魔物

「ここからだな」


森の入口を少し進んだ先に看板と柵がある

そこにはここから先は危険と書かれているが関係なく五人は進む


「見た感じまじで動物もいないな」

「さっさと行くか。時間かけて帰るの遅くなったら困るし」

「だなぁ」


いつでも抜けるように剣の柄に手を添える

子供の行進速度なのでゆっくりだが確実に入口から離れていく

(弱い魔物なら今の私でも)


「そういえば剣の訓練どうだったんだ?」

「全然、少しは良くなったって言われたけど狩りに連れていくならあと5年って言われた」

「あと5年で狩り出来るなら良いじゃん俺はあと10年は無理だって言われてるぞ」

「まぁラリーのお父さんは厳しいからね」


ラリーの父親は自衛団のリーダーを務めていて年の離れたラリーの兄は所属している

ラリーを自衛団に入れる予定だがラリー自身は冒険者になるつもりなのでいつも断っている


「すぐに魔物狩れるようになって冒険者になってやる」

「私も!」

「俺だって冒険者になって活躍してやる」

「大活躍だ!」

「無理はしないようにね〜」


雑談しつつ10分近く歩く

周りへの警戒は解かず周りの音を聞く

(静かこれなら音がすれば気付そう)


「あれ……」


ここでようやくカエデは違和感を感じる

普通なら虫の声もするのに一切聞こえない5人の話し声と足音以外無音と言えるほど静かだった


「魔物どころか虫すら居ない……?」

「ここ数日間はそうらしいよ。まぁ虫ってうるさいし居ない方が良い」

「こんだけ静かなら魔物が近づいたら気付くしな。俺だってちゃんと警戒はしてる」


(違う……これは)

動物や虫などは人間よりも高い危機察知能力がある

数日前から森が静かになっている、それはこの周囲の動物が隠れたり居なくなるような異常事態

(あっちでも災害が起きる前にネズミとかが逃げ出すって聞くし……これは災害のような物が迫ってる?強い魔物とか?)


「まぁ気にすんな。珍しいがこう言う事はたまにあるらしいしな」


肩を叩かれる

(流石に心配しすぎかな、まぁ地震起きてるわけじゃないし気のせいかな)

考えるのを辞めて警戒に戻る

数十分歩きどんどん奥へ進んでいく


「流石にこれ以上は迷子になるかも、それに遅くなったら怒られる」


足を止めて言う

雑談しながらだったからかだいぶ森の奥の方へ入っていた

森に入ったのは初めて最悪森の中で迷子になる可能性がある

そんな時に魔物にあったら一溜りもないだろう


「あぁ……そうだなぁ帰るか」

「だね、初めてこんな奥まで来たよ」

「よし帰るかー」

「暗くなる前に着くかなぁ」

「今なら何とか夕方には間に合うと思う。少し早足になるかもだけど」

「急ぐかぁ怒られるのは勘弁だ」


(絶対森の中に入った事がバレた方が怒られる)

