1-3 正義の味方
暗闇の中、かすかに光る月明かりと街頭が男たちを照らしている。乱入者に一瞬驚いていたものの今表情は敵意で満ちていた。まぁ自分たちの邪魔をされたのだから当然だろう。少なくとも男たちと女の子の間に示し合わせた様子もなかったし、問答無用で蹴っ飛ばした判断は間違ってない、悩んだら吹っ飛ばし得だ。
「テメェ……邪魔すんじゃねぇよ!」
「そんなこと言われてもな。元正義の味方としては見過ごせないだろ」
元の部分を強調して言い放つ。実際のところ、フォビアに居たときは正義の味方の立場だったわけで、こんな状況も何度か経験している。その時は複数人でチームを組んで当たってたから、先制攻撃で制圧しきるのが鉄則だった。
本来なら終わっているはず対峙している相手が残っているというのも、自分がただの一市民であることを実感させる。
「正義の味方だぁ……?ふざけてんのか!」
「残念ながら大真面目なんだよこれが」
「うるせぇ!ぶっ殺してやる!」
典型的な三下の台詞を吐いて一番近くにいた男が駆け出す。順当に考えれば一番下っ端だろうな。ケンカ慣れしてないのか右腕を大きく振りかぶりながら走ってくるが、隙が多く正直威勢頼みだ。普段なら避けていなせば簡単だけど、今回は別。助けた女の子は座り込んでしまっていて、とても1人で動けそうにはない。従ってやることは1つ。
「ちょっと痛いかもしれないけど、悪いな……!」
相手の繰り出した拳目掛けて短く拳を合わせる。胴や顔ではなく、拳に向かって、だ。
「がっ……!?」
予想してなかったであろう動きに、殴りかかってきた男が背中から崩れ落ちてうめき声をあげる。無理もない。普通なら避けるなり、防御するなりを考えるだろう。
少なくとも今までフォビアに入って戦ってきたこういった手合いでカウンターをやった相手はいなかった。
だからこそこういう時に一番効果を発揮する。下手に相手に大きな怪我をさせて騒ぎにするのもマズいし、何より俺が下手を打って気でも失ったら何をしに飛び出したのかすら分からなくなる。
それに、最悪俺の怪我が怪我を負う分にはなんとかなる。怪我をしないに越したことはないが必要ならそれも考慮しよう。
1人目の男が起き上がれないのを見て、残った2人が目くばせをして同時に詰めてくる。少なくともさっきの男よりはケンカ慣れはしているようだった。
人数の有利を活かして戦うのはいついかなる時も常識だ。たまに例外もあるけど、少なくとも守るべきものがいる相手に1対1を3回やるのと3対1を1回やるのでは1人側の神経の使い方に大きく差が出る。1人を最初に処理できたのは行幸だった。
「なぁ、兄ちゃんよ」
最初に吹っ飛ばした男が警戒してる俺に向けて声を発した。
「正直俺らも大事にしたくはないんだわ。頼むからその嬢ちゃんこっちに渡してくんねぇか?」
「この子を連れてくこと自体は大事じゃないのか?誘拐だって立派な犯罪だろうに」
「そっちは何の問題もねぇのさ。少なくともここでやりあってアンタが死んじまったりする方がよっぽどな」
そういうと男たちがナイフを取り出した。おいおいマジかよ。
「現代じゃナイフなんて持ち歩いてちゃマズいんじゃないか?1対2なんだし武器にしても、もうちょっとなんかあるだろ……?」
「お前がタダ者じゃねぇことくらいは分かるんだよ。それで、渡すのか?渡さねぇのか?」
後ろを見ると、女の子が目の前の光景に見入ってしまっていた。
まともなケンカなど日常生活で見る機会もないだろうし、こういった熱狂的な場には目を惹くなにかがある。余計なことを言って混乱させるよりは……。
「さっきも言っただろ?正義の味方なんだって。無理なもんは無理だって」
「そうかよ。……後悔するなよ!」
それを合図に、2人が同時に襲い掛かってくる。
ナイフって武器はかなり危険だ。刺す、斬る、突く、引く、投げると用途が多彩な割に殺傷性が著しく高い。訓練しなくても使うことができる上に、誰でも入手ができる。法律を気にしなきゃ持ち歩くのも簡単。それなのに防御する側は大変だ。
身体で防げないし、物で防ぐにしても日常生活の中でナイフを防げるものなんてほとんどない。フォビアでも武器持ちの相手への訓練は行っていたものの、それは準備をした上での話なので、今この現状は正直ちょっと厳しい。
「おらぁっ!!」
ナイフが空を切る。
しかもこの男たちがナイフの扱いにちょっと慣れているのがネックだ。2人同時に攻めるのではなく交互にだの、タイミングをずらしたりだの変なところでコンビネーションまで揃ってやがる。反撃しようとするとその都度咎められる。
「余裕そうなツラが消えたなァおい!」
「悲劇のヒロインならぬ悲劇のヒーローってか!」
……ヤバいな。ちょっと無茶しなきゃいけないかこれ。
ナイフを持つ相手の手首を足狙って攻撃を当たらない方向に流す。が、その次がすぐに来る。けどそれを捌くと次が来る。捌くのに専念するとジリ品だ。
そうやって思考を回し、打つ手を考えていると唐突に2本のナイフが同時に左腕に交差した。
「……っ!」
油断してたわけではないが、思ったより深く傷が抉れてしまった。
左腕の先から温度と感覚が抜けていくように感じる。
覚悟を、決めるか。
フォビアに迷惑をかけないようにとは考えてたけど、この状況なら許されるだろう。
もしかしたら元の同僚たちに狙われるかもしれないけど、それもその時だ。
————————————行くぞ、『
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