翌日から剣が出来るまでギルドで採取依頼をこなして魔物を倒し金を稼ぎながらアレックスから受けた依頼の準備を進める


「少しずつ稼げてるね」


朝、眠気が取れたカレンが手持ちの金を確認する

二人のお金は基本カレンが管理している

準備に金を使っている為採取依頼の報酬では手元には余り残らないがそれでも少しずつ手持ちが増えていく


「5級になればもっと稼げる。絶対達成するぞ」

「お~……あっ、そう言えば今日剣が出来る日だね」

「そうだね。鍛冶屋に行って見るか。どんな剣かなぁ」


宿を出て鍛冶屋に向かう

10分くらいで鍛冶屋に付き中に入る


「来たか」


老人が棚の武器を取り綺麗に拭いていたが途中で辞めて机に置いてあった剣を持ってくる

斧の黒単色に対して同じく黒を基調としているが血のような赤い色のラインが入ってる剣

形も普通の剣の形ではなく独特な形をしていて色と相まって厨二心を揺さぶる姿をしている


「かっこいい!」

「気に入ったか。持ってみろ」


カエデは剣を受け取り軽さに驚く

剣の長さを持ちながら軽く素早く振るえる


「凄い軽い……使ってた剣より全然軽い」

「剣には斧の時とは違い軽い頑丈な素材を使っている。これなら斧の時と違って素早く戦えるはずだ」

「予備じゃなくてメインでも使えそう……二種なら状況に応じて使えれば……」

「それならこの魔導具カエデちゃん使う?」


御者の男性から貰った所有者の武器を一つ仕舞える魔導具

カレンは杖を仕舞っているが正直杖無しでも魔術は使える上取り出す時に少しだけでも魔力を使うのが勿体ないと考えている


「良いの? あれば凄い有難いけど杖で使ってるでしょ?」

「杖はバックに入れておけばいいしそんな重くもないから大丈夫」

「なら使う」


魔導具の腕輪を受け取り付けていなかった腕の方に装備して剣を仕舞う

魔力を流す魔道具によって斧と剣どちらかもしくは両方を瞬時に取り出せて仕舞える


「それが良いじゃろな。隠し持てば相手の不意を付ける。不意打ちはその剣とも相性が良いしな」

「相性?」

「その剣は魔力を込める事で刻まれた魔術を発動出来る」

「魔術が使える剣!?」

「稀に魔物が持つ魔術が素材に刻まれているケースがあるのじゃ、その素材を使って作られた武器は魔術が刻まれる」


魔物の中には命の源とも言える魔力を使って魔術を扱う個体が居る

ホーンディアの亜種の中には魔術を使える個体が居る

丁度アゼの大木に居座っていた亜種の中に一体だけ魔術の使える個体が居たのだ

素材が落ちる可能性は決して高くは無く一体しか居ない魔術を使える個体の魔術が刻まれた角を手に入れたのは正しく奇跡とも言える

そしてその素材を使った剣を腕利きの鍛冶師に作って貰えるのも奇跡に近い

カエデはかなり運が良いと言える


「それでこの剣にはどんな魔術があるんですか?」

「実体のある幻影を生み出す魔術だな。戦っている時使ってきてはいなかったのか?」

「使ってた?」

「どうだろ?」


魔術で足止めする時魔術を放つのに集中していて数自体は見ていなかった

使っていた可能性はあるが分からない

カエデと戦った中には幻影を使った個体は居ない


「まぁ良い、その魔術は自分と同じ姿形の幻影を一体生み出す。一度発動すれば幻影の魔力が無くなるか撃破されるか自分の意思で消すまで残り続け幻影は命令をすればその通りに動く」

