第16話
天音は目の前に座る霊斗を眺めた
「なんだよ」
「ううん、なんでもない!」
天音は度々霊斗の夢の中で、いわゆる夜伽をしてきた
今日もそれをやったばかりであり、霊斗は疲れた顔をしている
「そういえば天音」
「ん?」
「俺、彼女できた」
「エイプリルフールはもう過ぎたよ?」
「嘘じゃねぇよ!?ほら、桃香の同級生に朱歌って子、いただろ」
「あー、夜斗の妹の?あの子の紹介?」
「いやあの子が彼女。できた子だよ、料理もできて掃除もプロ並み。それでいてアイドルっていうもう最高だな!」
嬉しそうに言う霊斗
天音は胸の痛みを誤魔化し、笑った
「霊くんが幸せならいいんじゃないかなぁ。裏切られないように気をつけなきゃね!」
「そうだな…なかなかなかなかなかなかに不安だけど」
「そ~と~不安だね。大丈夫、私の霊くんなら!」
天音は霊斗を学校へ送り出した
そしてため息をついて、夢魔の力を使い朱歌の夢に入ろうとした
まだ寝ているのは夢魔の力でわかっていたのだ
(うーん…。霊くんを嫌ってもらうしかないかなぁ)
『無理よ。貴女の力じゃね』
「え…?朱歌、ちゃん…?」
『私はお兄ちゃんと同じで、死神なのよ。死神の夢に入ろうとしたのは貴女で3人目よ』
朱歌は天音に手を向けた
現れた鎖が天音を捉え、縛りあげる
「な、なにこれ!?」
『レージング。戒めの鎖、みたいなものかしら。私の夢の中に捉えて、2度と外に出さない監獄魔法よ。霊斗はもう私のもの。貴女は必要ないわ』
笑う朱歌が、腕を振るう
天音の体が強引に牢屋に入れられ、錠をかけられる
「こんなの、夢魔のちからで…!」
「無理ね。ここは異能が使えないもの。見せてあげる」
牢屋の外の朱歌が指を鳴らす
牢屋側面に何かが現れ、天音の体を映した
「私!?」
「そうよ。リアルの貴女。霊斗が帰ってきたわね」
クスッと笑い、霊斗が映る画面を見ながら悦に浸る朱歌
天音は霊斗に呼びかけようと声をかける
「霊くん!私を起こして!」
『天音…。なんでまだいるんだ?』
「え…」
『彼女ができた時点で察してほしかったけど…。まぁいいや、夜斗。連れてってくれ』
『おう。朱歌のいい遊び相手になるだろ』
『遠慮はいらないぞ。もう、俺の幼馴染じゃなくなる』
「そんな…霊くん、嘘だよね…?そんなこと、思ってたの…?」
『よく耐えたもんだな、霊斗。日頃夢の中で襲われてたんだろ?』
『まぁ、お前が耐えろって言うから耐えてたんだけどな…。天音は今、監獄の中か。清々する』
「そん、な…。霊くん…。もう、やらないから…許して…。操らないから、許して…」
「これが現実よ。貴女は、私の兄に売られたの」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
天音は頭を抱えてうずくまる
画面内の霊斗は、天音をもう見ない
現れた朱歌を抱きしめ、それが天音へのダメージを加速させる
そして、天音もブラックアウトした視界の中で、リアルに復帰した
「霊くん…ごめんなさい…。もう、しないから…許して…。私と、一緒にいてよぉ…」
「…おはよう天音」
「霊、くん…?」
「おう…すごい顔してるな」
体を起こした天音が、泣き顔で霊斗を見る
夜斗は既にこの場を離れており、その部屋には2人だけだ
「霊くん…離れないで…彼女、作らないで…」
「ど、どんな悪夢を見せられたんだよ…。離れないから泣くなって」
「彼女…いるのに…?」
「知っての通り彼女いない歴=年齢ですけど!?ほんとになんの夢見たんだよ!」
「だって…霊くん、夜斗の妹と…」
「だーかーらー!それ夢なんだって!俺は彼女いないから!」
「え…?夢魔の私が、悪夢を…?」
天音は置かれていた布で目元を拭う
元々化粧はしていないため躊躇いはない。それでいて容姿は優れている
化粧など必要ないほどに
「なんか、夜斗が天音のせいだーって逃げてったけど…」
「…そうなの。私、霊くん操って…夜斗を襲わせて…」
「なんでぇ!?」
「その…。夜斗を、殺せって…お父さんに…」
「…ほんとうか?」
「うん…。だから、仕方無く…」
「よかった…天音が直接やってたら、確実に殺されてたな…。死ぬのは俺だけでいい。死なないし」
天音は霊斗が吸血鬼であることを知っていた
だからこそ、操って父の命令を達成しようとしたのだという
「…天音。俺に彼女ができたら、そんな嫌か…?」
「嫌!絶対に!」
「…でも、好きな人はいるぞ…?」
「誰!?」
霊斗はベッドに座り、話し始めたときから座っていた天音を見た
「彼女になるかはわからないけどな」
「…彼女、できたら…なくしか…」
「大丈夫だ。離れることはないし」
「それじゃあ、彼女さんに悪いよ…」
「ああもう!俺が好きなのはお前だ、天音!」
天音の肩を掴んで霊斗は叫ぶ
驚いた顔をする天音に霊斗は言う
「いつからかお前を好きになって!夢の中で襲われたりして少し嫌だったさ!天音が嫌いとかじゃなくて、好きって言えないのにこんな欲を持ってるのかってお前に申し訳なくてな!それに俺は吸血鬼だし、天音と暮らしたら天音が可哀想だとおもった!けど今回の件で吹っ切れた、お前に迷惑かけてやる!」
霊斗は一息ついて天音から手を離し、夜斗に預けていた箱を取り出す
先程夜斗に無理を言って届けてもらったものだ
「天音。そ、その…付き合って…くれ」
霊斗が天音に渡そうとしていたのは、従者にするための指輪だ
永遠の命を与え、いつまでも主と共にあることを強制される
外すことは許されず、無理に外すと死ぬというもの
霊斗は、一生を捧げる覚悟を示した
天音がそれを知ってることを知りながら
「…うん、よろしくお願いします…!」
「よっしゃあああああ!って何で泣く!?」
「だって…夢だったから…!」
天音は霊斗に抱きついた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます