幕間1 宵闇の中
伊藤怜人と、服部平一郎が喫茶店で会話をしているころ。京阜市郊外の寂れた商店街。夜中なので、当然シャッターが空いてる店など1つもないが、その通りを男が2人ゆっくりと歩く。
1人の男がポケットからタバコとライターを取り出して火をつけるともう1人の男に話しかける。
「やっぱ一仕事の後はこいつに限るなぁ。お前も吸うか?」
「いらん。それとあまりこちらに煙吐き出さないでくれ。余計なものを吸い込みたくない」
「相変わらずクールなことで。そんな健康志向でもないだろうに、厳しいもんだな」
「どうでもいいだろう。俺は俺のやりたいようにやる」
「へいへい。お好きにどうぞ、って言いたいところだけど。とりあえず成果の分の報告にはちゃんとついて来いよ」
「言われなくとも分かっている。……先に行くぞ」
もう1人の男は腰に下げた刀に手をかけながら歩みを進め、タバコを吸っている男を置き去りに歩き出す。
「ホントに難儀なヤツだなぁ……気楽にやりゃいいのに」
タバコを吸う男も、タバコを消さずに刀の男を追いかけていった。
少し歩き続けて商店街を抜けた先にある3階建てのこじんまりとした、ボロボロなビルの中へとためらわずに進んでいく。
電灯も点滅し、まともな明かりが無い状況でも2人の男は迷わず、前を見据えながら上へと昇っていく。時折タバコの男が吸い殻を捨てて、次のタバコに火を灯して会話を刀の男に投げかけるも、二言三言交わして断絶して終わる。
最終的には沈黙と、タバコの火を携えながら3階の一番奥にある部屋へと入っていく。部屋は薄暗いものの、ランプの灯が薄く部屋を照らしている。
「ただいま戻りましたよっと」
タバコの男が軽い挨拶をかけると、部屋の隅の椅子に腰かけていた男がおもむろに2人に目を向けた。
ランプの微かな光に照らされて、白い髭を蓄えた顔が期待に溢れた顔を見せる。
「おぉ。随分早かったものだね。待っていたとも。さぁ成果を聞かせてくれたまえ」
「治安悪化の動きは徐々に成果を発揮してると思う。チンピラ達に金ばらまいて見せたり、情報を流してみたりすると面白いくらいに広がってる。時間が時間だし、ちゃんと見たわけじゃないけど空気がピリピリしてていい感じだ」
「くだらん。受けた指示の内、気に入らないもの以外はやった。以上だ」
「もうちょい働いてくれてもいいんじゃねぇの?割とサボリ気味じゃね?」
「まぁまぁ。彼にはフォビアとの戦いの際にその力を存分に発揮してもらう必要があるのだから。多少は目を瞑ってくれたまえ」
「へーい。まぁそんなところかな。後は数人分はやってきたから。それでこっちが採ってきたサンプル」
「うむ。確かに受け取らせてもらったよ。……さて、それじゃあ今後のプランについて変更が少々入ったので説明をしておかねばな」
「変更?」
「ああ、フォビアの連中の方でなにかあったようで、1人古参のメンバーが脱退した後の再編が終わったようだ」
「向こうも色々あんだなぁ……」
タバコの男が軽薄に返事と会話をする中で、刀の男が珍しく自ら口を開いた。
「その古参のメンバーというのは?」
「ん、ああ。……確か君は面識があったと思うが」
髭の男も刀の男に聞かれたのに少し驚いたのか、
「コードネーム、タナト。奴がフォビアを追放されたそうだ」
刀の男がこの日で一番表情を歪ませた。驚愕と憤りを混ぜたような表情を浮かべた男は1人入ってきた扉から外へ出ていく。
「おーい!まだ話終わってねぇぞ!」
タバコの男のかける声も無視をして足早にビルの外へと出て行って、数歩歩いたところで足を止める。
「お前は一体何をしている、タナト……!」
刀の男がその場にいない相手に怒りの感情をぶつけると、腰に下げた刀がギリギリと軋んだ音を立てる。
投げかけた言葉に返事があるわけもなく残されたのは空虚な空気だけ。
刀の男はビルに戻る気もなく、しばらくの間その場で立ち尽くしたままだった。
宵闇の中、居場所は違えども幾人もの人生は絡み合って繋がっている。
運命は複雑に重なり合って、また新たな可能性を生み出す。
伊藤怜人と彼らが再び邂逅するのはまた先の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます