死者編
屍共の狂宴《アンデット・パレード》
高密度の魔力とはいえ剣に纏っていたのはカエデの持つ魔力
魔力量では圧倒的なまでの差があった
膨大な魔力で出来た高密度の魔力を纏う存在には届かない
筈だった
彼女の一撃は高密度な魔力を斬り首元に決して浅くない傷を付けていた
首元から黒いモヤの姿をした魔力が溢れる
その傷はすぐに修復される程度の傷だが
初めて表情を変える、それは驚きの表情だ
斬られるなど思ってもいなかった、視線を落ちている剣に向ける
この剣が特殊なのかと落ちている剣を拾う
剣には幻影を生み出す魔術が刻まれているだけ、業物ではあるがこの剣だけでは纏っている魔力を斬るは出来ない
何故斬られたのか分かっていない
剣の心得の無い者に取ってあの一振りに攻撃以上の価値は見出す事は出来ない
「この人間は取るに足らない」
初めて口を動かして声を出す
透き通った美しい声だ
「その筈だ」
強い人間と戦った事がある、そう言った人間は一目見れば分かる程の強い力を持っていた
弱い人間と戦った事がある、そう言った人間は一目見れば分かる程、強さを感じなかった
この人間は後者だった、それは間違いない
何度か攻撃を食らっている、そしてその攻撃は纏う魔力を突破する事は出来なかった
この人間からは何か変な違和感を感じたがただの気の所為だと考えていた
斬られた理由を考えるが途中で辞める
この人間はもう死んだのだから考えても無駄などうでもいい話
部屋の中央にある魔導具に近づくとジャリと土の上で何かが動く音がする
「死という結末は覆っては行けない」
動く者に標準を合わせる
正確を期する為に額に標準を合わせ放つ
不可視の一撃
「何……」
その一撃は外れたいや、避けられたのだ
目の前に立つ人間は見えない一撃を、高速で放たれた一撃を避けたのだ
「成程、僅かな魔力で空気を圧縮して放つのかぁ、魔術じゃないから魔法陣は要らないし纏う魔力でその魔力の流れを誤魔化すとは小狡いなぁ」
「何者だ」
「先程君に殺された人だよ?」
その人間はおちゃらけている
冗談を言うかのように笑いまるで別人のようにそこに立っている
目の前に確かに今し方死んだ人間が立っている
地面には体力の血が流れ赤い水溜まりが出来ている
人間は一定量の血を失えば動けなくなり絶命する
間違いなく流れている血は致死量に達している
手を開き前に出す
「それ、空気を圧縮した斬撃だよね?」
「なっ……」
一瞬で目の前まで接近し前に出した腕を掴まれていた
先程までとは比べ物にならないほどの身体能力、そして魔力も先程までとは違う
カエデは一撃に全魔力を使っている為本来は残っていないはずなのだが魔力がある
「貴様は一体何者だ……」
「私はカエデ、元3級冒険者のライアンとスーザンの娘、そしてこの身体の本来の持ち主」
「本来のだと……」
「そう! なんと私は神によって封印されていたのです」
神が器として選んだ赤子には本来の持ち主が居た
それがこの少女、本来のカエデであった
だが神によってこの人格は封印されてしまい12年もの間眠りについていた
ただ眠っている間にも精神は育っていた
そして身体を操る表の魂になっていた異界の魂が現在死にそれによって裏の魂として封印されていた本来の持ち主が表へ出たのだった
「神か……何故貴様は生きている」
「あぁそれは私の異系魔術の
腕を離し落ちている自分の腕の元に移動する
距離があるのに一瞬でその場に着く
腕を拾って思考し始める
「流石に腕くっつかないかな? うーん、まぁ良いか。取り敢えず確認するかな。……祈れ、その命の末路を、願え、その屍の脈動を、望め、その死した存在の理想を」
詠唱を始める
カエデの足元の影が広がる
「前へ進めかつて生きた屍共よ、過去に縋る汝らに未来を与えよう、汝らは死した故に死を超えた軍勢、踊れ狂え戦え
影から大量の骸骨が這い上がってくるように現れる
骨を鳴らしボロボロの鎧と剣を持つ意志の無い存在、数十体は居る
「戦うか?」
「いんや、戦わないよ。初めてこれ使うから確認してるだけ」
「そ、そうか」
困惑している
何がしたいのか分からない
会話している相手は仲間でもなければ味方でもない
偶然封印が解けただけで操っている身体を殺した存在、なんなら確実に殺す為の攻撃もしていた
なのに敵対する訳でも無く敵の前で呑気に魔術の確認をする
召喚された骸骨は指示がないので何をするでもなく突っ立っている
魔術を発動した当の本人は片腕は不便だと思い腕がくっつかないか試している
「確か……そこの君、治癒魔術かけてー」