五人は来た道を歩く

数分歩いた時近くの草むらから音がする

すぐに確認するとそこの草が異様に揺れている

四人を庇うように前に出て剣を抜く

獣の唸り声などは聞こえないが揺れ方が風に揺られているような動きでは無い


「何かいるの?」

「分からない……けど下がって」

「走るか?」

「下手に走れば刺激するからまだ背中は見せないように下がって」


背中を見せないようにジリジリとゆっくり離れる

草は激しく揺れているだけで何も出てこない


「出てこないな。ジム、コリン後ろを確認してくれ」

「分かった」

「任せろ」


ラリーが短剣を構えて隣に立つ

恐らく家から無断で持ってきたのだろう

他にも幾つか道具を持ってきてるようでちゃんと準備はしているようだ

ジムとコリンは言われた通りに背後の逃げ場を確認する


「このまま離れるよ」

「だな。得体の知れない物には無闇に近づくなって耳にタコができるくらいには言われてるからな」

「充分距離取ったら走るように指示出して殿は私がやる先頭お願い」

「分かった。2人はどうだ?」

「こっちは問題なし」


ゆっくり距離を取りラリーの指示を待つ


「……よし、全員走れ!」


距離を充分に取ったのを確認してラリーが叫び全員走る

ラリーが先頭でカエデが殿を務める

後ろを確認しながら走る

暫く走り3人は息が切れて座り込む


「結局出てこなかったな。なんだったんだあれ?」

「なんだろうね。少し休んでから帰ろう」

「疲れたぁ」

「うへぇ」


剣を仕舞う

息を整える、まだ村までは時間がかかる

(あれが魔物じゃなくて良かった……ラリーと2人とはいえ魔物は勝てるか分からない)


「そろそろ行くよー」

「「はーい」」


3人が立ち上がる


「カエデ!背後だ」


ジムが声を上げる

咄嗟に後ろを向くと黒い何かを纏う生物が居た

小柄の人型の魔物、1m未満の体格で石の斧を持っている


「魔物……」


剣を抜く

ラリーもすぐに短剣を構えて前に出る


「魔物か実物は初めて見たな」

「小柄の人型……確か弱い魔物の見た目の1つだったと思う」

「相手は一体、やるか」

「村までは遠いここで仕留める」


カエデは魔物の左側に移動して剣に魔力を纏わせて切りかかる

魔物は素早くジャンプして避ける

ラリーがジャンプして回避した魔物に追撃する


「げっ、マジか」


魔物は寸前で体を逸らし致命傷を避けている

着地と同時に剣で仕掛けるが石の斧で受けられる

見た目は石の斧だが魔物の魔力を帯びているため耐久力や攻撃力が数段上がっている


「がら空き!」


蹴りを魔物の腹に入れて体制を崩したところに一撃浴びせる

魔物は体が崩れ塵になって小さな石を残して消滅する

纏った魔力を解除する

(結構魔力持ってかれるなぁ)


「魔石だけか」


魔物は死亡時に消滅する、その際に体の一部が消滅しないで残る時がある

そうやって残った素材は物によっては高値で取引される


「早く行こう」

「そうだな」


五人は急いで移動する

移動中に奇襲される、気づいたラリーがコリンの服を引っ張ることでなんとか攻撃は回避した


「私がやる。ラリーは三人を連れて急いで」

「……分かった。無理はするなよ行くぞ!」


剣を構える

同じ種類の魔物だ一体ならば一人でも勝てると踏んでの判断、ラリー以外の三人は足手纏いともなる

木々の裏から二体出てくる


「うわっ三体……これなら一緒に戦った方が良かったかも」


一体目に真っ直ぐ切りかかると斧で防がれる

他二体は隙を狙って斧で殴り掛かる

(二体は無理……なら)


「炎よ敵を焼き打て」


魔術を起動する

空中に魔法陣が現れ中心から炎が発生して魔物を襲う

剣を防いだ魔物に先程と同じように魔力を込めた蹴りを入れる

三体目の斧による攻撃は防げず食らってしまう

身体に魔力を流して防御力を高めていたので痛みはあるが耐えられる程度まで抑えられている


「痛っ……はぁぁぁ!」


剣を思いっきり振るうが斧で防がれる


「炎よ敵を焼き打て」


剣を防いで無防備なところに炎の魔術を当てて体制を崩したところを斬る


「はぁはぁ」


息が切れる

蹴りを入れて放置していた魔物が飛びかかってくる

斧を剣で防ぐ


「ぐうぅ……」


ジリジリと押されているがなんとか弾き真っ二つにする

魔術で攻撃した魔物は生きていたがボロボロで焼けた手では斧が持てず落とす

息を整えて剣で仕留める

死んだと同時に斧も消滅する

魔石を回収する

(弱いとはいえ魔物が四体隠れていた? ……凄い嫌な予感がするな)


「早く合流しないと」


すぐに先に行った四人の元に向かう

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