第6話

夜斗のバイト先で言う、区画「R」

兵庫県のとある山の中で



「目撃情報はこのあたりか?」


「おう。手分けして探すか?それとも強制探知で認識させる?」



強制探知とは、吸血鬼のスキルの一つだ

任意の相手に自分を無理やり認識させるもの

それを用いて炙り出すことで、労力を減らすことになる



「…いや、お出迎えみたいだ」


【ァ…アア…】


「言語中枢異常確認。対象の脅威判定をD2からB3に更新。夜刀神」



神機が夜斗の呼びかけに答えて起動を完了させる

目の前にいるのは、白いワンピースのようなものに身を包んだ女だ

輪郭は薄れ、足はほとんど透明

ゆっくり、ゆっくりと夜斗に近づいてくる



「目撃情報は、周辺を通った学生の行方不明及び錯乱。行方不明者は助かる見込みはないな、多分」


「あの井戸の地縛霊だっけ?突き落とされた恨みでーとかいうやつ」


「ああ。行方不明者の遺体だけでも掘り出さなきゃならん」


「お待たせ。やーくん、早い」


「夜斗先輩お疲れ様です。遠いですね。カタパルトから飛び降りるなり空中飛行は私たちでもついていけません」



夜斗が振り返ると、そこにいたのは同じく死神の後輩2名

念の為、と派遣されたのだが、本来であればその必要はない

つまり、夜斗に実地訓練をやれという指示である



美羽みう、あの女をもう一度殺してみろ。あれは無限に増え、井戸から何度も蘇る。他の支部からの報告によると、最大で100体出てきたことがあるらしい。それを念頭に置くように。鏡花きょうかは逐次援護をしてやれ」


「わかりました。おいで、細波さざなみ


「きて、桜華剣」



2人は神機を召喚した

細波は蛇腹剣の形状をしている

そして桜華剣はなんの変哲もない日本刀のような形状だ



「…そういえば夜斗先輩、彼女できたんでしたね」


「何故知ってる。それがどうした?」


「まともな理由じゃなさそうだなと思っただけです。私はその怒りをこの怪異にぶつけます」



美羽が発する覇気は、夜斗よりも大きい

しかしそれは彼女の未熟さ故のもので、夜斗は魔力を完全に操作しているためそれが覇気として漏れ出すことがないだけである



「切り裂け、細波」



美羽の意のままに伸び、一人目を縦に真っ二つに切り裂く

と同時にその女は3体現れた



「…鏡花。斬撃を飛ばすやつは、森の中などの狭い場所では有効とは言い難い。木を切り倒し、視界を塞いでは意味がないからな」


「大丈夫。レーザーカノン使う」



鏡花が右側の1体に切っ先を向け、魔力を込める

そしてそれが閃光となり、女の胸を貫いた



「よし。ただ射程が長すぎるな。もう少し当たるギリギリにしないと…見てみろ」



その女の背後にあった木に、小さく穴が空いているのが見える

細く被害範囲の少ないレーザーカノンだが、高出力故に大抵のものは焼き貫いてしまう



「…気をつける。のと、あとで美羽がしてた話…詳しく聞きたい」


「わかったわかった。話してやるから集中しろ」



夜斗は一歩前に出た鏡花とは反対に、女に背を向けて霊斗の元に移動する



「しっかり教育してんだなぁ、おまえ」


「してるさ。お前もちゃんとやってるだろうな?」


「……一応(小声)」


「は?」


「相談させてくれ。吸血鬼と天使のハーフにどうやって教えたらいいんだ」


「…とりあえず吸血鬼の能力と使い方だな。効果的な方法と、応用。例えば斬撃飛ばすやつは魔力纏わせて切るやつの応用だし、レーザーカノンも同じ。そういうように、お前が普段使ってる魔術とそれの応用を教えてやればいい」


「魔術かぁ…。天使の力は?」


「夜美に聞いてくれ。あの人は死神と天使のハーフだから」


「りょーかい。サンキュ」



霊斗は少しだけ肩の荷がおりたかのように笑みを浮かべた

この場に霊斗の幼馴染がいたら飛びついていたことだろう

しかし彼女は霊斗が吸血鬼であることを知らない

夜斗が死神であることは知っているのだが…



「状況終了。井戸の破壊を確認しました、夜斗先輩」


「最後の一体、討伐。終わったよ、やーくん」


「上出来だ。…けどもう少し被害を抑えようか、美羽」


「蛇腹剣の特性上、こうなるのは仕方ありません」



見ると、木々はなぎ倒され井戸は粉砕されている

さらには少し外にある街頭までも切断され、あたりは闇に包まれていた



「蛇腹剣は両刃剣としても使えるんだから、鏡花みたいにレーザーカノンとか纏斬まといぎりを使うといい。特に狭いところなら、美羽の身軽さで翻弄しつつ切れるだろ」


「わかりました、改善します」



美羽はしっかりメモを取り、胸元のポケットに入れた

美羽も鏡花もそこまで胸があるわけではないため、霊斗が少しフッと笑った



「緋月さん、天音さんにバラしますよ?」


「ごめんなさいマジ勘弁してください」


「…変態真祖」


「その異名はちょっとよくわからないかな!」


「…今日はここだけか。じゃあ戻るぞ」


「…あ俺の魔術で?あれ時間をゼロにするだけだから、使用者はつかれるんだぞ?転移した分の距離歩いた体力を人数分消費して…」


「やれ」


「はい…」



霊斗の魔術により事務所の神機保管庫に戻った4人

ゼイゼイ言いながら、霊斗は牙装をしまった

死神3人は神機格納機に神機を置き、機械を操作してカバーを閉めて横にする



「ご苦労、霊斗」


「おまえ…あとで、覚えてろ…!」


「夜斗先輩。彼女について聞かせてください」


「ああ…いいぞ。休憩室行くか」



夜斗は2人の後輩と霊斗をつれ、神機保管庫の隣にある休憩室に向かった

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