第7話
休憩室はかなり充実している
100円均一の自販機や、カップ飲料の自販機
他にも栄養ゼリーの自販機がある
さらに仮眠用の寝袋も1000円程度で購入できるのだ
「と、こんな感じだ」
「お前もお人好しだなぁ。ほらよブラックコーヒー」
「飲めねぇよ。美羽、飲むか?」
「はい。ありがとうございます、夜斗先輩」
「買ったのは俺だけど…」
「夜斗先輩」
「そうすか…」
霊斗は一人、寂しげにコーラを飲んだ
話を終えた夜斗は自分用のコーヒー(激甘)と鏡花のオレンジジュースを自販機で購入し、丸机の前の椅子に腰を下ろした
「とりあえずわかるのは、夜斗先輩からしてみればその白鷺っていうのが消えればいいんですね」
「まぁそういうことだ」
美羽はクスッと笑い、夜斗の腕をつまんで目を見上げた
身長差の都合上仕方のないことだ
「すぐ、片付きますよ」
「だといいんだが…」
「美羽、独占禁止法に抵触してる。やーくんを離した上で、私に明け渡して」
「早いもの勝ち〜」
夜斗は笑って2人の後輩を眺め、霊斗は戯れる2人と兄か親のような顔で見守る夜斗を見て、フッと笑った
翌日。奏音の家の前についた夜斗は、背後に気配を感じていた
よく知る3つの魔力と、1人の人間
夜斗は死神のスキルの1つ、「マルチスコープ」を使って全員を視認した
マルチスコープは自分を見るアングルを変えると同時に、サーモフィルターなどの各種フィルターを適用することでマルチに使えるスキルだ
(霊斗と鏡花と美羽…そして白鷺、か)
後ろにいるのはその3人
そして玄関から出てきた奏音を含めると、5人がこの場にいる
(つけてくる…だろうなぁ…)
「おはよう、夜斗。よく寝れたかしら」
「楽しみで寝られなかったな。2時間くらいしか」
「大丈夫よ、私もそんな感じだから。今日は電車とバスよ。まぁ初めて使うけどなんとかなるでしょう」
「嘘だろお前今まで使ったことないの?」
「ないわ。基本的に送り迎えされてたし」
《庶民感覚皆無ですかこの人》
(夜刀神…。暇なのか?)
《暇です。あと嫌な予感がするので、接続しておいてください》
夜刀神に限らず、神機には意思がある
遠隔から所有者と話すことも可能な上、神機の能力だけを抜き出して放つこともできる
夜斗はやったことがないのだが…
「さ、行くわよ。時間はあるけど多いほうが楽しめるもの」
「そうだな。行くのはたしか、富士のテーマパークだっけ?」
「そうよ。夜斗が苦手な絶叫マシーン三昧」
「なんで苦手だって知ってんだよ(小声)」
「知ってるわよ。覚えてないの?(小声)」
「何をだよ(小声)」
「…なんでもないわ。ちなみにここから駅まではタクシー呼んであるわ」
「もう金持ちの発想だよそれは…」
夜斗は霊斗に思念による通信を送った
それはバイト先から提供された技術で、望んだ言葉を相手の鼓膜を魔力で震わせることにより伝えるというスキルだ
『霊斗。タクシーで駅だってよ』
『……な、なんのことだ?』
『見えてんだよ、マルチスコープで。あとで出してやるからその二人も連れて行ってやれ』
『チートすぎんだろその能力…。わかった、領収書出しとく』
思念通信を切り、到着したタクシーに奏音を乗せて自分も乗り込む夜斗
そしてマルチスコープで外を見ると、ちょうどいいタイミングで通りがかったタクシーに3人が乗り込み、白鷺は黒服に命じて車を呼んでいるらしかった
(思い思いの思惑があんのかね)
「夜斗、どうしたのよ」
「いや…なんでもない。お前の家の人はついてくるのか?」
「ついてこないでとはいったけど、多分くるわ。あと愛莉の妹…愛菜も来てるわよ」
