっていた。学生たちは、多種多様な表情を各々に見せ、日常を謳歌しているようだ。
そんな光景を見たからか、ふとフォビアに居たときのことを思い出す。
数年前に、自分がフォビアに所属している意味、あるいは意義について聞いたときのことだった。その当時、フォビアでの生活に大きく不満はなかったが、目的ややりがいが特別あったわけでもない。そんな中でクロノさんにふと
「なんでクロノさんはフォビアに入ったんだ?」
と聞いたのが始まりの話だ。
「世界の平和というものは、日常の積み重ねで成り立っている。私たちの働きは感謝も憧憬も浴びないが、誰かがやらなければならないんだ」
「ふーん……まぁ、ありがってほしいわけじゃないしその辺はいいんだけど……要は義務感とかそういう感じなのか?」
「義務感がないとは言わないが、それでけでもないという話さ。私個人の信条なら後悔しないようにするため。というのが一番かな」
「後悔しないようにするために……」
「タナト。君は君自身のの考えを育てていくんだ。今のはあくまで私の考えに過ぎないし、同調も嫌悪も必要ない。もし何か共感するものがあったなら、自分の考えとして大事にしていくといい」
釈然としていなかった俺に諭すように言って彼女はその後の言葉を紡がなかった。
その様子に倣って俺もそれ以上話すことはなかったが、結局クロノさんの真意は理解できず。
しかし、今日学生たちのの日常を垣間見て、そのクロノさんの真意を少しだけ理解できた気がした。
そういう点では、フォビアは学校ではなかったが、クロノさんは上司であるとともに先生のような存在だったと再認識する。
昔の話に少し浸ったものの、本来の目的である大学構内の見学はまだまだ不十分だ。思い出を一旦頭の隅にしまって、再び足を進めることにした。
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