第10話

3人が転移したのは、とある海岸だ

先程白鷺が発した霊力を辿り、夜斗の夜刀神が空間を繋げたのだ

いわゆる零時間移動。またはテレポート

霊斗が使うものは体力を浪費するが、夜斗のこれはリソースは魔力のみ

それも距離に応じて減るものではなく、極微量の魔力しか減らない



「…美羽」


「…鏡花、と…ジャック…」


【こんなところにいたか。人間がいなかったか?】


「あそこにいますよ。ほら」



美羽が示したのは、崖から下を見下ろしたところにある橋だ

その足に縛られていたのは、白鷺だ



「なんで助けないんだ…?」


「夜斗先輩言ってたじゃないですか。アレが消えれば、奏音さんと付き合う必要はない…って」


【まさかそのために一般人を放置したのか…!】


「はい。ああそうだ、私の細波について少しだけお話しますね」



美羽は座っていた崖から、浮かぶように立ち上がった

地面に降り立ち、ニッコリと笑う



「細波は、私が壊した怪異を再現・操作できるんです。十年前、私は死神として細波できさらぎ駅を破壊しました。なので、私はきさらぎ駅を操れるんです」


【…!じゃあ、白鷺をここに連れてきたのは…!】


「私です。邪魔は排除しないと、夜斗先輩は私と付き合ってくれないじゃないですか」



笑いながらそう言い放つ美羽

ゆっくりと手を差し出し、夜斗に向ける



「さぁ、夜斗先輩。これで邪魔は潰えます。私の手をとってください。九条奏音のことなんて忘れて、私と鏡花だけを愛してください」


【お前は…何をしたかわかっているのか!?】



夜斗は仮面を外し、死神化を解いた

そして美羽に詰め寄ろうと一歩踏み出したのを、美羽が遮る



「わかってますよ。これをやれば、私が夜斗先輩に嫌われることも。だから夜斗先輩。鏡花を、幸せにしてあげてくださいね」



美羽は神機を神機保管庫に戻し、一歩後ろに下がった

美羽の華奢な体が宙を舞う

夜斗は死神化を再起動して美羽を受け止めるために飛び降りた



(空中歩行が機能していない…!)


「ここは異能が使えないんです。まさか夜斗先輩が一緒に死んでくれるとは思いませんでした」



夜斗は美羽を掴んで引き寄せ、守るように抱きしめた

そして来る衝撃に備え…たところで何もできないため、ある種の覚悟を決める



《マスターに死なれると私も困るんですよ》



逆さになった夜斗に向けて歩いてくるのは、2人の少女

片方はよく聞く夜刀神の声をしており、容姿は大人っぽい

もう片方は大人しくはあるものの、どこか子供っぽさが動作の節々に残っていた



「…これは」


「時間停止だよ、マスター!久しぶりだね!」


「翠蓮…ということは、具現化できたのか」


「はい。死神の力が使えないとき、十年に1度だけ具現化できます。あまり話す時間はないので、手短にいきます」



夜刀神は夜刀神を構え、翠蓮はサバイバルナイフを構えた

夜斗の視界が暗転し、反射的に目を閉じた

目を開けるとそこは、神社の境内だった

2人の服装は巫女服。あどけなさが残る翠蓮と、完全に着こなし本職にさえ見える夜刀神が夜斗に切っ先を向ける



「マスターにはこの世界で、私たちを屈服させてください。細かい説明はあとです」


「…いいだろう。どうせ俺は神機…お前を使えないんだろ」


「もちろん私も使えないよん」


「だろうな。神機を使う神機に生身で勝つ、という試練か。悪くない」



夜斗は夜刀神と翠蓮を見据えて、体の力を抜いた

重力のまま、前のめりに倒れ始める

と同時に地面を蹴った


(速い…けど)


(対応できないほどではありませんね)


「霊桜流戦闘技法・バーストモード」



夜斗の呟きで魔力が活性化し、体を包む

瞬間、速度が倍以上に高くなり、容易に翠蓮の背後をとった



「…まず翠蓮」


「…え…?きゃああああああ!」



振り落とされた手刀が、翠蓮の頭部に大打撃を与える

頭を抑えてしゃがむ翠蓮の腕を掴み立たせ、2人を自身の神機としたときのように、キスをする



「…お手付きが早いね、マスター」


「お前が遅すぎるだけだ」



翠蓮が消えると同時に、夜斗の手には翠蓮が持っていたサバイバルナイフが握られていた

翠蓮の屈服に成功した、ということだ



「覚えていたんですね、マスター。神機を屈服させる…つまりは、私たちという神機おんなを落とす方法を」



夜刀神は無表情に言う

対峙する2人。夜斗は翠蓮に魔力を通わせる


清めの水が1滴、水面に落ちた

瞬間に2人は走り出し、その神機を叩き合わせる――――

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