1-6 再会

 眩い光が視界を塞ぐこと数秒。光の強さが少し和らいだと感じだのも束の間。


「いっぺん死にさらせボケええええぇぇぇぇぇ!!」


 深夜に似つかわしくない怒号とともに、俺の身体は宙に蹴り飛ばされた。

 突然の事態に声も出ず、受け身を取ろうとするがあまりの威力に為す術なく地面に転がり落ちる。

「………………ってぇ…………」

 痛いと思えてるだけマシなんじゃないか、と思うような一撃だった。

 ふらつく身体をゆっくりと起こす。追撃が来ないのを不思議に思いながら怒号の主の方へ目を向ける。

 脳が揺れたためか、視界もぼやけて定まらない。蹴られた箇所も骨まで折れてないだろうが、痛みが響く。

 本来は多様するべきではないが状況が状況だ。意を決した俺は全身に意識を向けて『廻復力ヒーリング』を使う。

廻復力ヒーリング』に限った話じゃないが、異能というものは使用する人間によって性質が変わったり、コントロールがある程度効いたりするそうだ。

 俺の場合は小さい傷であれば早い修復ができるし、時間を犠牲にすれば全身を対象に取ることができる。

 傷を塞ぐような使い方とは違い、効果が現れるまでに時間がかかるが今回のようなダメージにはうってつけだ。


 ゆっくりとではあるが身体が軽くなっていくように感じていく。ぼやけた視界も徐々に整い、撃者の姿を明らかにする。

 黒い上下のスーツに黒革の手袋、ネクタイまでも黒。白いシャツが一際目立って見えるその様相には見覚えがあった。

 フォビアのメンバーが任務に臨むときの恰好がまさにそれだからだ。そのまま顔の方に視線が上がる。その顔には見覚えがあった。


「よぉ。忘れてへんやろな?」


 その男はさっき言ったことなど覚えてないかのように、軽快な声をかける。

 男の名前は、ネクロ。俺がフォビアに居たころに最もチームを組んで任務に出た相手。


「ネクロ……なんでここに?」

「あぁん?なんでもへちまもあるかい!こちとら最近警備も強化しようとしてるところにどこぞのアホがクビになったから色々手が足りんねん!!」

「そ、そうなのか……」

「大体挨拶もロクにせんと出てくとかお前どういう神経してんねん?なぁ?」

「すまん……」

「謝る人間の態度には見えんけどなぁ?」

「すみませんでした……」


 こいつとは仲はよかったんだ。よかったんだけど、基本会話のペースが握れない。

 フォビアに居たときに唯一ペースが握れなかった相手というのがこいつ、ネクロだ。


「で、なんで俺は蹴っ飛ばされたんだ……?」

「落とし前に決まっとるやろ。フォビアを勝手にクビになって挨拶もなし。さっき言うとったこと全部や全部!そもそもこれくらいで万事治まると思ってんちゃうぞ」

「それじゃ、その後に攻撃してこないのは?」

「……余計な仕事増やしとる場合やないしなって思っただけや」

 ネクロがいつの間にか横たわってるアイの方を見る。ネクロが何かしら彼女を気絶させたのだろう。少なくとも、アイに外傷はない。


「あの嬢ちゃんは一度連れてくで。異能見せたんやろ?」

「不可抗力ってやつだったんだけどな」

「別になんで使ったとかはええねん。やっちまったもんはしゃーないやん。それよりは嬢ちゃんがこっちの世界に足を突っこみそうならサクッと戻さなアカンやろ」

「そうだな。アイ……彼女には悪いけど、フォビアで対処してもらうのが一番だしな」

「ホンマお前はバイトの所の女の子といい、この嬢ちゃんといいどんだけ引っ掛けてんねん」

「そういうんじゃないって…………ってなんで俺がバイトしてるの知ってるんだ?」

「普通に考えてみ?世界の平和を守る秘密結社の一員がフリーになって放置とかありえるわけないやん」


 そういえばそうか。正直なるようになると思って出てきたものの、それはあくまで俺自身の話であって、フォビア側からすると持ってるのが難しい爆弾が近場にできてしまったわけだ。


「要はお前に監視つけとってん。」

「まぁ、それは……」

「それと、今日の分のシフトは飛んどけ。諸々話すこともあるしな」

「いや、そっちは仕方なくないだろ?糸崎ちゃんと店側にも迷惑かかっちまうんだけど」

「安心しとき。その辺についてはこっちで進めとる。店にも迷惑が掛からんようにしといてるわ。その嬢ちゃんはお前が背負ってきてくれ」

「お前がそういうなら別にいいけど……どこ行くんだ?」

「そんなん決まっとるやん、フォビアに入れんのやろお前」


 そりゃまぁ施設の利用も禁止されてるし。ネクロという男は感情的でありながらも頭は回るほうだ。だからこそいきあたりばったりではないはずなのだが。


「ま、話をするなら喫茶店やろ。ほな、行くでー」


 深夜の中、喫茶店と言い出した元相棒は、こちらを振り返ることなく、前へと進んでいった。

 ついていかない道理もなく、俺はアイを背負ってその後をついていくこととなった。

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