第11話
神機を叩き合わせる―――ことはなく、夜刀神は夜斗を抱きしめた
「夜刀神…?」
「私ははじめから、マスターの虜ですから。キスされなくても、これだけで…」
夜刀神の姿が消え、夜斗の手に握られる
漆黒の大剣・夜刀神と、純白のサバイバルナイフ・翠蓮
「こい、夜刀神」
夜斗の声に応えて、夜刀神が夜斗の手の中に召喚される
驚いた顔をした美羽を抱えたまま、夜斗は着水して水面に立った
「なん、で…」
「死神の力を封じただけで俺が何もできないとでも思ったか?」
歯を食いしばる美羽
夜斗は美羽と共に崖の上に戻り、駆け寄る鏡花に美羽を預けた
「…ばか」
「……ごめん」
「…こっちは一先ずどうにかなるか。霊斗、魔術で橋を燃やせ。あとは俺がやる」
「いやー…それがさっきから魔術が使えなくてな…」
「…ここは、私の能力以外が禁止されています。だから夜斗先輩も、死神化を保てなかったし霊斗さんも…吸血鬼化が解けているんです」
「…夜斗。白鷺のことは諦めよう。もう多分、無理だ」
「…橋に縛られてるだけならどうにかなるんだが…」
この場所は高度が下がれば下がるほど力が弱まる
それは先程夜斗が体験したことで、おそらく白鷺のいる場所はさらに能力が弱まることだろう
だからこそ、夜斗は困っているのだ
そのとき、全員の目の前を人影が通り過ぎた
「まだ一般人が!?」
「…これしきもできぬとはな。存外お前らの能力は未完成なようだ」
その人影は迷いなく崖から飛び降りた
夜斗は空を飛び、その人物を見下ろした
橋の足を蹴り壊し、白鷺を肩に担いで地上に戻る
「…お前は、誰だ?」
「俺は
「きさらぎ駅の…?」
「ああ。一先ずお前らを元の世界に返してやろう。その小娘に言いたいこともあることだしな」
如月が指を鳴らすと、周囲の景色が揺らいで消え、代わりに夜斗がよく知る最寄り駅が目に入った
「これは…」
「俺はきさらぎ駅と現実を行き来することが可能だ。お前らのように、手順を踏む必要はない。何故ならここが俺自身だからだ」
如月は少し不服そうに言う
スーツのような服装だが、ワイシャツは着ておらず、代わりにVネックシャツを着用している
そして謎のネックレスもしており、夜斗からは少し大人びて見えた
「小娘」
ビクッと震える美羽
如月はそんな美羽に近づき、目をキュッと閉じた美羽の前で手を振り上げた
「…え?」
「俺を支配してのけるとは、上出来だ。油断していたとはいえ、破壊してみせたのも腕が立つということだ」
如月は美羽を撫でた
だからこそ、美羽は驚きの声を上げたのだ
無理やり支配したにも関わらず、怒られるでもなく喜ばれるとは思いもしなかったのである
「なんで…」
「俺は怪異として最上位の能力を持つ。故に、本来であればその神機だけでは支配できん。お前自身、相当のポテンシャルを秘めているということだ」
「…如月とやらは、なんで生きている?美羽に壊されたはずだ。他ならぬ俺の指示で」
「ああ…あのときのジャックがお前か。なに、簡単なことだ。幻覚を操る俺があれしきで死ぬわけがなかろう?」
「なら、壊されたふりをしたのか…。何故そんなことを…?」
「お前が面白そうだったからだ。とりあえず小娘。今後は、上位の怪異を支配するのはやめることだな。もう少し練度を上げねばお前が死ぬ」
「そんなの、わかってた。けど…夜斗先輩が離れるのが、怖くて…」
美羽の声が徐々に萎む
如月は終始無表情のまま、座り込む美羽を立たせた
そして夜斗の前に移動し、拳を夜斗に向ける
「…?」
「契約だ。お前の持ち物になってやろう。その方が面白そうだし、何より俺のためになることだろう」
「…面白い怪異だな、お前。…で、どうやんの?」
「拳同士を合わせるといい。術式は俺がやろう」
「そうか」
夜斗は如月が突き出した拳に自分のそれを打ち付けた
魔法陣が足元に広がり、2人を囲む
それが腰ほどまで上昇し、分裂して3方向に回り始めた
「完了だ。指示をくれ、主よ」
「夜斗でいい。そうだな…美羽の手助けをしてやってくれ。ついでに鏡花もな」
「ふむ。なるほど、それはいい。小娘、よろしく頼むぞ」
「う、うん」
夜斗と霊斗はその場に如月・美羽・鏡花を残して立ち去った
これから報告書を書き上げるのだという
美羽はその後の対応を覚悟し、寂しげに笑った
「どうした、小娘」
「ううん…。これで、夜斗先輩とお別れっていうのが寂しくて…。鏡花、夜斗先輩をよろしくね」
「…美羽いないと、私は寂しい」
「…ふむ。どうやら、その心配は杞憂に終わりそうだがな」
如月は2人に聞こえないように呟き、口角をわずかに上げた
(粋な計らいをするではないか、夜斗よ)
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