幼少編

転生

神の意志によって異界の魂が世界に器を得て誕生した

彼女は小さな村に住む夫婦の元に生まれた

名はカエデ、この世に存在する2人目の転生者

両親は元冒険者で早いうちから剣や魔術の訓練をしてもらっていた

生まれてから約7年経った、最初こそ性別が違う事に違和感を感じたり不服に思っていたカエデだが7年もすればある程度は慣れてくる

カエデは家の庭にあるボロボロな鎧が付いた案山子目掛けて木刀を振るう

案山子は動かないので直撃するがビクともしない

何度も切りかかる


「ビクともしない……」


衝撃が手に伝わり手が震える

(い、痛い)


「魔力操作も振り方も前より良くなってる。これなら……」


カエデの父親であるライアンはカエデが使っていた案山子を確認する

鎧にくっきりと跡がついている


「おっ」

「あと5年くらいで狩りを始めても良いかも知れん。今でも弱い奴なら倒せるかもしれないがただ魔力の操作はまだまだ、纏うだけじゃ多少強くなるだけ」


ライアンは片手で木刀を振る

鎧ごと案山子が砕ける


「おぉ」


普通なら案山子が砕ける事はほぼ無い

ライアンが持つ木刀は魔力を纏っている


「大抵の冒険者ならそれでも良い。ただそれだけじゃ強くはなれない。冒険者で言ったら良くて4級止まり」


冒険者のランクは6級から1級に分類される

大半の冒険者は5か4級止まり、3級に上がれば冒険者内では一目置かれる

2級で人類の最高峰の実力、1級に関しては人の域を超える怪物と言われていて何人いるのかは不明

カエデの両親は3級冒険者でかなりの実力者


「膨大な魔力でごり押すのもありだ。だが俺たちの魔力総量じゃ現実的じゃない強くなるなら戦士にとっての基礎を磨くことだ。この調子なら5年でだいぶ良くなる筈だ」


魔術を使う為に必要な世界に満ちるマナ、魔力と呼ばれる存在、その力を魔物や人、精霊など多くの生物はその身に保有していた

そして魔力は個人で保有量が変わる

魔力総量は才能が7割、あとは環境や努力とされているがどうあがいても才能には負ける、カエデは並みの人よりはあるが魔術師で見れば平均的

今は魔力を操り自身の肉体や武器に纏わせる戦士の使う技術を教わっている

カエデも先程魔力を纏わせてはいたがやっていたのは木刀の表面にただ魔力を流すような行為で維持が出来ておらず魔力がそのまま溢れているせいで消費も激しかった


「あと5年かぁ」

「そう焦んなってお前は魔術と同時並行で習ってるんだ、それを考えれば早い方だ」


ライアンは頭を撫でる

後5年、つまり12歳それは誕生日を考えると学園入学の半年前となる

(12歳だと遅すぎる)

学園は実力主義で入学試験もある、それも座学ではなく実技

カエデは最低でも入試で魔術の腕か戦士としての腕を示さないとならない、そして実力を見せ続けなければ学園長と話せない


「よし、次は俺に攻撃してこい」


ライアンが木刀を構える

カエデも構えて切りかかるが軽く避けられ頭を軽く叩かれる


「大振りだな。木刀やっぱり重いか?」

「大丈夫、これで慣れる」

「分かった。さぁ来い」


何度も挑むが悠々と避けられ一度も当たらない

大振りの攻撃は実戦経験豊富なライアンからすれば軽く避けられる物

木刀の重さに振り回されている

数分間やって疲れて地面に倒れこむ


「疲れた~」

「それじゃ休憩だ」


ライアンは座り込みカエデに水を渡す

渡された水を飲む


「ならこうしよう、一度でも当てられた狩りに連れて行く」

「絶対当てる」

「お~い! カエデ」


訓練をしていると声がしたので二人は方を向くと同い年くらいの少年が居た

ラリーという名で子供達の中でリーダー的立場の少年だ

歳は9歳で2つ上

良く村の子供数人で遊んでいる

カエデは子供の目付け役として一緒に遊んでいる


「もうそんな時間か、訓練は終わりだ。夕方には帰ってこいよ」

「はーい」


ラリーはいつも同じ時間に呼びに来る

訓練終了の合図としていた


「森の中は危ないから行くなよ~」

「分かってる~」

「は~い」


二人は他の子供のいる所に向かう


「今日は何するの?」

「全員集まってから言う、挑戦だ」

「挑戦?また何かいたずらしようと思ってるんじゃないよね」

「そんな子供みたいなことする訳ないだろ」

「いや、みたいと言うか子供でしょうが子供らしい事しないで何するのさ」

「まぁまぁ、ついてからのお……誕生日!」

「お楽しみね」


カエデは念の為に子供用の剣を持っていく

子供用と言ってもしっかりと切れ味がある正真正銘の剣、扱いを間違えれば怪我をする

両親は危険性をしっかり教えた上をカエデなら大丈夫だと剣を持たせてる

転生したとは言え元は成人済みの大人であった

両親の言う危険性をしっかり理解している

持ってる剣も間違いが起きないように無闇に抜かず他の子供に触れさせない事を徹底している


「ラリー、カエデ早く!」

「遅いぞ〜」

「悪い悪い、ちょっと寄り道をしててな」


先に来ていた三人が手を振っている

コリン、ジム、カレン、いつも遊んでいるメンバー

所謂問題児集団、何をしでかすか分かった物ではない


「早く行こう」

「楽しみだ」

「行く? どこに」


一人だけ何も聞かされてないカエデは聞くと四人は笑顔で言う


「「森の中!」」

「はっ、えっ!?」


驚きすぐに止めようとする

ライアンが言っていたが森は危険


「だめだよ。森の中は危険、そもそも森の入り口だって本当なら行かない方が良いくらいなのに」


森の中には魔物が生息している

彼が魔王になる前から居た謎多き生物、狂暴で危険性が高い

稀に森から迷い出てくるがそれは村の自衛団かカエデの両親が退治している

森の入り口は自衛団が見回って安全を確認してるから子供達の遊び場として使っているが本来なら立ち入ってはいけない


「大丈夫大丈夫、ここ最近は特に魔物なんて見てないって言ってたぞ」

「それどころか最近動物も少ないんだって」

「見つけたら逃げればいい。剣持ってるのにビビってるのか?」

「別にビビってないし」

「なら行こうぜ」


今までは目付け役としての行動は取れていた


「いやでも……」

「探検だ!」

「カエデちゃん心配しすぎだって、ちょっと少し奥に行くだけだから」

「来ないなら来ないでもいいぞ」


今、森で起きている事態も今までなら僅かとはいえ会話の中にあったヒントから予測できていただろう


「あぁ、分かった。私も行く」

「そう来なくちゃ」

「よっしゃ行くぞー」

「早く行かないと見回りが来ちゃう」


煽られ少し感情的に返答し五人は一緒に森の奥へ向かう

カエデ本人の唯一の誤算は体に精神が引っ張られている事に気づいていなかった事

この判断は勝手に行くつもりなら着いて行くしかないと考えての事だが今のカエデは大人の身体でも無ければ魔物との戦闘経験もない

そしてこの選択が一つの運命を変える

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