「お荷物共め…。まぁいいや、楽しもうか」
到着し、奏音に連れられてほぼ全ての絶叫マシーンを乗り継いだ夜斗は…
ぐったりしてベンチに座っていた
「そ、そんな苦手だったかしら…」
「残念ながらな…」
カタパルトから飛び降りるのは慣れていても、絶叫マシーンは周囲の悲鳴や景色。それと同時に逃げられないという事実が恐怖心を煽る
普段生身で空を飛んでるが故の想いだった
「昔はもう少しいけたと思ったけど…(小声)」
「なんか言ったか?」
「なんでもないわ。夜斗は行きたいものないの?」
「そうだなぁ…」
ぐるっと見回した夜斗の目に映ったのは、一つのお化け屋敷だ
廃病院を改装したもので、バス以外交通機関がない最悪立地にこの施設がある理由の一つでもある
あの廃病院は、数十年前に廃墟になったもので、それをこの施設の支配人が買い取り、お化け屋敷を中心に施設を建てたのだ
「あのお化け屋敷だな」
「………。そ、そう…。わかったわ…行きましょう」
「怖いなら別のにするぞ?」
「ここ、怖いわけ…ないじゃない…。わ、私は九条家の人間よ…?り、リアルより怖いものはないわ」
(相当怖がってんな。面白い一面が見れた)
ふと、頭の隅に引っかかるものがあった
しかし夜斗はそれを無視して、ビクビクしながらもお化け屋敷に歩みを進めた奏音を追いかけた
「ひっ…!こ、こんなところにいるなんて、えええエンターテイナーね…」
飛び出してきたゾンビに驚き、夜斗にしがみつく奏音
夜斗は入口直前までとめていたのだが、謎のプライドで中に入った奏音だったが、どうやら怖いものは怖いらしい
「きゃっ!な、なに今の声…」
「廃病院だし、本物もいるかもな」
「こ、こわいこといわないでよぉ…」
泣き出しそうな奏音の手を握り、耳元で呟く
「俺はここにいる。だから、案ずることはない」
「そ、そうね…夜斗がいるもの…!」
持ち直した奏音があるき出し、夜斗を引っ張るように前を歩く
どうしても恐怖心が勝つらしい。早く抜け出すことに必死だ
「…?何これ…」
(人工濃霧…?今どきのお化け屋敷は演出すごいなぁ)
などとロマンチックのかけらもないことを考えていると、奏音の体から力が抜け倒れかける
夜斗は反射的に奏音の体を受け止め、顔色をうかがう
(脈拍安定。呼吸あり…正常。精神状態照合…過度の恐怖を確認。なんだ?)
夜斗が周囲を見回すと、目の前にいたのは下半身のない女
それと唐傘お化けとか言われる傘の付喪神と、火の玉が数個闇に浮かんでいる
(…悪いことをしたな)
夜斗は奏音をお姫様だっこで抱え、歩き出した
もはやお化け役のバイトや職員が奏音の心配をして話しかけてくる始末だ
「大丈夫です、ええ…私の彼女は強がりなだけで…」
そんなことを言いながら、受付に謝られながら夜斗は外に出た
すぐそこにあるベンチに奏音を横たえ、自分の膝に頭を乗せる
起きたのはそれから2時間後。閉園間近だ
「…おはよう、夜斗。恥ずかしい姿を見せたわ」
「おはよう奏音。まぁ、いいんじゃねぇか?可愛かったし」
「な、何が可愛いのよ…あの姿…」
起き上がった奏音は可愛いと言われた恥ずかしさか、先程までの醜態を恥じてか顔を赤らめ、横を向いた
「もうこんな時間ね。もう一個なにか行く?」
「奏音に行きたいやつがあれば行くか。ないならそろそろお前を送ってやらねばな」
「…存外紳士ね、夜斗。それと…その、ありがと…。ここまで運んでくれて…」
だんだん声が萎む奏音
夜斗はそんな奏音の頭を撫でた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます