悲劇

カエデは急いで四人の元に向かう

(まだそんな進んでないはず)


「おーい!カエデ〜!」


前方から声がして見るとジムが手を振っている

四人と合流する

距離を取って少しだけ休憩していたらしい


「カエデちゃん大丈夫!?」


カレンが抱きつく


「何とか大丈夫」

「無事で良かった」


カレンの頭を撫でる


「てか魔物が四体って……居ないんじゃないのかよ」

「隠れてた可能性がある。小柄だから見逃してたのかも……そうだ、ラリー道具幾つか貸して」

「あぁ、分かった。使い方は分かるよな」

「分かる」


道具を幾つか借りる

煙玉など逃げる際に使える道具だ


「村までの距離はあと半分くらいだ」

「急ごう、他にも居るかもしれない」


村に急ぐ

纏うだけでなく魔術も使ったためカエデの魔力が大分減っている

訓練で使った魔力もまだ回復していない

体力も大分削られており戦うのはもう厳しい

それも四体の魔物は魔物の中では最弱と言われている存在、他の魔物では勝てるかも怪しい


「待って!なにか来る」


カエデが四人を止めて前に出る

すると3m近い魔物が前から現れた

鎧と武器を身につける二足歩行で狼のような顔をした魔物、先程の魔物の比ではない存在

(あと少しなのに……)

村の入口付近、柵が見える


「親父から聞いた事ないぞ……こんな魔物の話」

「武器を持たない二足歩行の獣の実力は5級か4級、鎧や武器を持つ魔物は3級相当の魔物……」


両親から教えてもらった魔物の特徴

目の前に居るのは3級相当の魔物……少なくともこの五人が勝てる相手では無い


「に、逃げて! 村まで行ってお父さん呼んで!」


四人に逃げるように伝えて剣を構える

恐怖で震えているが堪える

本能的に理解する、勝てる相手じゃない

魔物はまだ戦闘態勢には入っていない武器も取り出す様子は無い

(今なら道具を使えば隙を作れる)

そう考えたカエデは道具を手に持つ


「お、俺もやる」

「三人を連れて逃げて」

「だが」

「足手纏いだ! 行け!」


ラリーを怒鳴りつける

豹変したカエデに恐怖を抱き三人を連れて逃げる

相手は格上、一人でも二人でも時間を稼げるかすら分からない

ただここで四人を逃がせば全滅のリスクは減らせる

柵を超えれば村はすぐ、村には自衛団、元3級冒険者のライアンとスーザンが居る

(魔王を倒すも何もここで終わりか)


「やってやる、炎よ敵を焼き打て」


炎の魔術を使い攻撃を仕掛ける

直撃するが無傷、それどころか魔物はカエデを見ていない


「待て、どこを見てる!」


魔物の視線の先には逃げる四人が居た


「させるか!」


ラリーから借りた煙玉を投げ付ける

魔物に当たると煙が発生し魔物を包み込む

(これなら追えない)


「ウオォォォォン!」


魔物は雄叫びを上げる

思わず耳を塞ぐ

空気が揺れ煙玉の煙が散り薄くなる

音で何処にいるか分かっていたのか四人に視線を向ける

魔物は武器は取り出さずにゆっくりと四人の元へ歩いて向かう


「お前の相手は……俺だ!」


魔力を込めて剣を振るうが鎧に阻まれる

攻撃しても無視される


「炎よ敵を焼き打て」


炎の魔術を使うがやはり無傷、それでも必死に剣を振るい食らいつく


「行かせない」


魔物の前に立ち魔術を顔面目掛けて放つ

魔物は手を前に出して炎を手で受ける、傷1つ付かない

消費が少ない下級魔術を何度も放ち道具を投げつけて剣を振るう

魔物はようやくカエデに反応し爪を立てて引っ掻く

(よし注意を引けたこれなら時間を稼げる)

二発目も回避して攻撃を加える

ダメージは無いが注意を引きつけるには殴り続けないといけない

突如全身に纏わせていた魔力が消える


「はっ……えっ」


突然の事で何が起きたか理解出来ていない

原因は魔力の使い過ぎによる魔力枯渇

再び魔物が攻撃を仕掛けてくる

襲いかかる魔物の一撃を剣で防ぐが剣は砕け散りそのまま吹っ飛ばされ木に激突する


「がっ……あ……」


血を吐く、骨が折れたことが分かる

(痛い、痛い……痛い!)

激痛に呻く、思考が痛いという言葉で埋め尽くされる

尋常ではないほどの痛みが全身に走り身体を動かす事が出来ない

腕を掴まれ持ち上げられる


「ぐっ……は、離せ……」


腕を強く握られてメキメキと音を立てて折られる


「……いっ……ぐぅ……ぁぁぁぁぁぁー!」


激痛に悲鳴を上げる

ジタバタと抵抗するが効果は無い


「カエデちゃん!」


カレンが気付き叫ぶ


「に、逃げ……ごっ……ガァ」


声を上げようとするが放り投げられ地面に叩きつけられる

カエデを放り投げた魔物はカレンの元に近づく


「い、いや来ないで……来ないで」

「カレン!走れ!」


手に持っていた石を投げつける

当たるがビクともしない

魔物は鋭い爪でカレンを引っ掻く

恐怖で足が震え動く事が出来ないカレンは回避をすることも出来ずに直撃する

胴体を大きく抉られ大量に血を噴き出て倒れる


「てめぇ!何してやがる!」


ラリーは道具を投げつける

投げたのは小型の爆弾、小型で範囲は狭いが威力はそれなりにある

魔物に当たって爆発する

だがその程度の物ではビクともしない

魔物がラリーの方を向く


「こ、来いや! 獣畜生が!」

「ラ……に……」


ラリーは叫び震える体を奮い立たせる

爆弾を再び投げる

直撃しても構わず魔物はゆっくりと近づく

突っ込んで短剣を突き立てるが衝撃で短剣が砕け散る


「なっ……ぐはっ……」


魔物の一撃を受けて倒れ込む

ラリーの服から転げ落ちた3個の煙玉が辺りを煙で包む

ジムとコリンは何とか柵の中に入れたようで必死に叫び村で救援を呼ぶ

声にもならない声を上げ血を流し倒れるカレンとラリーの方へ手を伸ばすが届かない


「がァ……ァァ……」


声をあげようとするが口の中に血が溜まりゴボゴボと泡立つだけで声が出せない

カエデは後悔する

森の中に入ることを止めればよかったと無理してでも止めればこうはならなかった

自分が強ければこんな事にはならなかった、弱かったから何も出来なかったと

後悔しても目の前の血塗れた景色は何も変わらない

自分のせいだと責め目の前を光景をただ見続ける事しか出来ない

煙を腕を振り払うと一番近いラリーでは無くカレンの体を掴み上げる

(辞めろ……やめてくれ)


「……ウルフナイトか、こんな奴が村の近くに居たとはな」


聞き覚えのある声がした

声の主のいる方を向くとそこにはライアンが立っていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る