「おぉ、便利な魔術」

「魔力はそれなりに使うが武器を仕舞っていても効果は続く」

「仕舞っていても……強いな」


カエデはカレンに比べて魔力が少ないとはいえそれでも魔術師クラスの魔力を保有している

一つの魔術を使う程度の魔力の余裕はある


「6級の魔物で試し斬りしてくるといい」

「はい! ありがとうございます」


ルンルンで鍛冶屋を出る

新しい剣を手にして準備が整ったので依頼の目的地エルティ洞窟へ向かう

城門を通りエルティ森林へ歩く


「獣道何処かなぁ」

「奥まで続いてそうな道がここにあるよ」

「ならそこかな?」


受付嬢の言っていた獣道を見つけて進む


「森で探す?」

「道通ってて魔物見つけたらこの剣を試してみるけど道外れてまでは探し行かないかな」

「了解」


獣道で魔物を探すが見つからない

魔物は何処からともなく現れるがその数は一定ではなく出てくる時は大量だが出ない時は本当に極わずかという事もある


「まぁそう簡単に見つからないよね。洞窟行く前に試したかったけど洞窟内にも魔物出るしまぁ良いかぁ」


森林の獣道を歩いて一時間ほどで先に洞窟が見えてくる

少し高い崖がありその崖を掘り抜いたような形で洞窟がある


「おっ洞窟が見える」

「入口はそんな大きくないね」

「だねぇ、これなら案外すぐ見つけて魔物倒せるかな」


洞窟の前に着く、中を覗き込むが暗く何も見えない

洞窟の地図などは貰っていない、アレックスが渡すのを忘れていたのだ

当然入った事も無く未知のエリア


「うおぉ、真っ暗……なんも見えん」

「光よ周囲を照らせライト」


カレンが生活魔術ライトを使い洞窟を照らす

こう言った場面で大活躍する魔術ライト、冒険者の味方

洞窟が照らされ数メートル先が見える


「近くに魔物の魔力を感じない」

「よし行こう。道が曲がってなかったら危ないから慎重に進もう」

「そうだね。カエデちゃん武器は構えておいて」

「この剣の出番だな」


剣を取り出して進む

数メートル先しか照らせていないのでゆっくりと進む

サーチがあるとは言え魔力の籠っていない攻撃は感知出来ない

魔術でも魔術の速度によってはカレンが気付いて伝達するまでに当たってしまう可能性がある

ゆっくり10分近く歩くと道が曲がっている

曲がった道では先にライトを飛ばし照らした後、戦士のカエデが先に向かい安全を確認する


「何も無い」


確認し終えてからカレンが進む

カエデは踏んだ際に砂利が進行方向に転がっていくのを見て少し傾斜があることに気づく


「これ若干斜めだな」

「そう?」


若干の違和感に気づく

振り返るが暗く確認が取れないがカエデの言う通り集中しないと気付かないほどの傾斜で下に進んでいた


「少しずつ下に向かってる」

「奥に広い場所でもあるのかな?」

「どうだろ? ただの偶然かもしれないしそんな気にしなくていいかな?」

「そうだね露骨に傾斜がきつくなったら引き返そう」

「だな」


そのまま慎重に進んでいく

ここから曲がった道が増えて今自分達が歩いている方角が分からなくなる


「てか一本道なのか。迷わずに済むから有難いけども……」

「道幅は変わらないから凄い戦いづらいね」

「この道幅だと1対1しか出来ないな。斧を振り回すのは厳しそう」

「複数体居たら私が対応するね。ここなら相手も魔術を避けられない」


この洞窟の道幅なら炎の下級魔術ファイアブレスを使うと炎が道を埋め尽くし避ける事が出来ない

そのまま進んでいると先の方の道が明るくなっている

その灯りは動いていて足音も聞こえる


「あれ? 灯りだ」

「本当だね」

「冒険者? 足音は一つっぽいけど」

「……この魔力は」


サーチで確認すると見覚えのある魔力だった


「カレンどうしたの? おーい」

「…………」


その見覚えのある魔力はオルガ・リートンの魔力

それはカエデが入学試験で戦った相手、同時発動を2つ使える魔術師であり入学試験前にカレンの傷を笑い平民を嫌い喧嘩を売ってきてカエデに敗北した人物

貴族の彼は本来こんな場所に居るはずのない人物


「恐らくオルガ・リートン」

「オルガ・リートン……あぁ、えっ!? なんで?」

「分からないけど関わらない方がいいし近付かず距離取ってついて行こう」

「そうだなぁ。本当にオルガなら関わるの面倒だしバレない程度の距離で着いて行こう」


灯りが遠くに見えるくらいの距離でオルガの後ろを歩く

人前で敗北したオルガは当然のようにカエデに復讐する事を考えていてカエデ自体謝罪をして貰っていないので許していないしカレンも嫌っている

そんな三人が会えば最悪戦闘になりかねない

こんな狭い道で魔術師が戦えばとんでもない事になる

オルガは二人に気付く事も無くどんどん奥に進んでいく

洞窟に入ってから合計30分くらいあった頃ようやく狭い道から出る

二人がその部屋に足を踏み入れると同時に壁に並べられたランタンが光り始めて辺りを照らす


「うおっ……何これ」


かなり広い場所で中央に人工物があるのと壁のランタン以外は何も無い

前に居たオルガは中心付近に立っていて照らされたのに気づき周りを見渡す

そこでようやく二人を見つける


「奴は……何故ここに、まぁいい」


オルガはカエデを一度睨みつけるがすぐに中央付近にある人工物に触れる

すると人工物が光り始めたと思ったら黒いモヤが現れて空中で集まる


「膨大な魔力……あれは魔導具?」


黒いモヤは空中で大きな球体になった後、球体にヒビが入って砕け散る

破片は飛び散り地面や壁に突き刺さると霧散する

砕けた球体の中心付近に一体の魔物が居た

それは依頼書に書かれていた魔物の姿をしている

(ゲームのボスみたいな登場の仕方だな)

4枚の大きな翼を持つ人型のような魔物


「カエデちゃん逃げるよ!」


カレンは慌ててカエデの腕を掴んで先程の道に戻ろうとするが道が無くなっている

必死に道を探すカレンを一度落ち着かせようと声をかける


「えっ、何カレンどうしたの? 落ち着いて」

「あれは5級なんかじゃない……3級よりを遥かに超える魔力量……勝てる相手じゃない!」

「え?」


サーチは使えないが魔力の確認は他にも方法がある

それはその存在が出す魔力を見て図るやり方、そのやり方は正確では無く魔力の出力を押えている相手には意味が無い

ただそんな行動は目の前の魔物はしていない

確認してカレンの言葉が真実だと理解する


「嘘だろ。ふざけろ」


震える声でカエデは小声で呟く

カレンに言われるまで、魔力を確認するまで目の前の存在を理解していなかった


「何が5等級の依頼だ……」


アレックスが出した依頼の魔物である事は間違いない

この依頼は何度か失敗している

そして最新の情報で4等級に変更になる予定だった

依頼を失敗し逃げ帰った5級冒険者パーティの1つがギルドに報告を上げてそれがある勘違いに繋がっていた

報告ではこの魔物の魔力量は5級、ただ5級以上の強さで恐らく4等級案件と言っていてその話を聞いたアレックスは4等級に上げる予定だった

そして4等級の依頼を達成した二人なら倒せると考えて5等級のままでアレックスは依頼を出した

それが今回の件についてアレックスが起こした最大の過ちであった

もっと情報を集めておくべきだった

この魔物の本来の等級は


『1級』


魔物の中で最上位に君臨する存在

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