骸骨に話しかけて治癒魔術を掛けてもらう
「おぉ、くっついた~」
腕は無事くっつき腕を回したり動かして不備が無いか確認する
「バッチリ! ナーイス!」
治癒魔術をかけた骸骨とハイタッチをする
切れた腕を直せるのは高位の治癒魔術、その魔術を使える骸骨は只者では無い
ついでに貫かれた際に出来た穴も治されていた
「それは英雄の死体か?」
「英雄かは知らないけど結構強い人達の屍」
かつて存在していた人々の屍を使役する魔術
それは死を冒涜する魔術、異系魔術で無ければ禁忌とされているような魔術である
「死んでる身体を甦らせることは……さすがに無理かぁ」
骸骨は首を横に振って出来ないと意思表示をする
他の骸骨も反応は同じ
そもそもそんな事が出来るのならこの骸骨たちも死んではいない
「死の概念は魔術程度で覆せる物では無い。死にて迎える結末は変える事は出来ない」
「それは流石に困るなぁ。この魔術ずっと発動は出来ないっぽいんだよねぇ。出来ても半年かなぁ」
魔術である以上使用し続ければ魔力を消費する
この魔術は維持に使う魔力の消費が少ない、ただそれでも使い続ければどんどん魔力が減り魔力が足りなくなり解除される
魔術の解除それはつまり死を意味する
「もし復活すればまた封印されるのでは無いか?」
「うーん、それは無いかなぁ。あの封印本来解ける物じゃ無いっぽいから保険なんて掛けてないと思う。まぁちょくちょく出られれば私は良いしなんかあの子も面倒な事やろうとしてるから返すけどねぇ」
今までの人生の記憶を持っている
当然、魔王を倒すという話も知っている
そしてそんな面倒な事はする気がないが世界が滅びるのは頂けない
そんな訳でもし復活出来れば身体の主導権は渡し危険に晒されたら手を貸すと言うつもりである
封印が解けたから出てきただけで現在やりたい事なども何も無い
「あれ? どうしたの」
「再び眠りにつく」
「えぇ~」
不満ありげな声を上げる
「なんだ?」
「折角だし私が生き返るまで手伝ってよ」
こいつ馬鹿なのかと呆れる
少なくとも敵に頼むような話では無い
「断る。死は覆らないと言ったはずだ」
長年生きてきた魔物、生きとし生けるものは必ず死を迎えその死は魔術では覆らないと理解している
「そこを何とか」
「断る」
「流石にこの状態で人前出る訳にも行かないしさ~お願い~」
「お前が死のうがどうでも良い」
「君の言った死は覆らないという話を覆す。長くてもたった半年だよそこを何とか後一人は寂しい!」
「覆せる話では無い」
「それは前例が無いだけ……前例が無いだけで不可能を語るのは余りにも短絡的じゃないかな?」
「何?」
「別に全ての命を甦らせるとか人間を不死にするとかそういう話じゃない、死んですぐのこの体を再度動かしたいだけ、血を失っているだけで内蔵は無事だし血を得られれば何とか行けそうな気もするけど……いや血までは操れなそうだし……」
魔術で死んだ体を操っているが血などの細かい部分までは操れない
脳や心臓に血を巡らせるのなら血を直接操るような魔術が必要となりその後魔術無しで血を巡らせるために必要な心臓の機能を戻すには雷系の魔術が必要となる
一種の魔術体系として組み込まれている雷系の魔術はともかく血を操るような魔術は原理不明な異系魔術の可能性が高い
「血であればそこにあるぞ」
赤い水溜まりになっている血を指す
「新鮮な血だよ。この血は多分もうダメ」
「人から奪えば良い」
「血を得た後にも2個くらい魔術必要かもだし魔術詳しそうじゃん!」
「一人でやれ」
「君は人の心無いね!」
「人の心なぞ元から持ち合わせていないが」
「このひとでなし!」
「元から人でも無い」
最終的には足に両手でしがみつく
魔術を使うも超人的な身体能力で簡単に避けられ再びしがみつかれる
抵抗を諦めてついて行くことを決めた
たった半年、今まで生きてきた時間に比べればほんの一瞬
「分かった」
「おぉ! ならよろしくね!」
カエデは握手を求めるが無視される
ショックを受けて落ち込むがすぐに立ち直る
「そう言えば名前は?」
「ベルリールフェルグライズ」
「ベルリールって名前ね」
「違う、ベルリールフェルグライズだ。一部の人間のように名を半分にしていない」
「別に名前を半分にしてる訳じゃないと思うけどね人間も……てか長いからベルで」
「省略を認めるつもりは無い」
こうして死者と魔物の短い旅が始まった
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